第3話 騎士道精神
誰もが羨む美貌を持つ少女がとある高校の屋上で微笑んでいます。儚くも幼いその少女を知っていますね。そう、〈時の魔術師〉ホタルです。
「さあ、歩みましょう。あなたの騎士道を」
「騎士…道?」
「ええ、トリカブトの花言葉には騎士道という言葉があるんですよ!」
「なぜに花言葉?てか!それよりもさっきの花弁飛ばすやつってどうやったの!?」
「あれは魔法です」
「ま、魔法?」
半笑いでまるで信じていないようです。やはり必殺パンチで脳天を破壊するべきでし
ょうか?
「魔法を信じていないようですね」
「いや~確かに手品は上手いですけど、冗談は恰好だけにしてくださいよ~」
「恰好?」
「その魔女?みたいなのコスプレとしては凄いけど自認魔法使いは中々きついっすよ」
コスプレというのはよくわかりませんが、この服装は宮廷魔術師の制服なので、文句を言うなら王様に言ってほしいですね。このミニスカとか絶対王様の趣味ですし、気色悪いです。
「これは私の制服なので、コスプレではありません」
「制服って…常識知らずで面白い上に厨二病って設定盛りすぎでしょ!」
何を言っているかあまり意味はわかりませんが、とりあえず馬鹿にしているのはわかりました。
「今謝るなら痛いで済ましてあげますよ」
「は?」
「はい、一言目に謝罪がなかったので、許しません」
魔力が火山の噴火のように勢いよく体内を巡りました。
「雷よ、落ちよ」
刹那、空が光りました。流石に威力は調節しましたが、目の前で死にかけていることには変わりありません。
「初級魔法で死にかけるなんてやっぱり旧人類は脆いですね」
私は優しいので、彼に時の魔法をかけてあげることにしました。それも超級の。
「時の精霊よ、哀れな者の時を戻せ」
たった五分ですが、対象の時間を巻き戻す魔法です。私以外には使える人がいない超凄い魔法ですよ。
「あ、あれ、今空が光って」
「雷に打たれてほぼ死んでいましたね」
「は、え、は?」
「良かったですね私が優しくて」
「ま、まじで魔法使い?」
「ええ、そうですよ」
彼がまだどこか疑っている顔をしていたので、私は彼の目の前にもう一度雷を落としてやりました。あまりに驚いたのか、私の目の前で漏らしました。幸い、小さい方だったので顔面への蹴りだけで許してあげました。
「あの、ほんますみませんでした」
「はい、しっかりと謝ったので今回は許してあげます」
「あの、まだお姉さん?の名前を聞いてなかったので、聞いてもいいですか?」
どこから見てもお姉さんである私に対して疑問符を飛ばしてきたので、もう一度蹴り飛ばしてやりました。
「いったあ!?」
ほんの1メートル吹っ飛んだくらいで大げさに痛がりすぎです。私はおばあちゃんに10メートルは吹き飛ばされていたというのに。
「私の名前はホタルです。あなたは?」
「僕は結城翼!高校二年生の帰宅部です!趣味はラノベを読むこと!恋愛対象は二次元だけです!」
「そうですか」
声が大きく、うるさかったので名前だけ聞いてあとは耳を塞ぎました。翼はどうやら自分語りに夢中で、私が聞いていなかったことには気づいていないようです。
「それで、ずっと気になってたんすけど」
「どうかしましたか?」
「この栞?みたいなのってなんですか?」
「ああ、これは魔法の花栞です。使うと花に込められた言葉や意味を再現できます」
「ふむふむ、つまりどういうこと?」
「トリカブトの花言葉の騎士道を解放してあなたに授けます。そうすれば、あなたは騎士のように強くなれますよ」
「まじですか!?」
「ええ、その代わり騎士道精神も反映されますけどね」
「騎士道精神?」
「勇敢になる代わりに卑怯な手は使わず、相手にもそれを許さない。そして常に弱者を救済し続ける。そんな感じです」
「それならいいことだらけじゃないか!」
「最後にもう一つ」
私の大嫌いなことだ。
「王への絶対的な服従です」
たった数秒の沈黙が永遠に感じられた。彼もこれを聞けば最悪な気持ちになるでしょう。
「まあ、それは大丈夫でしょ!王様なんて俺の周りにはいないし」
「そうですか」
思っていた反応とは少し違いました。旧人類はまだ支配というものをあまり理解していないのですね。
「おう!」
「では、さっそくで申し訳ないんですけれど、家まで案内してもらってもいいですか?」
「いいけど、こんな美少女と一つ屋根の下だなんて少しテンション上がっちゃうな~!」
「私専用の部屋じゃないんですか?」
「え、まあ空き部屋はあるけど何も置いてないし、ベッドがあるのは俺と母さんの部屋だけだから、そうなると消去法的にね~」
「消去法的にいけば私とお母様がベッド、あなたが空き部屋の床ですね」
「は?え?」
翼は何かを言っていましたが、私のように美しい女性を床に寝せるなんて言語道断です。そういえば騎士道の中にはレディを優先する権能もありましたね。早めに魔法を発動させた方が良さそうです。
「翼、これを持ってゲインと唱えてください」
「え、ああ。ゲイン」
翼が呪文のを唱えると、花栞は消え、彼の体に吸い込まれていきました。
「なんか、あんまし変わった気がしないな」
「そのうち実感できますよ。それでは、とりあえず私を家まで案内してください」
「おう」
翼は自然に私を駐輪場まで連れて行き、自転車と呼ばれる物の後ろに私を乗せ、家まで運んでくれました。
「思っていたよりも立派ですね」
そこは、以前の屋敷より狭くはありましたが、造りはこちらの方がよく、ふかふかのベッドでした。
「結構いい家だろ?親父が残してくれた大事な家なんだ」
「そうですか」
「母さん、今日は仕事で夜遅いから、てきとーに過ごしといてくれ」
「翼はどこかに出かけるのですか?」
「ああ、バイトだよ。母さん忙しそうだし、俺も少しは家計の足しにならないと」
私が出会う男の子は皆勤勉で親思いなのですね。まあ、お母さんへの愛は誰にも負けませんが。
翼が出て行ったあと、少し家の中を探検してみました。
「写真がいっぱいありますね。これが翼のお父様でしょうか?随分お若い方なのですね。それに髪の色が金色で、翼とは違いますね」
金髪に派手なネックレスや指輪をつけたその男は、翼とはあまり似ていませんでした。その隣にいる女性も翼に似ているとは思えません。
「えーと次は、これは何でしょうか?通帳?」
通帳というものが何だかはあまりわかりませんが、目が痛くなるほど大きな数字が書いてあったので、見るのを辞めました。
「意外と面白いものはありませんね。少し興味がそそられるのは宝石類と手紙の入ったあの金庫くらいですかね」
金庫の中身は魔法の力で透視しました。しかし、手紙の内容までは見られなかったので、そのうちまた見にこようと思います。
そんなこんなでそこそこ広い家内の探検が終わり、程なくして翼が帰ってきました。その後は翼の作った美味しくも不味くもない微妙な料理を食べ、お風呂に入りました。そして、就寝直前の私の部屋に翼が入り、一つだけ質問をしていきました。
「俺、いじめっ子に勝てるかな?」
「勝てるかは知りません。でも、勇敢に立ち向かうことはできると思います」
「そっか」
この時は、彼をいじめっ子から助けるつもりはありませんでしたが、可哀そうな人間を見ていると助けたくなってしまうものですね。




