第7話 監獄襲撃
今、膨大な数の敵を前に杖を掲げる勇者がいます。儚くも幼いその少女を知っていますね。そう〈時の魔術師〉ホタルです。
私たちは確かに順調でした。全ての身分が一致団結し、特権階級の人々からも税を徴収できる制度にしました。そして次に、革命議会は王への諫言として憲法の一部を記した文を提出し、それが受理されるのを待っていました。しかし、悲劇はある時、突然やってくるのです。
「リュカ!大変だ!」
「ジャンどうしたんだ、そんなに焦って!」
「一般市民たちが…バスティーユ牢獄を襲撃したって!」
「はあ!?なんで?」
「理由はまだわかってないけど、とりあえず王都は大荒れだよ!平民たちはこの知らせで血気盛んになって、貴族たちは話が違うって言って革命議会から降りるって」
監獄の襲撃…翼の教科書に書いていたような気もします。どんな流れだったかは覚えていませんが、こんな急に訪れるものなのですね。
「だって…え?襲撃を起こす理由なんてどこにもなかっただろ!貴族からも税収を得て生活も楽になったはずだ。それなのにそんな大規模な…」
どうやらリュカも驚いているようですね。しかし、これが歴史の運命というものでしょう。仕方ありません。しかし、なぜこのようなことが起きたのかは気になります。
「リュカ、驚いているところ申し訳ありませんが、なんでこんなことが起きたのか、私にもわかるように解説してくれませんか?」
「…」
彼にしては珍しく黙ってしまいました。今回はそれだけ説明の難しい案件なのでしょうか?
「…わからない」
「え?」
「だから、今回の一件は何で起きたかわからない」
あのリュカがわからないと言うのは初めてな気がします。しかし、困ったものですね。彼がわからなければ私は誰に聞けばよいものか。
「おいリュカ!どうする!?これ以上暴動が続いたら、私たちではもう抑えきれないぞ!」
「ああ、わかってる。でも、原因もわからないんじゃ、どうしようもない…」
「だが、このままでは人が山ほど死ぬぞ!」
「…くそっ!」
どうやらジャンは相当興奮していますね。リュカも予期せぬ事態が起きて冷静ではないようです。未来を見通し、民を導く力があっても、緊急事態には弱いようですね。
「仕方ありませんね。私が手伝いましょう」
「ホタル…」
「手伝ってくれるのはありがたいけれど、ホタルさんじゃ戦力にはならないよ。ごめんね」
そういえばジャンは私が魔法使いであることを知りませんでしたね。今から説明するのは面倒ですが、リュカなら上手く説明してくれることでしょう。
「ホタル、できるんだな?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、頼んだ」
「おいリュカ!正気かよ!こんな女の子に何をさせる気なんだよ!」
「大丈夫だ。ホタルは俺たちの誰よりも力になる。だから、ここは俺を信じてくれ」
「だけど、今のあそこは地獄だぞ!女の子一人でどうにかできるとは…」
「面倒ですね。刻一刻争う場面ですし、やってもいいですか、リュカ?」
「ああ、仕方ない。頼んだ」
私は自身の体に魔力を込めます。そしてジャンに照準を合わせます。
「人よ、眠れ」
「あ、え…」
そのままジャンは眠りに着きました。え?殺すかと思ったって?そこまで酷いことはしませんよ。
「では、行ってきますね」
「ああ、頼んだ。とりあえず暴動を止めて、できるなら原因究明も頼む…」
リュカは弱々しい目で私を見つめました。私に頼ることが嫌なのでしょうか?そうであったら調子に乗りすぎですね。自分ひとりでなんでもできるほど人は強くないのです。
「風よ、運べ」
そうしてバスティーユ牢獄に着きました。そこには数多くの死体と武装した市民がいました。それとは別の人たちもいましたが。
「国の兵士でしょうかね?両者相当頭に血が上ってそうですね」
兵士と平民が互いに銃を向け、血を流し合っています。上空にいる私には届かないでしょうが、当たれば痛そうです。
「市民の数が凄いですね。兵士の100倍、いいえ1000倍ほどでしょうか?まあ、まずはこの争いを止めますか」
私は魔法で杖を出し、集中のために目を瞑ります。これだけの規模を止めるには超級レベルの魔法が必要そうです。
「雷よ、その力を今ここに示せ、人と常世を繋ぐ線を断ち、深い暗闇へと落とせ」
刹那、空が光りました。そこにいた人間一人に対し一発の雷が落ちたのです。まあ、威力は相当控えめですが、旧人類ならこれで気絶することでしょう。
「流石超級魔法ですね。範囲内全ての人間にマーキングなんて凄い術式です。しかし、本当に数が多いですね」
実際に戦っていたのは1000人ほどでしょうが、監獄の周りにいた群衆の数が尋常ではありません。私の目では数えられませんでしたが、雷の量からして数万人は優に超えていたでしょう。
「露店で食事を売って、それを買っている…戦いで死人も出ているのに呑気ですね」
私には理解できない感情ですが、戦いを呑気に観戦して食事をできるというのは凄いですね。これも旧人類の特徴なのでしょうか?
「あ、つい全員気絶させてしまいました」
そういえば原因究明も頼まれていました。争いの最前線に居た連中を数人連れていかなければ。
「まあ、適当に見繕って起こしますか」
そうして私は比較的会話ができそうな人間を独断と偏見で選び、彼らに回復魔法をかけて強制的に目覚めさせようとしました。しかし、中々目覚めません。魔法に対する耐性がない旧人類ですが、回復魔法の効き目も悪いのですね。
そうして待つこと数分、やっと一人目の男が目を覚ましました。
「はっ!ここはどこだ?戦況は!」
「やっと起きましたか。おはようございます」
「お、お前は誰だ!フランス兵か?」
彼はどたばたと暴れました。予め椅子とロープで固定しておいてよかったです。
「私は革命議会の人間です。今回の騒動の鎮圧と原因究明に来ました」
「か、革命議会の人間!?お、お前たちは全滅したんじゃないのか!?」
「いえ、してませんが」
「だ、だって!1週間前に男が来て、王政が革命議会の平民たちを惨殺したって!」
「そうなんですか?」
「なんで革命議会の人間が知らないだよ!リーダーのリュカなんて首をはねられて燃やされたと聞いたぞ」
どうやらデマが流れていたようですね。それにしても、どうしてそのようなデマがこんなにも信じられているのでしょうか?それにここまで大規模な話なのに、どうして私たちは誰も知らなかったのでしょうか?
「その話を聞いてあなた達は信じたのですか?」
「あ、ああ。それで、王政に対応するために武器を集めてたんだ」
「武器集めと監獄襲撃には何の関係性が?」
「武器はあっても火薬が足りなかったんだ!それを調達するために少ない火薬をここで使ったんだ!」
「そうだったのですね。ちなみにあなた達にこのデマを流した男はどこの誰ですか?」
「いや、知らない男だ」
「知らない男の話を信じたのですか?」
「ああ」
「それはなぜですか?」
「…」
「どうかしましたか?」
「…らない」
「はい?」
「わからない。何であの男の話を信じたのかわからない!でも、あの男の話には謎の説得力があったんだ!なんでだ?どうして俺たちは…」
「急に取り乱さないでください。それで、その男の外見的特徴などは?」
「思い出せない」
「そうですか」
どうやらきな臭くなってきましたね。謎の男の話はこの世界に来てから二人目です。同一人物でしょうか?リュカへの報告にはまだ行けなさそうですね。




