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魔法と夢と花。  作者: 無糖
第1章 グリーンカーネーション
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第3話 花栞

 朝日に照らされ、美しく煌めく髪をなびかせる天使が着替えています。この儚くも幼いその少女を知っていますよね。そう、〈時の魔術師〉ホタルです。


 昨日はお昼まで寝てしまったので、今日は音の精霊にお願いして起こしてもらいました。せっかく早起きしたはいいものの、特にやることもないので牧場に向かいました。


「ジョンはいるかなー」


私は昨日、ジョンの夢の手助けをする約束をした。これはただの善意だけっでなく、私の大いなる目的のためでもあるのです。


「旧人類の夢は魔力を孕まないからね…」


私が旧人類の夢に拘るのは、そこに魔力が込められていないからです。魔力が混ざれば私の夢は完全には叶わない。だから、旧人類との交流は重要なのです。


「あ!お姉ちゃん!」


元気で無邪気な声が聞こえてきました。昨日は彼女の無邪気さに刺されましたが、やはり子どもというのは無知なほど可愛げがあるのです。


「おはよう、ルナ」

「うん!おはよう!」


そんな微笑ましい美少女二人の輪にある少年が入り込んできました。言うまでもなくジョンです。


「おはよ、ホタル」

「ええ、おはよう、ジョン。朝早いのですね。」

「まあね。昼からはジェニト様に呼ばれているから早朝に手伝わないと」


私に毒を吐く少年からは想像できないですが、実は親や好きな子に対しては尽くす少年なのです。


「ルナは何をしていたの?」

「私は何もしてない!ここに居たらお姉ちゃんと会えるかなって思ってきただけ!」


もしも私が女神ならば、この子は天使と呼べる可愛さでしょう。


「でもね、ルナもうすぐ家の手伝いだから行かなきゃなの…」

「あら、そうなんですか。それは残念ですね」

「お姉ちゃんまた午後もここにいる?」

「そうですね、今日はジョンと共に行動するので、彼がいる時間帯はいます」

「そうなの!わかった!」


「バイバイ」と大きく手を振り駆け出していく。その背中が小さく、見えなくなるまで彼女へ手を振り続けた。


「で、いつ俺とホタルが一緒に行動するって決まったんだ?」

「さっきかな」

「はあ…」


ジョンは時々大きなため息を吐く。ため息を吐くと幸福が逃げるので、やめた方がよいことを彼に伝えた。そうするとまた大きなため息を吐き、私の貴重な知識を無駄にすのはちょっとむかつく。


「それで、さっそく質問なんだけど、ジョンの夢はルナと結ばれることでいい?」

「オブラートに包まずそのまま言うんだな」

「回りくどいのは面倒だもん」


ジョンは少し言うのを躊躇っていたが、私の眼力に負け、素直に口を開いた。


「ああ、そうだよ。俺はルナが好きだ」

「ええ、知ってます。それじゃあここからが本題なんですけど」

「ほんとにホタルってマイペースというか自分勝手だよな」

「私より素敵な女性はこの世にいないので、世の男性は私に合わせるべきだと思っていますよ」


「ふふん」と自慢げに鼻を鳴らし、胸を張る。ジョンはそんな私に軽蔑の視線を送っていたので、後で転ばせてやろうと思います。


「それで、俺の夢の手伝いって具体的に何をしてくれるんだよ」

「そうですね、私は恋愛をしたことないので、そこら辺のアドバイスはできません」

「は?じゃあ何ができるんだよ」

「私は魔法使いですよ。魔法でどうにかするに決まってるじゃないですか」

「おい、ルナに変なことするつもりか?」

「いいえ、ルナにではなく、あなたに魔法をかけるのです」

「俺に?」

「ええ」


不安そうに見つめるジョンに一輪の花を見せました。それは上品で爽やかな緑色の花、そうグリーンカーネーションです。


「この花があなたに勇気をくれます」

「まさかその花見せて終わりじゃないよな」

「ええ、もちろん。これだけではただの花です。だから今からこの花に私の魔力を込めます。」

「魔力?」

「まあまあ見ていてくださいよ」


そう言い、私は花を天に掲げ、詠唱を始める。まるで女神のような神聖さで。


「花よ、その形を捨て、言葉となりて、私たちに権能を授けよ」


グリーンカーネーションの花弁が1枚、また1枚とひらひら舞い上がりそれに呼応するように魔力の粒が花弁に集まり、その形を崩していく。


「す、すげぇ…」


そして、花は光の粒へと変わり、私の周りを浮遊しました。


「集まりて、作られし意味として、もう一度咲きほこれ」


最後の詠唱が終わり、光の粒が集約される。光に包まれ、皆が目を瞑る。


 発光が終わり、私の手元にはたった一枚の花栞があるだけでした。


「グリーンカーネーションが持つ意味をこの札に込めました。あとはあなたがゲインと唱えるだけで術は発動します」


しっかりと説明をしているのに、ジョンは小刻みに震えて口が動かせないようでした。


「大丈夫ですか?ちゃんと私の話を聞いてくれると助かるのですが」


するとジョンはやっと口が動いたのか、脳内にあった言葉を全て吐き出しました。


「すすげえよホタル!まじでかっこ良かった!そんなすげーことできるならもっと早くやれよな!魔法ってすげえ!」


どうやらやっと私の偉大さを理解したそうです。今まではあくまで初級魔法の延長戦上に過ぎませんでした。しかし、今回のは花魔法の中級、レベルが違うのです。ちなみに私の過去転移は上級を超えてその次の次の次も超えて神級魔法です。


「まあ、そんなに褒めても何もあげませんけどね~ちょっと他の花魔法を見せてあげるくらいしかしませんからね~」


ワイワイとはしゃぐジョンと私。しかし、この魔法の説明をまだしていませんでした。ただ演出が凄いだけの魔法ではないのです。


「この魔法は花に込められた意味を再現します。グリーンカーネーションの花言葉は癒しと純粋な愛情です。」

「じゃあ、俺がこれを使えばルナから愛してもらえるのか?」

「いいえ、違います。ルナから愛されるのではなく、あなたが愛せるようになるのです。この先、あなたは誰かを癒し、純粋な愛情を注げる人になるのです」


天使のような微笑みで語り掛けた。その表情にジョンもほんの少し顔を赤くしていましたが、今回は見なかったことにしてあげましょう。


「そうと決まれば今日の夜にルナに告白しましょう!」

「おう…って今日の夜!?」

「はい!そうです」

「流石に早くないか?」

「この魔法はあくまで中級。永遠に効果が持続するわけではないの。だから花栞を作ったその日に使うのがいいの」

「そ、そうか…うん、俺今日あいつに告白するよ」

「はい、そうしましょう!ささ、屋敷の仕事を早く終わらせて午後にルナと夜の逢瀬の約束をしましょう!」

「おう!」

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