【第20話:刀抜くとか物騒すぎ!まずはお団子食べな?】
抜かれかけた刀を団子で阻止するギャル女将(笑)。
ガチガチの武士の口に団子をぶち込むという前代未聞の暴挙に出ますが、これが驚劇の美味さで武士たちの心を揺さぶり始めます。
「――お上の厳かなる御改めの掟に口を挟むなど、言語道断!
万死に値する!
直ちにこの不届き者を搦め捕れ!」
ずらりと私を囲む突棒や刺股の鈍い光が、夕暮れの光を浴びて物々しく私を威圧する。
責任者である髭面の関所役人の目には、ガチの殺気が宿っていた。
張り詰めた空気が御関所を支配し、床に額を擦りつけている茂蔵さんと丸米屋の親父は、恐怖でガタガタと身を震わせている。
「ひ、ひえぇっ……!
お、お役人様、どうかお許しを……!」
「ヤバっ!
捕り物とかマジ物騒すぎなんだけど!」
その刹那、私は怯えるどころか、むしろ呆れ交じりの声を上げた。
そして、一歩も引かないどころか、さらに間合いを詰めたのだ。
「な、何っ……⁉」
武士が驚愕に目を見開くのと同時に、私は自分の片手をすっと伸ばし、彼が全部下に包囲の声を飛ばしようとしていたその手元へ、上からぽんと力強く触れた。
「き、貴様……何を……っ!」
「ちょっとおじさん、落ち着きなよ。
そんな物騒なもの振り回したって、誰もハッピーにならないじゃん?」
「お、お前、公儀の御関所を前にして、何を……」
「はいはい、怒る前にまずこれ!
懐からいいもの出しちゃうから!」
私は信じられないほどの至近距離と、我ながら圧倒的すぎるコミュ力をフル稼働させ、武士の威圧感を完全に無視した。
そのまま、懐から竹皮の包みを素早く取り出す。
中から現れたのは、道中のおやつとして新しく開発したばかりの、特製の『食べ歩きみたらし団子』だ。
醤油と砂糖のタレが夕日に照らされて、黄金色にキラキラと輝いている。
「おい、それは……団子……?」
あまりに予想外すぎる展開に、武士だけでなく、周囲を囲んでいた若い定番の役人たちまでが、一斉に彫刻のように硬直した。
「お腹減ってると、人間誰でもイライラするじゃん?
おじさんもさ、こんな埃っぽいところで一日中立ちっぱなしで、お腹ペコペコでしょ?
ほら、怒る前にまずはお団子食べな?」
「な、何を馬鹿なことを――むぐっ⁉」
声を荒らげようと大きく開いた武士の口めがけて、私は串から外したお団子を、ぽんと躊躇なく突っ込んだ。
「お、おい! お頭になんてことを!」
「曲者だ! それ、お頭から引き離せ!」
周囲の定番の役人たちが一斉に色めき立ち、刺股の柄を握り直す。
茂蔵さんたちにいたっては「もう終わりだ」と言わんばかりに白目を剥いて卒倒しかけていた。
だが、当の責任者である武士の動きは、完全に止まっていた。
「ご、ごくり……」
口の中に入った物体を、無意識のうちに咀嚼したのだろう。
彼の喉が大きく鳴った。
その瞬間、武士の切れ長な両目が、これ以上ないというほど丸く見開かれた。
「……っ!!」
彼の脳裏に、まるで稲妻が落ちたかのような衝撃が走っていた。
口の中に広がったのは、絶妙な甘じょっぱさと、信じられないほどのモチモチとした食感。
江戸時代の一般的な団子といえば、時間が経てば固くなり、ボソボソとした粉っぽさが残るのが当たり前だった。
しかし、この団子は違う。冷めても驚くほど柔らかく、なめらかに歯を受け止めてくれるのだ。
「な……なんだ、この柔らかさは……。
これほど贅沢に砂糖と醤油を絡めたタレ(餡)を、ただの団子に使うとは……。
ただの砂糖水ではない、この深いコクは一体……」
「ふんでふん、分かっちゃう?
それ、冷めても柔らかくて美味しいように、うるち米と糯米の配合を何回もテストして作った特製品んだよね。
タレにも、隠し味にほんの少しの水飴を混ぜて、艶とまろやかさを出してるの」
武士はハッと我に返ったように、自分の手元を見た。
いつの間にか、声を張り上げていた喉元の力が完全に抜けている。
構えられていた捕り物道具は、男たちの手元で所在なさげに下ろされていた。
「お頭……? その、本当に美味いので……?」
様子を伺っていた若い定番の役人の一人が、ごくりと生唾を飲み込みながら、羨ましそうに武士の顔を覗き込んだ。
見れば、他の定番の男たちも、竹皮に残ったお団子をじっと見つめて、完全に仕事の集中力を失っている。
「美味いっしょ?
これ、ウチの街の新しい特産品なんだ。
ねえおじさん、そんな怖い顔して旅人を脅してないでさ。
旅人さんたちにもこれ配ってあげたら、みんなハッピーじゃない?」
「旅人に、これを……?」
「そう!
『お疲れ様でーす! ようこそウチらの宿場町へ!』って笑顔でこれを渡すの。
そうすれば、手形のチェックを待ってる時間も、みんな楽しくお団子食べて待てるじゃん。
大渋滞のイライラも一瞬で消えるって!」
私の放つ圧倒的なポジティブバイブスと、理屈を超えた真っ直ぐな情け深さに、武士たちは完全にペースを狂わされていた。
お上に刃向かう不届きな小娘を成敗するはずが、気づけば胃袋をガッチリと掴まれ、強引にその懐に入り込まれてしまっている。
「……公儀の関所が、旅人に菓子を配るなど、前代未聞だ」
武士は腕組みをしながら、ふんと不機嫌そうに鼻を鳴らした。
だけど、その声からは先ほどまでの刺すような殺気は微塵も感じられない。
「前代未聞だからいいんじゃん!
『世界一優しい関所』って噂になれば、お上のおじさんたちの好感度も爆アゲだよ?」
「こうかんどう……?
ふん、お前という娘は、本当に調子の良いことばかりを……」
武士はそう苦笑しながらも、私の手から竹皮の包みをそっと受け取った。
その横顔には、カタブツな役人としての顔の裏に、どこか新しい風を受け入れようとする、柔軟な光が灯り始めていた。
打ち首になるところだった最悪の危機は、一本のお団子によって、信じられないほどの急展開を迎えたのだ。
私たちの仕掛けるバイブスは、ついに天下の関所の門番すらも、その渦の中に巻き込もうとしていた。
武士の胃袋を見事に掴みました!
しかし、肝心の「大渋滞」はまだ解決していません。
次回、ギャル女将が現代のテーマパークの知識を使って、関所のシステムを大改造しちゃいます!




