【第14話:うちが満室でも、街が暗きゃ意味なくね?】
第2部「宿場町プロデュース編」スタートです!
自分の旅籠がホワイト化したら、次は街全体をアゲていくのがギャル女将クオリティ。
まずはどんよりした宿場町へ元気にお出かけしちゃいます!
「いらっしゃいませー! 今日も元気にハッピーにいってらっしゃい!」
ウチの旅籠の薄暗かった土間は、今や朝から旅人たちの弾けるような笑い声で満ちあふれていた。
ひだ飾りや紐飾りがお洒落に揺れる、お揃いの愛らしい召し物に身を包み、ふんわりとした『盛り髪』を揺らすきよたちが、極上の笑顔でお見送りをする。
交代でしっかり休む『こうたい働き』のおかげで、従業員のバイブスは常に満タン。
大文字屋の藤右衛門による食材の囲い込み工作をぶち破って爆誕した『大豆とハチミツの和風パフェ』は、今や街道筋の伝説となり、おじいちゃんの宿は連日満員御礼の大繁盛が続いていた。
「いやぁ、本当にお咲さんのおかげで、うちの宿の中はいつも最高にアガる空間だね!」
下男の佐助がピカピカに磨き上げた大黒柱の傍らで、しゃきっと姿勢を正して誇らしげに胸を張る。
だけど――私はふと、大きく開け放たれた格子戸の向こう、表の街道へ目を向けた。
「……んー。なんか、一歩外に出ると空気重くね?」
私が勝手口から通りへと足を踏み出すと、そこにはウチの賑わいとはあまりにも対照的な、うらびれて活気のない宿場町全体の暗い光景が広がっていた。
隣の茶屋の親父は暖簾の陰で深くため息をつき、向かいの小宿の亭主も、下を向いてどんよりとした空気を漂わせている。
街道を歩く数少ない旅人たちも、肩をすくめて暗い顔をしていた。
「お咲さん、どうしたのですか? そんなに険しい顔をして」
「ねえきよ、ウチの店がどれだけ満室でハッピーでもさ、街全体がこんなにお通夜状態だったら全然意味なくね? 歩いてるだけでテンション下がっちゃうじゃん」
「それは……仕方がないのです。最近は特に関所の取り傷まが厳しすぎて、手形の改めにも何日も待たされるとかで、旅人自体がすっかり減ってしまいましたから。どこの小宿も茶屋も、明日の米にも困る始末で、お上の厳しい御定めを恐れながら、ただその日を生きるだけで精一杯なのです……」
きよは悲しそうに目を伏せた。
関所の理不尽な締め付けと、それによって干からびていく宿場町。
街全体が、地獄のような義務感だけでギリギリ回っている。
その閉塞感が、私のギャル魂を猛烈に刺激した。
「ハ? 関所が厳しいからって、街ごと死んだ目になるとかマジでイミフ。旅人が減ってるならさ、来てくれた貴重なお客さんを、街全員の最高のテンションでお出迎えしなきゃダメじゃん! 決めたわ。ウチ、この宿場町ごと丸ごとプロデュースしちゃう!」
「ぷ、ぷろでゅーす……? またお咲さんの難しい言葉が始まりました……」
「要するに、この街のバイブスをウチらが一気に爆アゲするってこと! まずは手始めに、挨拶から敢行っしょ!」
私は団十郎茶の着物の袖をグッと捲り上げると、勢いよく街道の真ん中へと飛び出した。
「おはよーございまーす! 今日も一日、アゲていきましょー!」
通りに響き渡る、私の無駄にデカい声。
すると、向かいの小宿のオヤジがびくついたように顔を上げ、怪訝そうな目を向けてきた。隣の茶屋の親父も、暖簾から首を伸ばしてヒソヒソと囁き合う。
「おい、見ろよ。またおじいちゃんのところの、あの狂った小娘が何か始めたぞ……」
「先祖代々の仕来りに背いて奉公人を甘やかしていると思えば、今度は街道の真ん中で大声かい。お役人様に見咎められたらどうするんだ」
冷ややかな視線と、突き刺さるような陰口。
けれど、そんなだるい拒絶くらいでめげるウチじゃない。私はへっちゃらな顔でケラケラと笑い、親指を力強く立ててみせた。
「おじさんたち、そんなしけた面してたらハッピーが逃げちゃうよ! ウチらの旅籠だけが勝ち組になってもつまんないじゃん。みんなで一緒にアガろうよ!」
「何をわけの分からんことを……。お前さんのところは大文字屋の若旦那を味方につけて仕入れも困らんのだろうが、おれたち小宿は、明日出す飯の食材すらまともに手に入らんのだ!」
向かいの宿の亭主が、恨みがましい声を張り上げた。
大文字屋の藤右衛門が仕組んだ食材の買い占めは、ウチが余り物の大豆で大逆転したことで無意味化したが、周囲の小さな店への圧迫としては未だにじわじわと効いていたのだ。
「あー、やっぱりそこがネックなわけね。食材がないから、おおもてなしもクソもない、と」
私は腰に手を当ててフムと顎をさすった。
街全体をハッピーに変える計画の、記念すべき第一歩。
そのためには、この宿場町共通の弱点である「食」のインフレを、ウチらのクリエイティブで改革するしかない。
「よし、きまりきっしょ! おじさんたち、食材がないならさ、ウチが余り物から最高の価値を生み出す『魔法の技法』、全員にタダでシェアしてあげる!」
「な……技法を、他人に教えるだと!?」
茶屋の親父がひっくり返ったような声を上げた。江戸初期のこの時代、料理や商売の仕込みは身内だけの秘伝であり、他の宿や店に無償で明かすなど、正気の沙汰ではなかった。
「そうだよ! ウチらの大豆スイーツの作り方も、出汁の取り方も、全部ガッツリ教えちゃう。みんなの店の飯が美味くなれば、関所を越えてきた旅人が『あの宿場町、マジで飯が美味くて最高にアガる!』ってなって、街ごと大繁盛するでしょ? これがウチの、宿場町丸ごとアゲアゲ大作戦だから!」
私が不敵にウィンクを飛ばすと、小宿のオヤジたちは呆気に取られたように口をパクパクと動かした。
一つの旅籠の完全ホワイト化を成し遂げたギャル女将の視線は、今や封建社会の暗い常識を置き去りにして、街道全体の未来へと真っ直ぐに向いていた。
前代未聞の宿場町大プロデュース計画が、今、熱いバイブスとともに幕を開けるのだった。
お読みいただきありがとうございます!
街全体のどんより空気にブチギレた女将。
次回、江戸の地味すぎる「宿場飯」にギャルの超絶ダメ出しが炸裂!歴史を変える(?)新メニュー開発が始まります。




