【第17話:タピオカ団子の大行列に、頑固オヤジも大敗北】
お待たせしました、第3のスカッと解決回です!
ギャルのやり方にケチをつける古い旅籠のオヤジたちを、江戸版「タピオカドリンク」の圧倒的なクオリティと行列の現実で黙らせちゃいます!
「――おい! いるんだろ、出てきやがれ!」
旅籠の玄関口が、地鳴りのような怒鳴り声に揺れた。
私がのんびりと帳場から顔を出すと、そこには絵に描いたような「頑固オヤジ」たちが勢揃いしていた。
周辺の小宿を営む亭主たちだ。誰もが眉間に深い皺を刻み、腕組みをしてお怒りモードのオーラを隠しようともしていない。
「あら、みんなしてどうしたの? そんな怖い顔して、せっかくのイケオジが台無しじゃん」
「ふざけるな! お嬢ちゃん、お前が茶屋の茂蔵と企んでるくだらねえ見世物のせいで、宿場全体の品格がガタ落ちなんだよ!」
「そう頭の固いこと言わないでよ」
「言わずにいられるか! ギャルの真似事などできるか、とんでもねえ。あんな派手派手しい見た目で客を釣るなんて、この伝統ある宿場の品格を汚しているんだ!」
一番手前に立つ白髪交じりのオヤジ――旅籠『丸米屋』の親父が、私の鼻先に太い指を突きつけてきた。
他のみんなも「そうだそうだ!」と激しく同意して、大きく首を縦に振っている。
だけど、私はそんな彼らの剣幕を前にしても、まったく動じなかった。
むしろ、お腹の底から湧き上がるおかしさを堪えるので必死なくらいだ。
「品格ねえ……。ねえ、文句を言う前にさ、これ飲んでみてよ。マジで飛ぶから」
「……とぶ? なんだ、それは」
私はあらかじめ用意しておいた、いくつかの竹筒を彼らの前に差し出した。
太く削った竹の筒。その中には、新しく開発した、葛粉を使ってモチモチの食感を再現した特製の『タピオカ風ドリンク(黒蜜仕立て)』がたっぷりと注がれている。
もちろん、底に沈んだ黒い団子を吸い上げられるように、太めの竹の管もセットしてある。
「バカにするな! そんな怪しげな泥水、飲めるわけが……」
「いいからいいから。ほら、その竹の管をさ、口に咥えて思いっきり吸ってみて」
「う、うむ……?」
丸米屋の親父は「おい、飲むなよ」という周囲の視線を浴びながらも、目の前で行列を作る客たちの熱気に完全に圧倒されていた。
そう、私たちのいる旅籠のすぐ外からは、地響きのような賑わいが聞こえてきているのだ。
辰次さんの絵びら大作戦がハマりにハマった結果、コラボした茶屋の前には朝から大行列ができる事態になっていた。
その大行列の長さ、実に街道の先まで。文字通りの大爆発である。
背に腹は代えられないほどの圧倒的な売上の差を、彼らは今、嫌というほど目の当たりにしていた。
自分たちの古臭いやり方では客がまったく来ない。
その現実を思い知らされ、突きつけられているのだ。
ここは江戸時代。
当然、スマートフォンもなければ、インスタもエックスもない。
けれど、目の前にある大行列という現実だけは、何よりも雄弁だった。
「……じゃ、じゃあ、一口だけだぞ。お前たち、俺が毒見をしてやるからな」
丸米屋の親父が、ついに誘惑に負けて竹の管を咥えた。そして、おそるおそる、しかし意を決して一気に吸い込む。
ジュボッ、という小さな音と共に、黒蜜の液体と、数粒の黒い団子が彼の口の中に飛び込んだ。
「……っ⁉」
次の瞬間、丸米屋の親父の身体がビクンと跳ね上がった。
目を見開き、口をモグモグと動かしたまま、完全に硬直している。
その驚異的な美味さに、言葉を失って絶句してしまったのだ。
「お、おい、丸米の! しっかりしろ! やっぱり毒でも入って……」
「ち、違う……! 美味い……美味すぎるぞ、これ!」
「なんだと⁉」
「この、底に沈んでいる黒い玉の食感は何なんだ! モチモチとしていて、噛めば噛むほど滋味が染み出してくる。それに、この冷やした麦湯と黒蜜の濃厚な甘みが、その玉に絡み合って……。おい、お前たちも飲んでみろ!」
親父たちが我先にと竹筒を奪い合い、管を咥えて吸い込み始めた。
「ほ、本当だ……! なんだこの、喉を通り抜ける快感は!」
「葛粉でこんな食感が出せるのか⁉ ただの団子じゃねえ、これは極楽浄土の食い物だ……!」
さっきまでの威勢はどこへやら、親父たちは赤面しながら、夢中でタピオカ風ドリンクを啜り合っている。
自分たちが守ろうとしていた「品格」や「伝統」が、この一杯の、若者が作った圧倒的な「楽しさ」と「美味さ」の前に、ものの見事に大敗北を喫した瞬間だった。
「どう? ねえ、マジで飛んだでしょ?」
私がにやりと笑って小首をかしげると、親父たちは一斉に気まずそうな顔をして、お互いに目配せを始めた。
プライドが邪魔をしてなかなか言葉が出てこないようだけど、彼らの心はすでに決まっている。
このまま古臭い頑固さを突き通せば、自分たちの店は確実に潰れるのだ。
「……その、なんだ」
丸米屋の親父が、顔を真っ白から一気に真っ赤に染めながら、居心地悪そうに懐の手ぬぐいをいじくった。
「……その、お嬢ちゃん。いや、お咲さん」
「ん? なになに?」
「……その、作り方を教えてはくれまいか」
ついに言った。
他の親父たちも、恥ずかしさに耐えかねたように頭を下げてくる。
「頼む! このままじゃ、うちらの小宿は干からびちまうんだ!」
「俺たちも、その、お前の言う『えもい』ってやつをやってみたいんだよ!」
プライドを綺麗さっぱり脱ぎ捨てて、赤面しながら必死に教えを乞いに来る親父たち。
その姿は、なんだかちょっと愛らしくすらあった。
「ヤバっ! 最初からそう言ってよ!」
私はパチンと片目をウインクしてみせた。
「全員アゲてあげるからさ! みんなでこの宿場町、最強の最先端スポットにしちゃおうよ!」
「お、おお……! 頼む、女将さん!」
さっきまでの険悪なムードは一瞬で吹き飛び、旅籠の土間は一気に熱を帯びた談合の場へと変わっていった。
頑固親父たちの反発すらも取り込んで、私たちの仕掛ける大作戦は、さらに大きな渦となって宿場町全体を巻き込み始めていた。
うらびれていた街の一角に、今度こそ本物の、そして確実な変化の兆しが、満開の笑顔と共に花開こうとしていた。
頑固オヤジたちも、タピオカの美味さと売上には勝てませんでした(笑)。
次回、敵対していた中小旅籠の面々が、ギャル女将のタメ口マニュアルによって次々と覚醒!宿場町全体の売上が大爆発します!




