【第13話:ブラック旅籠、完全ホワイト化達成!】
第1部、ついに堂々の完結です!
ブラックだったボロ旅籠が、ギャル女将の手によって完全にホワイト化し、最高のハッピーを掴み取ります。
みんなの眩しい笑顔を、ぜひその目でご覧ください!
「お咲殿! 今日も上方の最新の動向について、ぜひ、ぜひともこの新次郎に教えを乞いたい!」
正面の頑丈な格子戸が、ガラガラと小気味よい音を立てて勢いよく引き開けられた。
うららかな朝の光を背負って土間に滑り込んできたのは、上質な絹の着物を一分の隙もなくきっちりと着こなした若者――大宿『大文字屋』の若旦那、新次郎だ。
かつてはウチの旅籠を内側から叩き潰すために、冷酷な親父の藤右衛門から送り込まれたお堅いスパイだった男だが、今やその面影は微塵もない。
「ちょっと新次郎、おはよ! 朝からマジで前のめりじゃん。バイブス高くて結構だけどさ、ウチ、今からきよたちの盛り髪の最終チェックだから、ちょっとそこに座って待っててね」
「おお、盛り髪! あれこそ街道筋の旅人たちの、いや、お泊まりの御客の心を一瞬で奪い去る天下無双の『粋』……! 実に素晴らしい、実に美しい! お咲殿、ぜひその最先端の技法、我が大文字屋の奉公人どもにもお教えいただきたい。あ奴らの髪型は野暮でいかんのです!」
「あはは! 新次郎、完全にウチらのガチ勢じゃん。実家のことディスるとかマジウケるんだけど!」
私が腰に手を当ててケラケラと笑うと、新次郎は一瞬だけきょとんとしたが、すぐに嬉しそうに顔を熟したほおずきのように真っ赤に染めて何度も頷いた。
「ガ、ガチゼイ……? うむ、よく分からぬがその響きすらも実に心地よい! お咲殿の言葉のすべてが、私の胸を激しく揺さぶるのだ!」
彼が実家に戻り、若旦那としての威厳と立場をフル活用して、親父が裏で仕組んでいた卑劣な仕入れの差配や、汚い食材の買い占め工作を身を賭してねじ伏せてくれたおかげで、大宿からの理不尽な嫌がらせは完全にストップした。
それどころか、新次郎は毎日のようにこうしてウチのボロ宿へ通い詰め、大福帳を片手に経営の相談をしてくるようになったのだ。
その結果、この宿場町のパワーバランスは一変した。
かつてお上の影と本陣の権力に怯え、息を潜めていた小さな旅籠たちが、こぞってウチのやり方を頼るようになり、おじいちゃんのボロ宿は、今や誰もが認める『街道一の人気宿』へと大成長を遂げていた。
「あの……お咲さん、新しい仕立てのひだ飾りの加減、これで本当に大丈夫でしょうか……?」
襖の陰から、きよが照れくさそうに、けれどどこか嬉しそうに顔を出した。
頭上には、昨日ウチが夜なべして作った、手作りのキラキラしたデコ髪飾りが日の光を浴びて美しく輝いている。
「ちょっと待って、きよ、マジで超かわちい! フリルのボリュームも完璧だし、盛り髪の角度もガチでネ申! 今日の接客バイブスも完全に爆アゲ状態だね!」
「あ、ありがとうございます、女将さん! お咲さんにそう言って、太鼓判を押してもらえると……なんだか、すごく胸が張れる思いがいたします!」
きよはカサカサに荒れていた手を胸元でぎゅっと握りしめ、満面の笑顔を咲かせてハキハキとした声で答えた。
かつて義務感だけで動いていた、あの死んだような目はもうどこにもない。
すると、厨房の方からも賑やかな声が響いてきた。
「よし! 今日も汲みたてのキンキンに冷えた井戸水で、ギヤマンの器を最高の状態に冷やして待機させてやすぜ、女将さん!」
下男の佐助が汗を拭いながら、土間の奥から元気に声を張り上げる。
「佐助、洗う手際も爆速じゃん! 最高!」
「へへ、お任せくだぜぇ! しっかり身体を休ませてもらってやすから、いくらでも動けやす!」
「お咲様、大豆の煎り具合、今日も神がかっておりますぞ! ハチミツとの絡みも絶妙、これなら今日の旅人どもも一噛みで骨抜きにできまする!」
料理長までもが、真っ白な湯気の中で誇らしげに腕を振るい、包丁を握る目に職人としての強い矜持を宿らせていた。
かつて過酷な年中無休の24時間労働と、暗いしきたりに絶望し、ただの牛馬のように使い潰されていた従業員たちは、今や見違えるほど生き生きとした笑顔で、自分の仕事に楽しさと誇りを持って自発的に現場を回していた。
「……信じられん。本当に、夢を見ているようじゃよ……」
帳場の奥で分厚い大福帳を広げていたおじいちゃんが、ぽつりと呟いた。その白く細い手はもう震えていない。
かつてのガタガタで埃っぽかった帳場には、今や宿場町中の小旅籠から届いた、感謝の文や商売の相談事が山のように積み上がっていた。
「おじいちゃん、また帳場の隅でエモくなってんの? 大福帳が涙で滲んじゃうから、泣くなら手ぬぐい使いなよ?」
「な、泣かずにいられるか……っ! お前が導入した『こうたい働き』の仕組みや『お八つの休み』、速度抜群のあの可憐な召し物は、今や周囲の小旅籠からも『ぜひ真ネをしたい、教えてくれ』と懇願される、宿場全体の憧れの的じゃ。お上の御定めに背くどころか、皆がハッピーに働いて、街道全体が活気に満ち溢れておる……」
おじいちゃんは算盤を置くと、溢れ出る涙を袖で拭うこともせず、じっと私を見つめた。
「これはまさに、お上から天下無双の御墨付きを賜るに相当する、前代未聞の大偉業じゃよ!」
おじいちゃんは立ち上がると、よろよろとした足取りで私の元へ歩み寄り、その細い両腕でギューッと私の身体を抱きしめた。
「お前は、我が家の、いや誰よりも誇らしい自慢の孫娘じゃ……。このボロ宿を、いや、絶望に満ちていたこの宿場町を救ってくれて、本当に、本当にありがとう、お咲……っ」
おじいちゃんの温かい涙が私の肩の着物にじわりと染み込んでいく。
そのぬくもりと、言葉に込められた本物の情愛に、私の胸の奥もじわいと熱くなった。
気がつけば、土間にはみんなが集まっていた。
「女将さん、本当に、本当にありがとうございました……!」
きよも、佐助も、料理長までもが、溢れる感謝の涙を浮かべて私を見つめていた。
かつてブラック企業の極みだった暗い地獄の旅籠が、今、完全にホワイトな楽園へと生まれ変わった。
その圧倒的な達成感が、私の心を満たしていく。
けれど、ここで満足して立ち止まるようなウチじゃない。
「みんな! エモくなって泣くのはまだ早いって! ほらほら、涙拭きなよ!」
私はおじいちゃんの身体を優しく引き離すと、みんなに向かってとびきり元気なピースサインをビシッと正面に決めた。
「みんなのバイブスが上がって、ウチも超ハッピー! でもさ、ウチらの伝説は、まだ始まったばっかりだからね!」
「え……? 女将さん、まだ、何が始まるのですか……?」
きよが涙を拭いながら、不思議そうに目を丸くして私を見上げる。
新次郎も「ほう、次なる一手か!」と大福帳を強く抱きしめて身を乗り出した。
私は腰に手を当て、開け放たれた格子戸の向こうに広がる、どこまでも大きな青空を見据えて、不敵に、最高にアゲアゲな笑顔を浮かべた。
「きまりきっしょ! ウチらのホワイト化計画、次はウチの旅籠だけじゃなくて、この街道筋、いや、江戸時代全体の宿場町をまるごとハッピーに塗り替えちゃうに決まってんじゃん! ダサい大人たちのカビの生えた古いルールなんて、ウチらの最強のバイブスで、全員まとめて上書きしにいくよ!」
「「「おお記おおっーーーーーー!」」」
厨房に、土間に、力強い大歓声が、澄み渡る街道の空へと響き渡る。
現代のギャルマインドを引っ提げた新米ギャル女将の世直し劇は、一つの旅籠を『情味あふれる極楽の宿』へと生まれ変わらせた大勝利を越えて、時代そのものをアゲアゲに変革するさらなる大冒険へと、元気いっぱいに幕を開けるのだった。
第1部をお読みいただき、本当にありがとうございました!
無事に旅籠を救ったギャル女将、次なる舞台は「宿場町全体」のプロデュースです!
第2部もアゲアゲでいきますので、引き続き応援よろしくおねがいします!




