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第十二話 死体は笑う

「もう一つ、借りてくれ。」

地面に流した魔力から土が隆起する。

錬金術師、人形師、彫刻家、医師の俺達と人形を作る。

ただ、依頼主は狡猾だ。

見た目がにているだけの土くれではすぐに看破されるだろう。

そこでアルトは、土と植物繊維で骨格と肉体を作る。

土に含まれるカルシウムから骨を、植物から筋繊維を作り、血液は水と鉄分を配合する。

血の赤は鉄を酸化させ、樹液で粘性を足す。

そして、本物の俺の血を数滴混ぜ込む。

皮膚、内臓、髪、顔は錬金術で錬成して俺に寄せる。

「おい、盛るな。お前の顔はもっと普通だろ。」

「鼻が高すぎる。」

「余計なお世話だ!」

思わず叫ぶアルト。

「鏡に映った自分は自己愛でイケメンに見える、俺たちが合ってる。」

「もっと自分を客観視しろ。」

「目線の合わない写真から錬成してやろうか。」

過去の俺たちに言われたい放題しながら、ようやく人形が完成する。

そこには、寸分違わぬアルトが地面に横たわっていた。

「これを俺と言って引き渡してくれ。」

「内臓まで正確に作ってあって呼吸もしている。」

「今日中に依頼主へ引き渡したら、すぐに姿をくらまして欲しい。」

「明日の昼には本物の俺が王都へ着く。」

「その前に頼む。」

信じられないものを目の当たりにし、呆然とするガイル。

「だが…。」

「お前たちが失敗したら、家族までどうなるか分からないんだろ?」

ガイルは目を伏せる。

アルトは笑う。

「だから借しだ、生き延びて返しに来てくれ。」

ガイルは偽アルトを担ぎ歩き出す。

部下たちが一斉にアルトへ頭を下げる。

去り際にひと言だけ聞こえてきた。

「必ず、必ず返す。」


ーーーーーーーーーー


話が付いた頃にはすでに日が落ちていた。

「なぁ、なにかあったのか?」

商隊のオヤジが心配そうに俺を見る。

「戦闘用の道具を持ってたから、念入りに調べられて…。」

腰に携えた、護身用の剣の柄を軽く叩いて答える。

「厳戒態勢みたいだしな、武具を持ったやつなら調べに時間がかかって当然か…。」

…納得してもらえたようだ…。

さて、黒幕は王政に大きく干渉できるのは確からしい。

「おかしいと思わないか。」

軍師だった俺が語りかけてくる。

「俺を先んじて捉えようと、刺客を送ってきている。」

宰相だった俺が続ける。

「政務が掌握できていれば、そんな回りくどいことはしない。」

「もし、全権を掌握しているなら、王都に着いた瞬間、神聖騎士団を使って捉えればいい。」

「なら利用できる。」

諜報員の俺が閃く。

「ガイルは俺の死体を今晩中に届けるだろう。」

「依頼主は、目的を達したと思って油断する。」

「そして本物のお前は予定通り王都へ行く。」

道化師だった俺が笑う。

「死人が歩いてきた時、人間はどんな顔をすると思う?」

「見ものだとは、思わないかい?」


ーーーーーーーーーー


夕刻。

しばらく荷馬車に揺られていると、商隊のオヤジが声を上げた。

「おい!見えてきたぞ、王都だ。」

アルトは荷台から身を乗り出した。

街道の先、地平線を塞ぐような巨大な城壁が見えた。

白い石造りの壁は左右の果てが見えない。

俺は、村からほとんど出たことがない。

田舎者暮らしだった俺に、王都はあまりにも大きく感じた。

「小さいな。」

「なんだ俺の帝都の半分もない。」

「城壁が薄いな、軽く破れる。」

「攻めるなら…商隊が通れるこの販路か。」

「おい!俺の感動返してくれよ!」

大層お偉い三千人達のせいで台無しである。

だが、王都へ近づくにつれ、俺は言葉を失っていく。

街道沿いには、王都に入れず座り込む人々。

痩せた子どもを抱く身なりの貧しい母親。

荷物を没収され、白銀の鎧を着た騎士の足元へ必死に頭を下げる商人。

それに反して、騎士の装備は神聖さを体現するかのように、新品のように磨き上げられている。

「あれが神聖騎士団だ…。」

商隊のオヤジが小さく、そして苦々しく吐き捨てた。

城壁の上には、威光を見せびらかすように嫌味な黄金で縁取られた巨大な旗がはためいている。

内部に近づけば近づくほど、その足元には苦しんでいる人間が増えていく。

頭の中で商人だった俺が呟いた。

「物資はある、国が貧しい訳じゃない。」

宰相だった俺が続ける。

「富の流れる先が、明らかにおかしい。」

俺は豪華な白銀の王城を見上げた。

王都正門、入城の列を整理していた神聖騎士が、こちらへ歩いてきた。

「身分証を提示しろ。」

俺は懐から王都の書状を取り出す。

「アルト・フェルナーです。この書状で…」

その瞬間、騎士の顔が青ざめる。

「お前が、アルト・フェルナー…か?」

明らかにおかしい。

俺は何も知らないふりをして笑った。

「ええ、7日以内に王都へと通達があったので…。」

騎士は一歩後ずさる。

頭の中で道化師だった俺が楽しそうに笑った。

「ほら、いたぞ。」

「死人を見て驚いた奴が、そこに。」

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