第十九話 消えた騎士団の行方
「だが、王国騎士団がなくなったとは、一言も言ってねえ。」
そう言って、バルガスは歩き出した。
俺も慌ててその後を追う。
「なくなってないって…」
「あぁ、そのまんまの意味だ。」
神聖騎士団に取って代わられ、ほぼ壊滅したと聞いていたが…。
「名前だけだがな。」
…名ばかり管理職みたいなもんか。
「おい、話は最後まで聞け。」
「お前、顔に出やすい奴だな。」
バルガスは大通りから細い道へ入った。
「待て。」
「そのまま真っ直ぐ行け、振り返るなよ。」
「付けられたな。」
諜報員だった俺が言った。
なんですぐに言ってくれなかったんだ!
「お前の三文…いや六文芝居なんぞ見たくない。」
…死ぬほど下手ってことはわかった。
「しかし、嘘が下手だな、転生の記憶なくしたのか?」
知ってるからって、やれるわけじゃない。
「表情だけは十二面相だな。」
「あぁ、よく変わるって、そのままの意味だ。」
くそっ…今に見てろよ…。
前だけを見て歩く。
「後ろ、三十歩ほどだな。」
「気配でわかるだろ、背中がひりつく感覚だ。」
いや、全然分からない。
バルガスが小声で言った。
「次の角を右に曲がって、俺と別れろ。」
「三つ目の路地を左、その次を右、青い屋根のパン屋を通り過ぎて井戸を左だ。」
何だ、そのおしゃれな店で注文するような情報量の多さは。
「もう一回…お願いできますか?」
「…お前…。」
連日寝不足の頭で、処理できる情報量ではない。
「俺が覚えた。」
「右、左、右、青屋根、井戸左。」
「これくらいなら覚えられるだろ。」
いつもはうるさい三千人が、今はすごく頼もしい。
買い物の買い忘れ以外で、こんなに頼もしいなんて。
角で分かれ、言われた通りに進むと、人通りが少なくなった。
「巻いたか。」
諜報員だった俺が告げる。
「まぁ…及第点か。」
背後に振り返ると、既にバルガスがいた。
「こっちだ。」
驚く暇もなく、案内されたのは、古い酒場だった。
看板は傾き、建物の金具は赤く錆ついている。
廃墟探索趣味なら、喜びそうな寂れ具合だ。
「…ここですか?」
埃が積もってそうだ…できれば入りたくない…。
「あぁ、そうだ。」
バルガスが扉を三回叩き、少し間を置いて、二回。
最後に一回叩くと、鍵の外れる音がし、扉が開いた。
中から顔を出したのは、片目に眼帯をつけた偉丈夫だった。
力強い瞳がちらりと俺を見る。
「また、食い詰めた孤児でも拾ってきたか?」
「いや、こいつはアルト・フェルナーだ。」
男の顔から笑いが消えた。
「こいつが?」
そのまま奥へ通された。
外観とは違い、中は片付いていた。
壁にかかった剣は丁寧に磨かれている。
棚には王都の公共事業に関する書類がずらり。
机の上には、何度も補修された王都の地図。
ただの酒場…ではなさそうだ…。
部屋の奥には、一枚の古い盾が掛かっていた。
古めかしいが、錆一つない。
そこに刻まれた紋章には見覚えがあった。
「ここは…?」
「王国騎士団の詰所の一つだ。」
「元、だがな。」
バルガスが椅子へゆっくりと座る。
「まぁ、座れ。」
俺も向かいに座った。
「それで。」
聞きたいことは山ほどあるが、一番は決まっていた。
「どうして俺を王都へ呼んだんです?」
俺を王都へ呼んだのは神聖騎士団だった。
なのにバルガスは、自分が進言したと言った。
なら…この二つは、どこで繋がってる?




