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第九話 王都への道

森から帰還したアルトに王都からの書状が届く、そこに書かれていたのは、7日に以内に王都へ出頭せよという令状だった。

夜、アルトは悩んでいた。

思い当たる節があるといえば、魔物を派手に倒した事だが…いくらなんでも早すぎる。

討伐してから1日、昏倒して3日、そして今日…5日で王都がこの件を把握し、書状を作り、送ってきた…。

書状に特に怪しいところはない、魔力も感じない。

間違いなく王都からの書状だ。

王都がよほど追っていた魔物だったのか…あるいは…。

「傀儡」

「根回しが早い」

「先手を取られたか」

「力は武力のみにあらず。」

「盤面不利」

アルトは悩んだ。

「黒ローブはもう王都の上層部に入り込んでいて、誰かを傀儡にしている可能性がある…。」

敵の懐に飛び込むのはリスクが高い、しかも公権力を掌握されていては、冤罪を吹っ掛けられれば負けだ。

「でも…」

母や村の人々、村長、俺がここで逃げれば反逆罪でこの片田舎は王立騎士団に粛清される…。

そうなれば火の海だ…何も残らない。

俺は…リスクを承知で王都の命令に応じるしかない。

「勘違いの場合は」

「悲観的」

「感謝される可能性」

「楽観視し過ぎでは?」 

アルトはさらに頭を抱える。

「勘違いの可能性もある。王立騎士団が注視していた要討伐モンスターだった場合、周辺の安全を守ったということで、王都での待遇は良くなる。」

「書状がすぐに作成されるくらい注視していたモンスターの討伐とあれば、一目置かれる存在になるだろう。」

「そうなれば、要討伐モンスターを倒す戦力として扱われる…。」

「戦力として各地を回るなら路銀の心配もなく、情報収集には都合がいい。」

「困難度の高い魔物と当たり続ける…下手したら死ぬ…。」

「いっそ村ごと転移させて、別の大陸の奥地に結界を貼って隠れ里にして安全に過ごす…。」

…できるか?

頭のなかの俺たちが答える。

「できる。」

「村民は安全。」

「隠れて過ごすのか。」

「逃げるのか。」

議決権で力が使えれば…できるらしい。

「多数決もなんとかなる…皆俺だ、世話になった人たちを見殺しにする真似はしない…。」

どうする?俺一人で決めるには…不安だ…。

「多数…」

そう言いかけて、アルトはやめる。

俺は俺の意思で決める。

今を生きる、世界を巡る、一々決断を過去の俺たちに委ねるな。

今生きている俺が…俺が決める!

「行こう、王都へ。」

「黒ローブをの情報を追う。」

「罠でも、粛清からこの村を守る。」

「俺は、逃げない。」


ーーーーーーーーーー


3日後、王都への旅立ちの日。

旅立ちを決めたその日の夜から、魔法と剣の修練を急いで積んだ。

初日は魔法、2日目は武術、3日目は道具作成…。

体組織を魔力に変え続け、傷つく先から治し、不眠不休で身体に覚えさせた。

修練の間は、思い出したくもないくらい、時間の流れが曖昧だった。

やらなきゃいけないことをやってるはずなのに、気づいたら深夜になっているような…。

そんな感覚だった。

不眠不休の甲斐あってか、及第点と過去の俺達に言われる程度の実力は得られた。

「無事で帰ってきてね、アルト。」

「ご飯ちゃんと食べて、栄養のあるものとってね。」

母が不安そうに俺に言葉をかける。

「あぁ、大丈夫、気をつけるよ。」

「王都は最近、政変があってからあまり評判が良くない、くれぐれも気をつけるんだぞ。」

村長は毅然としているが…言葉の節から不安が伝わる。

「数日ですぐに帰ってくれると思いますよ。」

村民から口々に声をかけられる。

「道中気をつけろよ」

「呼んどいて護衛もなしとは王都もケチだよな」

「ここは俺たちが守る、心配するなよ。」

「じゃあ…いってきます!」

大手を振ってアルトは村の正門から王都へ向けて踏み出した。



ーーーーーーーーーー


街道を歩く、王都はここからさほど遠くはない。

「日暮れまでに水源を確保しろ。」

「中央を歩くと馬車にひかれる。」

「端を歩くと、盗賊に草むらへ引き込まれるぞ」

「どこも歩けないだろ!」

…真ん中を歩いているのか、端を歩いているのか…曖昧になってきた…。

街道の真ん中で膝をつく。

魔力と体力は全開しているが、精神力が削れ、気力が尽きると短期的な疲労が抜けにくくなる。

「早く立て」

「格好の獲物」

「精神は筋肉に宿る」

小うるさい筋肉な俺にツッコミを入れる気力も起きない…。

まずい、一度休まなくては…。

「おい、あんたどうした?」

麻布の服をまとったヒゲのオヤジ…。

その後ろには馬……荷馬車の集団だ。

…旅団か?

「見たとこ、20もいかない子どもじゃないか。」

「家出息子か?家族が心配するぞ…。」

「俺は…人から頼まれて王都へ行く途中。」

「どうしても行かなきゃいけなくて。」

荷馬車のオヤジは納得いった様子だ。

「そうか、お使いかぁ、最近じゃ魔物がよく出るって噂を聞く。」

「体力のない老人たちより、お前みたいな若いのが行ったほうが良いんだろう。」

…嘘は言ってない。

令状の件は迂闊に話すとトラブルを招く。

一般の旅人を装ったほうがいい。

「なら王都まで乗っていかないか、ちょうど俺たちも王都行きでね。」

「各地で仕入れた商品をちょうど卸すとこなんだ。」 

「見たところ、旅と戦闘の準備はしてるみたいだし、護衛してくれれば街まで送ろう。」

「うちもお前も護衛の数が多いほうと、お互い安全だろう。」

ありがたい提案だ。だが、頭の中が騒がしい。

「商人は信用ならん。」

「貸しはタダより高くつくぞ。」

「商人なら情報を集めるのに丁度いい。」

「王都の近況を知るのは大事。」

「野盗は最初、親切に接するものだ。」

俺はすぐに返事をせず、荷馬車の列を観察する。

「正面、二台目の荷車を見ろ。」

商人だった俺の声に従い、視線を向ける。

車体の側面に、麦穂と天秤を組み合わせた木札が打ち付けられていた。

「あれはこの世界の、商業ギルドの通行証だ。」

「偽物の可能性は?」

「焼き印だけなら偽造できるだろうが、あれには魔力で印を重ねて作られている。」

その言葉を聞いて、魔力の流れを意識して目を凝らす。

木札の内側に、王都の文様が金色に浮かんでいた。

「…本物だ。」

だが、通行証が本物だからといって、盗品の可能性は捨てきれない。

「馬を見ろ。」

狩人と馬の世話をして過ごした農場の俺が促す。

「蹄鉄の減り方が均等で、それに馬具も身体に合っている。」

「馬の毛艶も悪くない、十分な水も積まれてる大事にされている証だ。」

「奪った馬車なら、馬具の寸法が馬に合っていないことが多い。」

「最後に荷台だ。」

盗賊と闇商人の俺が話を続ける。

荷台には商品だけでなく、老夫婦と幼い子どもを連れた母親が乗っていた。

「老人は奴隷に向かない、この旅団は商品として人を扱っているわけじゃないようだ。」

アルトが訪ねる。

「カモフラージュの可能性は?」

「ないね。服や靴には、何日も旅を続けた汚れが染みついている。」

「あれは即席で用意できるもんじゃない。」

最後に頭の中で、尋問官だった俺が告げる。

「このオヤジ視線に不自然な動きはない。」

「それに呼吸も落ち着いている。」

「話に詰まる様子もない。」

少なくとも、俺を狙っているわけではないようだ。

完全に信用するには早いが、一人で倒れているよりは安全だろう。

俺は立ち上がり、差し出されたオヤジの手を取った。

「王都まで、よろしくお願いします。」


ーーーーーーーーーー


荷馬車の中で、アルトは王都の情報を集める。

商人によれば、数か月前に国王が病に倒れたそうだ。

現在、実権を握っているのは若い王子ではなく、宰相が国王の代理を名乗って、好き放題しているらしい。

国王に忠義を尽くした王国騎士団の上層部を相次いで解任、降格。

自分の私兵を神聖騎士団などと称して、弱体化させた王国騎士団の代わりに、町中に配備している。

神聖騎士団は、魔物討伐の名目で王都に重税を課していて、王国騎士団より評判は悪いらしい。

強い冒険者は、巻き上げた重税を使って神聖騎士団として抱えられるらしく、力のない民衆は声を上げることも叶わないようだ。


ーーーーーーーーーー


荷馬車に揺られ続けると、王都まで半日ほどの地点に、臨時の検問所が設けられている。

「止まれ。我々は王国騎士団である。」

「王都は今、魔物討伐の為の厳戒態勢だ。」

「身分証と荷物を改めさせてもらう。」

王国騎士団…王都内部では弱体化したと聞いていたが、治安維持組織として王都の外で活動しているのか…。

馬車を降り、商人たちと離れた所で、アルトが王都から届いた書状を見せると、騎士たちの態度が一変した。

「お前が、アルト・フェルナーだな。」

騎士は笑顔で告げる。

「ここからは、王都まで我々が護送する。」

「さぁ、こちらへ。」

促されるまま、検問所の奥へと進む。

その時、頭の中の俺達が一斉に警告した。

「おかしい、全員、利き腕を隠している。」

「皆、王国騎士の剣帯ではない。」

「馬に王国騎士団の焼き印がない。」  

「包囲されているぞ。」

偽物の騎士団…だが、俺の名前を確認して奥に通した。

俺を狙っているのは確かだが…。

考えるより先に、偽物の騎士が背後へゆっくりと回り込み素早く剣を抜き放ち、振り下ろした。

アルトは地面に転がって、剣を躱した後、体勢を整える。 

馬脚を現した偽物の騎士が叫ぶ。

「みんなかかれ!」

「殺すなよ!生きたまま連れ帰れ。そういう命令だ!」

1対多数の戦闘、相手は5人…派手な魔法は商人たちを巻き込んでしまう…ここは…。

「そうだ、剣と。」

「拳と。」

「策で切り抜けろ。」

剣聖、仙人、軍師の俺が教えてくれた知識を活かす。

「この場は不用意に動くな。」

「しびれを切らして敵が打ってくるのをまず待て。」

…来た。

1人が耐えられず、こちらに突っ込んでくる。

剣筋…剣聖の俺が見せたものより遥かに遅い。

かなり力を入れているが、半歩下がれば当たらない。

剣が空を斬る音とともに、剣が地面にめり込み、渾身の一撃を外した一人目が体勢を崩す。

間髪入れず2人目、斜め後ろから俺の背中に向けて右斜にきり下ろし。

崩れた1人目の右奥に向かって素早く踏み込む。

2人目の振った剣が、1人目のめり込んだ剣に勢いよく激突して武器が折れる。

「馬鹿、邪魔だ!」 

「どこ狙ってやがる!」

揉めている間に、身を左へ半反転、魔力を掌に込める。

回転の勢いを乗せた掌が鎧へ触れる。

「ゴ…ッ」

悲鳴にならない声とともに鎧の内側から響く衝撃音が鈍く反響し、鎧から除く瞳が裏返った。

「ヒッ…」

鎧の隙間から見える泡に2人目が思わず恐怖する。

一人目と同じように手早く落とされる2人目。

「残り三人だな。」

「上々、つけ焼き刃にしてはやるもんだ。」

「血が騒ぐ…俺も戦いたい…。」

脳内の戦闘に秀でた俺たちは血がたぎっているが、俺は戦闘経験皆無だ、余裕そうに見せているが、冷や汗がすごい。

出力をミスれば相手は気絶ではなく、跡形も残らないくらい木っ端微塵に弾けとぶ。

練習の時に、稽古台を何十回と吹き飛ばしながら覚えた鍛錬の成果が出た…。

余計なことを思い出していると尋問官の俺が話し出す。

「最初の殺すなという指示を出してから、ずっと奥にいる…おそらくアイツがリーダーだ。」

「尋問相手を探す手間が省けたな。」

尋問官の俺はもう勝った気でいるらしい。

あと三人もいるのに…。

「まずい!こいつに近づくな!」

「囲め!囲め!」

リーダーが指示を出すが、恐怖心が勝った3人目が抜き放った剣を振りかぶり…こちらに投げてくる。

「剣士が剣をビビって捨てるなよ…。」

「アイツは左利きだ、利き手じゃない右から回り込め。」

剣聖の俺の声に従って屈みながら右斜め前へ走る。

投げられた剣は俺の左横を回転しながらすり抜けた。

俺の右手が鎧に触れた瞬間、鈍い衝撃音とともに3人目が地面に倒れる。

「何なんだこいつは!」

悪態をつきながらも4人目は冷静だった。

壁に掛かった盾を左腕に携える。

盾の下を地面に押し付け、腰を落して重心を下げた。

「おぉ、学んだらしい。」

「掌が警戒されたか。」

「守りに入ったな。」

「なら、盾を利用しよう。」

軍師の俺か続ける。

「正面からは崩せない。」

「押せば押すほど、地面と足で受けられる。」

「だから…。」

俺は盾へ向かって走り出す。

男はさらに腰を落とし、脇を締めて盾の裏で身構える。

衝突の直前、俺は地面を蹴った。

盾を踏み台にして、その上へ跳ぶ。

「グ…ッ」

男が盾を持ち上げようとするが、跳躍の時に地面へ押しつけた盾と、低く落とした姿勢、衝突に備えて固く力んだことで、前へ重心が移り、次の動きが遅れる。

俺は頭上から土魔法で泥を浴びせ、間合いを取る。

泥をかぶった4人目は激怒しながら盾を再び構え直した。

「泥をかぶったな。」

「それがどうした、沼地で戦えば泥くらい被るだろう。泥を浴びせた程度でいい気になるなよ。」

「家の土壁を作るとき、泥を固めるんだ。」

家を建て直した俺の経験が蘇る。

土壁は、ただ泥を塗るだけじゃない。

藁や砂を混ぜ、柱と下地の隙間へ押し込み、空気と水分を抜いて固める。

鎧の隙間でも、やることは同じだ。

泥は盾を持つ籠手、肘当て、腰の継ぎ目…あらゆる鎧の関節部に入り込んでいる。

俺は火炎魔法で盾に触れ一気に泥の水分を抜いた。

乾いた音と共に、鎧の隙間がみるみる埋まっていく。

息をついて、5人目に向けて剣を構え直す俺に、4人目が叫ぶ。

「待て!まだ俺は倒れて…」

直後、鎧の関節部分が固まり、動けないことに気づく。

「クソっ、なんだこれ、動け!動け!」

もがいた4人目はバランスを崩して、そのまま地面に転がる。


5人目は冷静に多くを語らず、黙って鎧を脱いだ。

鎧は無意味と悟り、鎧を脱ぎ捨てた5人目の眼光に恐怖はなかった。

剣を構え直し、一点にこちらを捉える眼には、リーダーたる自信と冷徹さがあった。

こちらも剣を構え直す。

勝負は一撃。

先に動いたのは5人目。

鎧を外した渾身の突き、飛び引けば致命傷。

「引くな」

圧縮された時間で剣聖の俺が話す。

「前へでろ。」

恐怖を払い、前へ。

「剣を見るな。」

「肩だ。」

引かれた剣先ではなく肩を見る。

わずかに沈む右肩。

ここだ。

相手の腕が伸び切る前に、間合いに入る。

「剣は先端ほど速いが…」 

相手の剣先が顔を掠める。

「根本は遅い。」

刃を相手の剣の根本へと重なるように差し込む。 

二本の剣が交差し金属音が響く。

俺は剣を押し返さず、身体を左へ回す。

力の行き場を失った突きが空を切る。

俺は、交差させた剣を下にひねる。

男の手首が返り、握った剣が音をたてて地面に落ちた。

「動くな。」

五人目は息を乱しながら、それでもこちらを睨み返した。

俺は続ける。

「聞きたいことがある。」

剣先を少しだけ近づける。

「お前たちに、俺を生きたまま連れてこいと命じたのは誰だ?」

男は答えない。

だが、その視線の揺れを尋問官の俺は見逃さない。

「お前、何か知っているな?」

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