【第15話:茶色いご飯は禁止!映えスイーツでコラボっしょ】
今回は「宿場飯」の大改造計画!
真っ茶色な江戸初期のメニューに絶望したギャル女将が、地元の茶屋を巻き込んで「映えスイーツ」の開発に挑みます。
女の子も大人もときめく見た目を目指します!
「――ちょっと待って。嘘でしょ、これマジ?」
街道を吹き抜ける風が、埃っぽさと共に醤油の焦げた匂いを運んでくる。私は目の前に並べられたお膳を凝視したまま、こめかみを押さえた。
「おいおい、お嬢ちゃん。うちの看板の品を前にして、随分な言い草じゃねえか」
腕組みをして不機嫌そうに鼻を鳴らしたのは、隣のしけた茶屋の親父、茂蔵だ。
白髪交じりの頭に手ぬぐいを巻き、日に焼けた顔には長年商売を張ってきた頑固さが刻まれている。
だけど、そんな茂蔵の商人としての意地を差し引いても、この状況はスルーできない。
「茂蔵さん、怒らないで聞いてね。ここ、どこの茶屋に入ってもさ……」
「おう、どこも伝統の味を守って、旅人の疲れを癒やしてるさ」
「違うの! どこに行っても、塩辛い大根の漬物! 玄米! あと、この真っ茶色な川魚の塩焼き! 以上!」
「それがどうした。腹が膨れて、汗で流れた塩分が補える。完璧じゃねえか」
「完璧なわけないじゃん! 茶色ばっかでマジ映えなくない⁉ もっとテンション上がる見た目にしよ!」
「ばえ……? てんしょん……?」
茂蔵さんは、私が放った現代の単語に、あからさまに眉をひそめた。ここは江戸時代の宿場町。
私の感覚が異質なのは百も承知だけど、食べ歩き環境の調査を任された以上、この色彩の欠片もない惨状を放っておくわけにはいかないのだ。
「いい? 人はね、目でもご飯を食べるの。こんな泥水みたいな色合いじゃ、旅の疲れが倍増しちゃうって。だから、私とコラボしよ!」
「こらぼだか何だか知らねえが、うちは昔ながらの決まり切った飯を出してりゃいいんだよ。余計なお節介だ」
茂蔵さんはふいっと背を向け、やる気なさそうに煤けた柱に寄りかかった。
この宿場町全体に漂う、あきらめと惰性。
それを変えるには、言葉じゃなくて実物を見せるしかない。
「ふふん、そう来ると思って、これ持ってきてるんだよね!」
私は背負っていた風呂敷包みを、どんと縁台の上に広げた。中から現れたのは、私が旅籠の経営を成功させて手に入れた、超貴重な食材たちだ。
「おい、それは……ハチミツに、水飴じゃねえか! それにその卵、ずいぶん立派だな……」
「そう、これらを惜しげもなく投入します! 江戸の常識、今日でアップデートしちゃうから!」
「勝手に人の厨房を使うな! おい、待てって!」
制止する茂蔵さんをすり抜け、私は厨房へ滑り込んだ。
すり鉢で卵を丁寧に泡立て、ハチミツの優しい甘みを混ぜ込んでいく。水飴は弱火でじっくりと伸ばし、艶やかなソースに変える。
さらに、あらかじめ用意しておいた茹で小豆や、白玉粉を捏ねて作ったもちもちの団子。
「おい、お嬢ちゃん。何を作ってやがる。そんなに食材をごちゃ混ぜにして、まともな味になるわけが……」
「まあ見ててよ。ここからが、私の本領発揮なんだから」
私は棚の奥で埃をかぶっていた、少し深さのあるギヤマン(ガラス)の器を引っ張り出した。
「おい、それは亡くなったカミさんが大事にしてた、異国の器……」
「じゃあ、なおさら綺麗に使ってあげなきゃ。いくよ、第一層、白玉と小豆!」
「……ほう」
「第二層、ハチミツ風味のふわふわ卵焼きを細かく刻んだもの!」
「卵をそんな風に……?」
「仕上げに、水飴のソースを上からとろーり。核心の彩りにミント……じゃなくて、そこらの山で採ってきたクコの実をトッピング!」
器の中で、白、赤、黄色、そして優美な深い小豆色が、ガラス越しに美しい層をなしていた。
現代で言うところの、和風パフェ風かん味。江戸初期のこの時代には、天地がひっくり返っても存在しない見栄えだ。
「はい、完成! 題して『最強の宿場スイーツ・極み』!」
「な、なんだこれは……。こんな奇妙なもの、売れるわけがねえ。菓子ってなぁ、旅の足軽どもが腹を膨らませるための餅や団子と決まってらぁ。こんな軟弱な形をまねてどうする」
「能書きはいいから! ほら、おじさん、スプーン……じゃなくて、匙でいってみて!」
私は茂蔵さんの手に匙を握らせ、器をぐいっと押し付けた。
茂蔵さんは、まるで怪しい毒物でも見るかのように顔をしかめながら、おそるおそる匙を差し込んだ。
白玉、小豆、卵、そしてハチミツと水飴が混ざり合った部分を、すくい上げる。
「……一応、食ってやる。食って、大失敗だってことを教えてやるからな」
覚悟を決めたように、茂蔵さんがそれを口に運んだ。咀嚼した瞬間、彼の動きがピタリと止まる。
「……っ⁉」
「どう? 美味しいでしょ?」
「……なんだ、これは。甘みが……ただ濃いだけじゃねえ。ハチミツの香りが鼻に抜けて、その後に水飴のまろやかさが追いかけてくる。それに、この卵のふわふわした食感と、団子の歯ごたえが、口の中で代わる代わる……」
「でしょ? 美味しいものは、裏切らないの」
「……美味い。悔しいが、めちゃくちゃに美味い。なんだこれ、俺は今まで何を美味いと思ってたんだ……」
茂蔵さんは言葉を失い、夢中で匙を動かし始めた。器が空っぽになる頃には、最初のみすぼらしい頑固親父の顔は消え失せ、一人の職人、いや料理人としての目が輝いていた。
「お嬢ちゃん……いや、お咲さん。これ、どうやって盛り付けたんだ? 俺がやったら、きっとただの泥団子になっちまう」
「味はバッチリだし、あとは見せ方っしょ! いい、茂蔵さん。器の選び方から教えるね」
私は茂蔵さんの横に立ち、空の器を指差した。
「まず、このガラスの器ね。横から見た時に『層』が見えるのがエモいの。だから、色の濃い小豆の隣には、絶対に白い白玉を置くこと。そうすれば、お互いの色が引き立つでしょ?」
「なるほど……。色の取り合わせで互いを際立たせるってわけか。ギヤマンの横から中身を見せるなんざ、考えたこともなかった」
「そうそう。あとね、上には少し空間を残して、高さを出すように盛り付けるの。人間、上に伸びてるものを見ると、それだけでテンションが上がる生き物だから」
「高さを出す……。ただ平皿に盛るのとは、受ける印象がまるで違うな。すげえ、これなら俺でも……」
茂蔵さんの目が変わった。
それからの彼は、まるで取り憑かれたように試作を繰り返した。
「これだと色が足りねえか?」「白玉の大きさを揃えた方が綺麗だな」と、自分からどんどんアイデアを出してくる。やる気のない茶屋の親父は、もうどこにもいなかった。
「よし、茂蔵さん! 中身は完璧。次は、お店の外観をアゲていくよ!」
「おう、何でも言ってくれ! どうすりゃいい?」
私たちは、薄暗かった茶屋の店頭に大改造を施した。
煤けた暖簾を新調し、手書きで可愛らしい文字の看板を掲げる。
街道からよく見える位置に、先ほどの『パフェ風かん味』の見本を皿盛りにして商い台へ据えた。
通りかかる旅人たちが、一人、また一人と足を止める。
「おや、なんだいあの綺麗なものは?」
「ガラスの器に入ったお大尽の食べ物かい? いや、値段は手頃だぞ」
「ちょっと、寄っていってみない?」
ざわざわと、店の前が活気づいていく。
地味で、ただ通り過ぎるだけだった茶屋の店頭が、いま流行りの華やかな『水茶屋』そのものへと生まれ変わっていく瞬間だった。
「茂蔵さん、お客さん、めちゃくちゃ見てるよ!」
「ああ……信じられねえ。うちの店が、こんなにキラキラして見えるなんてな」
茂蔵さんは、新しくなった暖簾の隙間から外を眺め、嬉しそうに目元を拭った。
「さあ、街をアゲらための『最強の宿場スイーツ』、ここに完成! 茂蔵さん、売り出しの準備はバッチリ?」
「おうよ! 旅人の度肝を抜いてやるさ。へい、いらっしゃい! 美味くて綺麗なかん味、あるよ!」
江戸の街道に、新しい風が吹き抜けた。私たちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
美味しそうで映えるかん味が爆誕しました!
これをどうやって広めていくのか、次回は江戸時代のメディアを巻き込んだ、ギャル女将流の「最新バズマーケティング」が火を噴きます!




