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魔法と夢と花。  作者: 無糖
第1章 グリーンカーネーション
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第2話 ジョンの夢

 13世紀、ヨーロッパ、ある一人の美少女が深い眠りから覚めました。儚くも幼いその少女を知っていますよね。そう、〈時の魔術師〉ホタルです。


 まだ眠い目を擦りながら桶に汲まれた水で顔を洗い、鏡と思われる物の前に立ちました。そこにはまごうことなき美少女が立っており、あまりの美しさに惚れてしまいそうでした。しかし、その鏡は私の美しさを霞ませていました。


「ガラス製ではないのですね」


それは金属製で、鉄なのか銀なのかはわかりませんが、少し曇っていました。


「旧人類は昔、ガラスではなく金属を使っていたのですね」


そんな新たな発見に目を輝かせていると、低く心地の良い声が聞こえました。


「ミスホタル、入ってもよろしいかな?」


どうやらこの屋敷の領主、ジェニト=クレイのようです。朝からレディの部屋を訪れるとは、紳士な方とは言えなさそうですね。


「少し待ってください。今から着替えるので」

「わかりました。ごゆっくりどうぞ」


ごゆっくりして良いようなので、私は服の着替えだけでなく、髪の手入れをしてから彼を部屋に通しました。ただでさえ綺麗なのに、もっと美しくなってから部屋に招く私は何といい女なのでしょうか。


「もう大丈夫なので、どうぞ入ってください」


ガチャリとドアが開き、男が入ってきた。


「おはようございます、ミスホタル。どうやらとても快眠だったようですね。もう昼食の時間ですよ」

「はい、良いベッドでした」

「それなら良かったです」


どうやら私はお昼まで寝ていたようです。朝に乙女の部屋を訪れる変態と疑って申し

訳ないので、心の中で謝っておきました。


 すると、空っぽなお腹から音がしました。あまりに大きな音だったので、少し恥ずかしかったですが、空腹の方が辛かったので、目の前の男に頼みました。


「お腹が空いたので食事をいただいても?」

「ええ、構いませんよ。ジョン、彼女をテーブルまで連れていってあげなさい」


どうやら彼の少し後ろにジョンが隠れていました。ジョンは私よりも身長が高いですが、ジェニトと比べると、とても小さく感じて、見えなくなってしまいます。


「ジョン、居たんですね」

「小さくて悪かったな」

「はい、小さくて見えませんでした」

「おまえ…」


少し怒ったジョンが私を置いて先に進みます。なぜ怒っているのかはわかりませんが、この私を置いて先に行くのはむかつきます。なので、魔法で少し意地悪をしてや

りました。私はとても小さな声で詠唱をします。


「樹木の精霊よ、彼を止めよ」


この屋敷の床は木製であったので、少し床の形状を精霊さんに頼んで変えてもらいました。すると、ジョンは床の出っ張りに引っ掛かり、転びそうになりました。しかし、彼は転びませんでした。


「ジョン!」


ジェニトが転びそうなジョンの手を取り転倒を阻止したのです。


「ジェ、ジェニト様、すみません」

「それより、怪我はないか?大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です。次は気を付けます」


とても情熱的なお方なのだと感心しました。もしもジョンの位置が私のような女性であれば、ラブロマンス小説として、この時代でも売れたでしょう。


「では、彼女をしっかり連れていくんだよ」

「はい…わかりました」


 その後、私はジョンに連れられ昼食を食べました。そこでは、パンと豚肉の塩焼き、そしてチーズがあり、贅沢な食事でした。だけど、不思議なことにフォークがありませんでした。ナイフとスプーンはあったのですが。


「ジョン、さては置き忘れたのね」


ジョンに持ってこさせようとしましたが、彼は牧場の方に行ってしまったようなので、仕方なく風の精霊に食べやすいサイズまで切ってもらい、そのまま口に運んでもらいました。


 そんなに魔法を使って良いのかと思いましたね?思ってないなら今思ってください。結論から言うと全然大丈夫です。私の魔力量は絶大なので、魔力切れの心配はありませんし、魔法が他の人に見られて起きる過去改変もありません。正確に言えば、ここは過去の世界ではないのです。あくまでお母さんの魔法を応用して過去を再現した世界なので、私がどれだけ暴れても、最後にこの世界ごと消せばいいだけなのです。まあ、おばあちゃんの魔法を応用すれば実際の過去にも行けますがね。


 食事を終え、ダラダラと遊びたかったですが、最低限仕事をしなくてはいけないので、街に出て旧人類の生態調査をすることにしました。


 街は上空から見ると小説の世界のように幻想的で、まるで異世界ファンタジーのような街並みでしたが、街を歩くと酷い臭いに鼻がもげそうでした。それに教会から聞こえる音が騒がしく、聴覚と嗅覚に多大なダメージを受けました。


「もう帰ろうかなーお花も全然売ってないし」


もう帰ろうと風の魔法を使おうとした時、見知った人物がそこにいました。ジェニトです。なにやら買い物をしているようです。気になったので話しかけてみることにしました。


「こんにちはジェニトさん」

「おお、これはミスホタル、こんなところで会うのは奇遇ですね」


何かを後ろに隠したのを私は見逃しませんでした。


「後ろにあるそれは?」

「あなたには敵いませんね。それだけずけずけと聞ける精神性も素敵なものです」


私が素晴らしいのは私が一番知っています。


「こちらは指輪ですよ」

「指輪?ジェニトさん結婚していましたっけ?」

「もうすぐ結婚なんです」

「そうですか。お相手のお名前は?」

「ジュリアナです」

「なるほど、だから指輪に刻まれた字がJJなんですね」


ジェニトとジュリアナ、どちらもJから始まる。彼の言っていることが本当ならば、素敵なプレゼントだ。


「はい、とても素敵な名前で、僕の方から結婚を申し出ました」

「そうですか、お幸せになれるといいですね」

「はい、ありがとうございます」

「では、私はこれで」


そう言い彼の前からそそくさと逃げる。愛の形は人それぞれですが、一方通行の恋でないことを祈ります。


 ジェニトと別れ、ジョンのいる牧場に来ました。そこでジョンはルナと仲良く喋っていました。


「こらこら、仕事をサボってはいけませんよ」

「げっ!ホタル」

「なんですか~その顔は。私が居ると嫌なんですか?」


ジョンはルナと話していた時とは一変して、敵意むき出しです。ルナはそれとは対照的に目を輝かせていました。


「ホタルお姉ちゃん今空飛んでなかった!?」

「ええ、飛んでいましたよ」

「どうやったの!」

「魔法です」

「魔法?」

「はい、私、魔法使いなので」


そこからはルナと魔法の話で盛り上がりました。しかし、ルナは私に残酷な質問をしてきたのです。


「ホタルお姉ちゃん!私も魔法使えるかな?」

「…」


旧人類である彼女は魔法が使えません。でも、こんな健気な子に残酷な真実を伝えるのも酷なもので、何と言えば困りました。


「おい、そろそろ帰るぞホタル」


なんと、ジョンが助け船を出してくれました。


「あ、ああそうですね。ごめんなさいルナ、また話しましょう」

「え~もうちょっと喋りたかった」


ごねる彼女の腕を振りほどき、ジョンと共に屋敷に向かいます。


「ありがとうございます、ジョン」

「なんのことだよ」


わざとらしく言う彼は所謂不器用というのでしょう。私に対して少し失礼なところもありますが、助けてくれたことに違いはありません。なので、彼の夢の手助けをすることにしました。


「ジョン、あなたの夢はなんですか?」


とある人からの受け売りの言葉。私の背中を押してくれた魔法の言葉。


「は?急になんだよ」

「私のことを助けてくれたので、あなたの夢を手助けしようと思いまして」

「ゆ、夢なんてねーし」


まあ、聞かなくてもわかるのですが、こういうのはやっぱり本人から聞くのが良いでしょう。


「そんなこと言っていたらルナは誰かに取られてしまいますよ」

「…っ」


動揺を見せるジョンの表情からしてビンゴでしょうね。


「できるのかよ」

「できるとは言いません。でも、背中を押すぐらいならできますよ」


 夜になり、月を見ました。彼の夢が月に届くことを祈り眠りにつきました。

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