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第六話 濫用

日も昇らない早朝、現実に引き戻された俺を待っていたのは、半壊した家という現実だった。

家財だったガラス片、壁だった材木が散乱している。

この惨状を見れば母は卒倒するだろう。

「危機的状況」

「怒られる」

「説教不可避」

「寝相と思われるか…?」

「いや、待て、寝相は無理があるだろ…」

だがしかし、先日の魔物討伐の際に大火力で吹き飛ばしてしまった前科がある。

これは黒ローブの男のせいだが、俺がやっていないと言い張っても怪しさは拭えない。

しかも、自分の力を制御できて居ないと思われれば、幽閉や隔離は必至だろう。

あれが、夢じゃないなら、議決でどうにかできるだろうか…

「多数決を…取る、家を直すことについて。」

おもむろに口にしてみる。

簡略化された円卓のテーブル、以前見たものより小型だが、13人は座れそうな大きさのものが現れる。

「自由は必要。」

「幽閉は嫌。」

「怒られたくない。」

「やむなし。」

「もとより豪華に、大胆に!」

「もとに戻さないと怪しい。」

「とにかく早く。」

「原状復帰ならいいだろう。」

ある程度話がまとまってきたと思ったタイミングで俺が投票へ移行させる。

「投票開始」

「賛成多数」

その一言で円卓の空気が変わった。

「大工。」

「宮大工。」

「王城建築主任。」

「家具職人。」

「石工。」

「鍛冶職人。」

「林業師。」

「製材職人。」

「屋根職人。」

「左官職人。」

「測量士。」

「農家。」

「魔道具職人。」

「土木技師。」

次々と名乗りを上げる俺たち。

「建築は任せろ。」

「まずは図面だ。」

円卓の中央に設計図が浮かび上がる。

「この梁は再利用できる。」

「柱が九度傾いている。切って組み直せ。」

「釘が足りない。」

「いや、木組みでいける。」

「火をよこせ、鉄を打つ。」

「材木程度、一刀両断。」

普段はまとまりのない三千人、だが、決をとり、方針が決まれば別。

その力は戦闘だけに十全と発揮されるだけでないようだ。

俺は半信半疑で言われた通りに木材を切り、柱を組み直し、縄を締めていく。

「そこ、ズレてる。」

「左に二・七ミリだ、家が崩れるぞ。」

だが、不思議と体は迷わない。

時が流れるのが、遅く感じる。

気づけば家が元通りに戻っていた。

「終わった。」

俺が達成感から呟く。

それと同時に朝日が昇り始めた。

どうやら議決で決まったものは、現実の時間を超越して成立するらしい。

復元された家を見た大工だった俺たちは、どこか誇らしげだった。

「剣より家を建てた方が感謝される。」

「大層な英雄も、宿がなけりゃ疲れて負ける。」

その言葉に、俺は少しだけ笑った。

三千回の人生は、勇者や魔王だけじゃない。

誰かの暮らしを支える人生、歴史に名は残らずとも、建物の基礎に、密かに残した名前の数々は、大きな意味があった。

ーーーーーーーーーー

ふと、腹が鳴った。

生きていれば、ハラが減る。

それに妙な疲れがあった。

家が建つまでずっと作業をしていたのだ。

肉体的な疲労はないが、精神的な疲労はちゃんと蓄積するらしい。

空腹を満たしたい。

…使うか、議決権。

「多数決を…」

そう言いかけた瞬間。

「甘えるな。」

「そんなに飢えてないだろ。」

「水でそれなりに持つ。」

「力を貸す得なし。」

俺に力を貸してくれるんじゃ…俺なのに!

「研鑽なくして、生きる意味なし。」

「チートを許すな。」

「真面目に生きろ。」

「しょうもない。」

「俺は飢えで死んだ。」

三千十三番がややため息まじりに話す。

「魔物を退けるのも、黒ローブのための戦闘も、家を建て直すのも、全て緊急性が高いと判断したから力を貸した。」

「お前が今までやったのは、緊急動議だ。」

「生き死にや、今後に支障が出る、緊急性の高い内容だから力を貸したんだ。」

「ここにいる俺達全てが、今生のお前を認めて、お前に力を貸すかはまた別の話。」

「知恵を借りられるだけ、ありがたいと思え。」

「それに、己の状態を見てみろ。」

少々の疲れと思った疲労感は、次第に大きくなり、俺はそのまま膝から崩れ落ち、倒れた。

「俺たちの力に、今生の器であるお前が耐えられていない。」

「文字通りの職権濫用は許されないし、そもそもお前の身体が持たないだろう。」

指の一つも動かない。

「己を鍛え、世界を巡り、この世界で事を成せ。」

「片田舎では知り得ないが、この世界も大なり小なり問題を抱えている。」

「まずは王都に…」

意識が遠のく。

俺はそのまま眠りに落ちた。

ーーーーーーーーーー

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