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第四話 議決権

「迎撃せよ。」

三千十三番の号令が響く。

その一言だけで、円卓の空気が一変する。

幾百の足音が床を鳴らす。

轟音は雷鳴となって、空間を激しく震わせた。

剣聖が剣を抜く。

魔王は黒炎をまとい、賢者が古代魔法陣を展開する。

商人だった俺だけは椅子に座ったまま手を挙げた。

「して、今回の作戦に割り振られる予算は?」

「今じゃない!」

思わず目を剥いて叫ぶ。

「いや軍事費は大事だぞ。」

「金が無くては戦えぬ。」

「確かに、一理あるな。」

「同意。」

「だから今じゃない!」

ブレない俺たちのおかげで緊張感が一瞬だけ吹き飛ぶ。

だが。

硝子の割れるような音と共に、円卓の上空に走った黒い亀裂から、無数の黒い腕が伸びた。

「手早く、確実に、捕らえろ。」

黒ローブの男の声。

腕は何百、何千と増え、会議室へ雪崩れ込む。

「始まったか。」

剣聖の俺が、いの一番に前へ出る。

「さて、前回のリベンジといこう。」

「え、あれと戦ったことあるの?」

「前回は負けた、惜しかったな。」

その発言に俺の血の気が引ける。

だが、剣聖は不敵に笑った。

「だか、今回は違う、お前がいる。」

その瞬間だった。

一閃、空間が裂ける、黒い腕が一瞬で消えた。

遅れて落雷のような衝撃だけが走った。

剣を納める音だけが響いた。

「昔の俺とは格が違う…。」

魂が別れてから積み上げられた研鑽、その成果に圧倒された。

ーーーーーーーーーー


安堵も束の間、消えた腕はすぐ再生した。

「やはり、無限か。」

賢者の俺の眉間のシワが深くなる。

「違う。」

魔王だった俺が首を振る。

「あれは魂じゃない。」

「影。」

「概念。」

「世界のバグだ。」

わからない、わからない、わからない。

三千の転生を繰り返してもまだ、理解の外にある現象が目の前で起きていた。

その時、三千十三番が初めて俺を見る。

「アルト、議決権を使え。」

「議決権?」

聞き覚えのない単語、覚えのない能力に困惑する。

全員が話し出す。

「決めろ。」

「戦うか。」

「逃げるか。」

「全部、俺達が決めるんだ。」

そんなことを突然言われても困る。

俺は今回の転生では17歳の村の少年だ。

剣聖だった時みたいに鍛錬に明け暮れてもいないし、賢者だった時みたいに身体を魔法に慣らしてもいない。


ーーーーーーーーーー



黒ローブの男がゆったりとこちらに迫ってくる。

「さぁ、どうする?」

三千人全員が、俺が何というかを待っている。

「戦おう。」

勇者だった俺が言う。

「三十六計逃げるに如かずか。」

商人が言う。

「いや、1人をおとりに確実に始末すべきだ。」

暗殺者が言う。

「ここを吹き飛ばせば解決だろう。」

魔王が真顔で言う。

「ただの農夫には荷が重いんで帰りたい。」

農民の俺は引け腰だ。

三千の俺達が方方に自分の意見を並べる。

非常時なのに、収拾がついていない。



…落ち着け、三千の経験を活かせ。

ここにいる俺達より、俺は…誰よりも、経験を積んている。

今生は、穏やかに過ごすつもりだった。

戦いに暮れた日々より、温かな日常を送りたかった。

だから、戦いから遠い、片田舎の村を選んだ。

だか、目の前のこいつは放置しちゃいけない。

考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。

円卓、会議…議決権…。

「多数決…、多数決だ!」


刹那、円卓が眩い光を放つ、そしてそれぞれの席の前に議決権を行使する為の青白く輝く投票券が現れた。

そして敵の動きが、時間が止まる。

三千十三番が俺に語りかけてくる。

「ここは、時間を超越して魂が集う場所、時間停止くらいは造作もない。」

「だが、状況は変わらない、延命しただけだ、次は…どうする?」

どうするかだって?

決まっている。

アルトが叫ぶ。

「多数決を取る!議題は…こいつと総力戦で戦うか!」 

「投票開始!」

勢いのまま振り上げた右手を振り下ろし、円卓を叩く。


三千人が一斉に投票を始める。

青白く発光する投票券が、宙を舞い、円卓の中心部にある白銀の天秤に収まっていく。

天秤が揺れ、一方に傾く。

(賛成多数。)

三千十三番の号令が響く。

「意は決した。これより、円卓の総力でもって敵を掃討する。」

円卓の輝きが金色に、天秤は白銀の軍配に変わり、三千十三番の手に収まる。


三千十三番の軍配と号令と共に、時間が動き出す。

三千人の俺達の武装が変わる。

それぞれの武具が白銀の光を纏い。

黒ローブの無数にある手の尽くを打ち払った。

剣聖は剣で、農民の俺は鍬で、商人の俺はコインで。

円卓の議決が、こんなにも大きな力を付与することに驚きを隠せなかった。










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