【第19話:関所のチェック長すぎ!マジキャパいんだけど】
今回は宿場町の入り口、関所の役人との全面対決!
チェックの遅さにブチギレたギャル女将が、ガチの武士を相手に「仕事遅すぎ!」と直談判に挑みます。
刀を抜かれかける超緊迫の展開です!
「――はぁ? まだあそこ? ちょっと、マジで言ってる?」
街道の入り口、宿場町の外れに位置する小高い丘から眼下を見下ろした私は、思わず頭を抱えた。
視線の先にあるのは、重々しい木造りの門を構えた街道の関所――御関所だ。
そこを起点として、旅人たちの気の遠くなるような大渋滞が、遥か彼方の山道まで蛇のようにのたくっている。
「おいおい、お嬢ちゃん。
そんなところで大声出すんじゃねえよ。
お役人に聞こえたらどうするんだ」
隣で荷車を引いていた旅籠『丸米屋』の親父が、怯えたように周囲を見回しながら私の袖を引いた。
「だって見てよ、丸米のオヤジさん!
あの一番前の人、もう一時間くらいあそこに留め置かれてない?
関所のチェック長すぎ!
旅人さんが可哀想だし、マジでキャパいんだけど!」
「キャ、きゃぱい……?
まあ、あそこのお役人は超が付くほどのカタブツだからな。
関所手形の文字一つ、印判一つを、それこそ穴が開くほど見比べる。
おかげで毎日あの大渋滞さ」
「ありえない!
せっかくウチらが街をお洒落にして、タピオカもパフェも用意して待ってるのにさ!
あんなところで何時間も足止めされたら、宿場町に着く頃にはみんなテンションダダ下がりじゃん!」
「それはそうだが……相手はお上だぞ?
取り締まりが厳しすぎるのは、俺たちの力じゃどうにもならねえよ」
「どうにかするの!
ちょっと、私、直談判してくる!」
「はあ⁉ おい、正気か!
お上に逆らうな!
戻ってこい、お嬢ちゃん!」
背後から響く親父の悲鳴のような制止を完全に無視して、私はダッシュで坂を下りた。
近づくにつれて、旅人たちのどんよりとしたバイブスが肌に突き刺さる。
みんな疲れ果て、地面に座り込んで溜息をついていた。
この死んだような空気、本当にもったいない。
私の辞書に「お上だから諦める」なんて言葉はないのだ。
関所の門をくぐり、威厳を放つ武士たちが並ぶ検問所の真っ只中へ、私は丸腰で堂々と乗り込んだ。
「ちょっと、おじさんたち!
仕事遅すぎ!
もっとサクサク進められないわけ⁉」
張りのある私の声が、厳粛な関所に響き渡った。
一瞬、その場の時が止まった。
関所手形を調べていた役人も、列に並んでいた旅人も、全員が我が目を疑うような表情で私を凝視している。
「な……なんだ、その方は。誰の許しを得てここへ入った!」
文机の向こうで書類を睨んでいた、一番偉そうな髭面の武士が、信じられないものを見る目で私を睨み据えた。
彼こそが、この御関所を守る超カタブツの責任者である関所役人だ。
「誰の許しとかじゃなくて、業務改善の提案に決まってんじゃん!
ほら、その手形チェックのやり方だよ。
一人一人にそんな時間かけてたら、日が暮れちゃうって言いたいわけ」
「な、何だと……?
業務……かいぜん……?」
「そう!
もっと効率よく、ササッと確認して、旅人さんを街に流してあげてよ。
みんな疲れきってて可哀想じゃん。
おじさんたちも、ずーっと座って紙見てるの、ぶっちゃけ肩凝るでしょ?」
「き、貴様……っ!」
責任者の武士の顔が、みるみるうちに怒りで真っ赤に染まっていく。
額に青筋が何本も浮かび上がり、その目は完全に据わっていた。
江戸時代において、神聖なる御関所は徳川の威光そのもの。
そこを「仕事が遅い」だの「肩が凝る」だのと言いたい放題に批判されたのだ。
彼らにとっては、命を賭けて守るべき公儀の秩序を、どこの馬の骨とも知れない小娘に冒涜されたも同然だった。
「無礼者――ッ!!」
地響きのような怒号が関所を震わせた。
「おのれ、ここを何処と心得るか!
天下の御関所、公儀の威信の場であるぞ!
そこな田舎娘が、お上の厳かなる御改めの掟に口を挟むなど、言語道断!
万死に値する!」
「え、いや、そんな怒んなくても……」
「黙れ! 直ちにこの不届き者を搦め捕れ!
お上の威光を汚した罪、即座に搦め捕り、牢へ叩き込んで死罪の沙汰を仰いでくれるわ!」
責任者のすさまじい一喝と共に、周囲の部下たちが一斉に突棒や刺股などの捕り物道具をガチで構えた。
――あ、これ、本気のやつだ。
周囲の空気が一瞬で凍りつき、鋭利な殺気が肌をチクチクと刺す。
並んでいた旅人たちは悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、関所は一瞬にして修羅場と化した。
現代の感覚でつい突っ込んでしまったけれど、ここは一歩間違えれば簡単に首が飛ぶ時代なのだ。
私の人生最大の危機が、今まさに目の前に迫っていた。
「ひっ……! お, お役人様、お待ちくだされ!」
その時、関所の外から必死の形相で飛び込んできた影があった。
茶屋の茂蔵と、先ほどの丸米屋の親父だ。
二人は私の前に割り込むと、床に激しく額を擦りつけた。
「この娘は、生まれついてのうつけ者、あるいは狐にでも化かされた狂女にごぜいやす!
決して公儀を侮る大それた心根はございませぬ! どうか、どうかお命だけは!」
「左様にごぜいます!
お上の御威光を知らぬ、無知な田舎おなごの不調法!
どうか、どうかこの通り、平に、平にお慈悲を!」
「どけい!
公儀の威信を汚した罪、看過できん!
そこを退かねば、お前たちごと搦め捕って容赦なく処断するぞ!」
武士の親玉の凄まじい眼光が、夕暮れの光の中で不気味に輝いている。茂蔵たちの必死の弁護も、火に油を注ぐだけだった。
私は、自分のために命がけで頭を下げてくれている親父たちの背中を見つめた。
恐怖で足が震えそうになる。
だけど、ここで私が黙り込んで、ただ許しを請うだけじゃ、何も変わらない。街の未来も、この人たちの努力も、全部あの大渋滞の向こうに埋もれてしまう。
「――待って。茂蔵さん、丸米のオヤジさん、顔を上げて」
私はすっと息を吸い込み、茂蔵たちの肩を叩いて前に出た。
そして、ギラギラした殺気を放つ武士の目を、正面から真っ直ぐに見据えた。
「おじさん。
お上の威信を守るのが仕事なのは分かった。
でもさ……旅人を苦しめるのが、本当にお上のやりたいことなの?」
「何だと……?」
「手形を厳しくチェックするのは、怪しい人を街に入れないためでしょ?
だったら、怪しくない普通の人を早く通す工夫をするのも、お上の優しさじゃん。
私は、おじさんたちをバカにしたんじゃない。
この街をもっと良くしたいから、一緒に考えてほしかっただけだよ」
私の言葉に、武士たちの動きがぴたりと止まった。
捕り物道具を構えた全部下たちの視線が、一斉に親玉へと集まる。
怒りで我を忘れていた彼の瞳に、ほんの少しだけ、当惑の光が混ざった。
捕縛を目前に控え、命の保証もない状況でありながら、一歩も引かずに「街のため、お上のため」だと訴えかけている。
その異様なバイブスに、カタブツの武士の心が、ほんの僅かに揺さぶられたようだった。
「お前は……命がけでそのような戯言を申すか」
「惜しいに決まってるじゃん!
超怖いよ!
でも、ここで諦めたらギャルが廃るから」
私は震える拳をぎゅっと握りしめ、不敵に、だけど最高の笑顔を作ってみせた。
ガチの殺気が渦巻く関所で、私と武士の視線が火花を散らすように交錯する。
この最大の危機を切り抜け、関所の高い壁をぶち破るための、本当の戦いが幕を開けようとしていた。
命がけの直談判!
刀を抜かれそうな大ピンチですが、ギャル女将の武器はコミュ力と美味しいご飯。
次回、激怒する武士の胃袋に、新開発の「食べ歩き団子」を突っ込んで懐に飛び込みます!




