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第十八話 二人の騎士団長

神聖騎士団本部を出た。

さて。

一晩考える。

そう言ったものの。

部屋で寝転がって考えたところで、答えが出る気はしない。

とりあえず夏休みの宿題を1日後ろに下げただけだ。

この課題に9月のロスタイムは存在しない。

手早く決めなくては…。

神聖騎士団について、外の風聞を知りたい。

そう息巻く俺に商人の俺が口を挟んでくる。

「評判は参考にはなる。だが、鵜呑みにはするなよ。」

「なんで?」

「評判なんて金でも買える。」

「買えるのかよ…。」

黄昏時、行く人の顔も曖昧に映る大通りを歩く。

…なにか騒ぎがあるらしい、中心に三人の神聖騎士たち、小さな店の前で一人の男が頭を下げている。

「お願いします、もうあと五日あれば!」

「…無理です。」

若い騎士が拳を握り、苦しそうに首を横に振る。

「2ヶ月の滞納は…規則で認められていないんです。」

「5日でいいんです…そこをなんとか!」

騎士が羊皮紙でできた紙を開く。

よく読めないが、督促状と差し押さえに関するものだろう。

店主はうなだれた様子で、地面を見つめる。

なんとかならないのか…。

「待て。」

商人だった俺が止める。

「滞納しているのは店主だ、俺たちは金を貸すことしかできん。」

「なら金さえあれば…。」

「違うよく考えろ。いっときの金がこの問題の解決になるのか?」

「助けようぜ、可哀想だ。」

「来月も、この先も助ける気か?」

「…税金は必要だ。」

「軍備、軍人に払う給料にも金はいる。」

「その、歩いている道もタダでは直らん。」

「…でも道、壊れてたぞ。」

「ぁーそれは別問題だ。」 

「仁義はないんか!」

「情に流されるのと金は違う。」

まとまらない俺の脳内。

なにかしたいが何もできないまま、時間だけが過ぎていく。 

「待ってくれ。」

低い声が響いた。

人混みから、古い鎧と傷だらけの外套をなびかせ、男が前へ出る。

白銀の神聖騎士と並ぶと、かなりみすぼらしく見える。「あなたですか…。」

若い神聖騎士は気圧されている様子だ。

「おい、この店の帳簿を見せろ。」

「今のあなたに、照会権限はありません。」

男は店主に手を伸ばす。

「貸せ、帳簿だ。」

店主は店へ駆け込み、一冊の帳面を持ってきた。

男の開いた帳簿を、俺も少し後ろから覗く。

なるほど、全く、分からん。

右と左に数字がバラバラに記されている。

数はわかるが、読み解き方がまるでわからなかった。

「売上はそこで、仕入れがこれだ。」

「店主はやり手だな、しっかり利益を上げてる。」

「じゃあ払えるんじゃないのか?」

「早合点はいかん。その下を見ろ。」

最近増えたと聞かされていた税金…ええと臨時徴税に

騎士団維持費と魔獣討伐負担金…まだある。

「いくらなんでも多くない?」

「あぁ多いな。」

別の俺が答える。

「でも数字自体は合っている。」

徴税官だった俺が口を挟む。

「臨時徴税や、騎士団維持費の計算間違いではない。」

「しかもこいつ、所得が低い分いくつか免除されてる。」

「…免除されてこれかよ。」

古い鎧の男が帳簿を閉じた。

「これじゃ払えんな。」

「だからといって、免除はできません。」

「言われなくても、分かっている。」

男は腰の袋を外し、神聖騎士へ投げる。

「ほらよ、不足分だ。」

騎士が中身を確認する。

「確かに。」

それだけ言った。

「なら差し押さえはなしだな。」

「ええ、規則ですので…。」

若い騎士は店主の手をとる。

「来月は必ず店主期限を守ってください。」

神聖騎士たちは去っていく。

あれ?

怒鳴らない。

店の商品を勝手に持っていくこともない。

金を受け取ったら、それ以上店主を責めることもしなかった。

最初王都に来た時と違う印象を受けた。

「すんません、バルガスさん。」

店主が古い鎧の男へ近づく。

「この金は…必ず返します。」

「あぁ、いらんいらん。」

「でも!」

「来月までにもっとうまく稼げよ。」

「お前、最近子ども生まれたらしいじゃないか、出産祝いだ。」

それだけ言って歩き出す。


ーーーーーーーーーー


「バルガス!」

道端の老人が手を挙げ、彼に挨拶をする。

「この前は本当に助かったよ。」

「おい、今度は酒奢れよ!」

男は面倒そうに、頭を掻きむしりながら手を振る。

神聖騎士団のいたときと、雰囲気が違う。

「この人を詳しくは知らないが、町民から厚い信用を得ているのは分かる。」

「おい。」

突然。古い鎧の男が俺を見る。

「はい?」

「さっき俺の後ろから帳簿を覗いてただろ。」

「すみません。」

「謝るくらいなら覗くな。」

「そういや、見ない顔だな。」

「実は今日、王都に来たばかりで。」

男の目が俺の腰の剣へ移る。

「お前…変わった奴だな。」

「剣は新しいし、歩き方は素人だ。」

「だがなぜ隙が妙に少ないんだ?」

バルガスははっと閃いた様子で指を鳴らした。

「お前、アルト・フェルナーか?」

バルガスの目つきが変わった。

「ここでは話せん、ついて来い。」

「いや、その前に教えてください。」

「どうして、あなたは俺を知っているんですか?」

「お前に王都へ来るよう進言したのは、俺だ。」

「……え?」

俺を王都へ呼んだのは、神聖騎士団だったはずだ。

セラフィスは俺を勧誘するために書状を送ったと言っていた。

尋問官だった俺が呟く。

「話が食い違っているな。」

バルガスは踵を返した。

「いいから来い。」

「尾行がつく、話は歩きながらだ。」

「あなたは…一体…。」

擦り切れた外套の下から、古い紋章だけを見せた。

「元王国騎士団長だ。」

王国騎士団…だって?

国王に忠誠を誓い、神聖騎士団の台頭によって弱体化させられた騎士団だ。

その元団長が、どうしてこんなところにいる?

「質問は歩きながら聞く。」

バルガスは俺に背を向けた。

「まず一つだけ、訂正しておく。」

バルバロスが擦り切れた外套を翻す。

「俺は確かに、団長ではなくなった。」

そして、不敵に笑った。

「だが、王国騎士団がなくなったとは、一言も言ってねえ。」


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