第6話 革命議会
打倒王政を掲げ、心が燃えたぎっている彼らを見て、同じく心に火が灯った少女がいます。儚くも幼いその少女を知っていますね。そう〈時の魔術師〉ホタルです。
「では、次、第3身分、平民の方々、どうぞ」
その言葉にリュカは自身の意見を述べた。いいや、それはリュカの意見というよりも、彼らの意見と言うべきだろうか。
「俺たち第3身分の意見は全ての身分が団結し、この国を変えることです」
そこにいた全ての人間が彼を見ます。特に特権階級の者たちが見せた顔は忘れられません。まさに青天の霹靂だったのでしょう。まるで魔女でも見たような顔でリュカを見つめていました。
「それはどういうことかね?」
第1身分の髪型が特徴的なお爺さんが口を開きます。
「そのままの意味です。俺たちがしたいのは決議の方法ではありません。そんなことには意味がないです。俺たちが求めるのは、3つの身分が結託して王に意見することです」
「今までと言っていることが随分違いますね。それにあなたの顔を見るのは今日が初めてだ。本当にそれが第3身分の総意なのかい?」
「名乗り遅れましたね。今日より第3身分の代表の舵を取るリュカ=アルベールと申します。そして、これは俺だけの意見ではなく、俺たちの総意です」
そう言ってリュカはこちらを振り向く。いいえ、私の後ろにいた平民の代表者たちを見たのでしょうか?皆は声を上げ、「そうだそうだ!」「我々の意志だ!」などと、彼を肯定する言葉を並べました。
「とは言っても、我々が結託するメリットはあるのかね?君ら平民と手を組んで王に目をつけられるのは嫌なのだが」
嫌味ったらしい言い方をするのは第2身分の男。たびたび私にいやらしい視線を向けていた男でしたが、どうやら話は聞いていたようですね。
「メリットはありません。ただ、王に対して不満があるのに言えなかった今を打倒したいとは思いませんか?」
「王が間違えていると?」
「そう思ったからこの会議を提案なされたのでは?」
「…」
貴族の男は黙り込みました。しかし、リュカは続けます。というよりも彼の本題はこれからでしょう。
「王権は神から与えられしもの、だから王に服従せよ。そんなことを言った馬鹿を俺は許しません。王も人間だ。間違いもする。でも、間違えても誰もそれを咎めない。そんなのおかしいだろ?だから、俺たちの手で作る。1人に押し付けない。皆で考え、皆で未来を決める国を作る。そのために俺たちは今ここにいる。」
その場はもう既にリュカの独壇場です。やはり彼には魔法に似た何かを持っているのかもしれません。その言葉に、行動に、熱意に、皆が圧倒され、ただ大人しく聞いていることしか出来なかったのです。
「では、俺たちの意見は以上です。」
「では、これよりそれぞれの身分に別れ今でたそれぞれの議案について協議してもらう。また3時間後にここに集まるように。」
そう言い彼女は司会席から降りて去って行った。私たちも席を立ち、第3身分の協議部屋へ移動した。
そこに着くと、皆はまずは特権階級たちに怯まずに意見し、彼らを圧倒したリュカへの賛辞を送りました。
「リュカ!すごかったよ!今までずっと食い下がってきたあいつらを黙らせるなんて!」
「ほんとな!あいつらの何も言えない顔最高だったぜ!」
「ありがとう。でも、勝負はこれからだよ。あいつらは確実に俺が言ったことについて考えるはずだ。そこでどれだけの人間が賛成するか…そこで今後の流れが決まる」
彼はどのような流れで進める気なのでしょうか?気になったので、聞いてみました。
「今後はどのような流れなのですか?」
「そうだな、パターンごとに話そうか。まず、大多数が反対して平行線になった場合、こうなったらもう仕方がないから俺たちだけで話を進めて国内での影響力を高める。そしてあいつらを無理やり納得させる」
「ほうほう」
「そして二つ目、半分程度が納得した場合、この場合は税収面などで話し合いをし、まずは国の立て直しを最優先でいく。そして三つ目は…」
「三つ目は何ですか?」
「大多数が賛成の場合、俺たちは…憲法を作る!」
「憲法ですか」
憲法…大きく出ましたね。しかし、国を変えるほどとなれば、やはりそのレベルの改革が必要なのでしょう。まあ、私の時代は憲法があっても、王族が強すぎて憲法違反を犯しても誰も裁けないのですが。
「なあ、けんぽう?ってなんだ?」
どうやら知識人が多いこの集団には憲法も知らない人がいたようです。憲法の起源は知りませんが、リュカが知っているということはもう既にどこかの国は存在しているのでしょう。
「ああ、すまない。説明が遅れたな。簡単に言えば、王を縛る法律だ」
「王を法律で縛る!?」
「ああ、そうだ。今まで俺たち国民だけを縛っていた法で王を縛るんだ!」
「そ、そんなことできるんか?」
「もうだいぶ昔にイギリスがやっているよ!マグナカルタって名前くらい聞いたことあるだろ?」
「ああ!あれか!」
ここまでの知識があってどうして物乞いなどしていたか不思議ですね。しかし、今の議題にはそぐわないので、また後にしましょう。
「憲法の中身はもう決めているのか?」
「ああ、大まかにだけどな。まずは身分の差をなくすことだ。具体的には立法権を王ではなく、国民の代表者に、裁判官の役職を金持ちではなく、国民の代表者に与えることだ」
「おお、そうなったらまさに今の不平等は改善されるな」
「他にも宣戦布告の権利だったりもあるけど、まずはここだな。そしてもう一つある。でもこれは正直俺も悩んでいるんだ」
「なんだよ!歯切れ悪いな!リュカの意見を教えてくれよ!」
「それは…王をどうするかだよ」
「どうするって…どういうこと?」
「王を残すか、それとも…殺すかってことだ」
王を殺す。その言葉にその場にいた皆は凍り付いてしまいました。私も考えさせられる内容です。王はそれまで居て当然だったもの。それを自分たちの手で終わらせて良いのか、彼らは迷うことでしょう。結果だけを私は知っています。けれども、そこに辿り着くまでの過程が、今の私にとっては一番大事なのです。
「王を…殺す?正気かよリュカ!」
ジャンは声を荒げながら、リュカの両肩を掴み、彼を揺らします。
「ああ、正気だし、本気で言っているよ。でも、これは俺だけで決めていい問題じゃない。だからこそ皆に問いたいんだ。貴族や聖職者を含めた皆で」
「まじかよ…」
「だから、ここにいる皆も考えておいてほしい!この先どうなるにせよ、革命において必ずぶち当たる壁だ。そして、どうするかは民意で決めるつもりだ」
皆の顔が強張り、どうするか決めかねている様子です。そんな少し居心地の悪い雰囲気を察したのか、リュカは話題を変えました。
「まあ、この話はまだ当分先の話だ。今はとりあえず他の身分の結論を待とう!」
「あ、ああ。そうだな」
そうして私たちはリュカのパターンごとの動きについて再度確認し、この後の本会議の打ち合わせをしました。リュカの予想では多くて半々、最悪片手で収まる人数が賛成するだろうというものでした。しかし、いざ本会議が始まると、その予想は大きく覆りました。
「我々第1、第2身分は、第3身分の議案に全面的な賛成の意を表します」
あまりにあっけないものでした。まるで誰かが精神魔法でもかけたような掌返しです。そうして本会議は順調に進み、王へ3つの身分が団結したことを表明するために、三部会という名前を改めることになりました。
「名前どうするよリュカ!」
「そうだな~国民の代表ってことで国民議会でいいんじゃないか?」
「ちょっと安直だな」
「そうか~うーん何がいいだろうな」
「では、こんなのはどうでしょう」
ジャンが指を立て新たな議会の名を告げます。
「まさに国を変える革命を起こすわけですし、革命議会というのでどうでしょうか?」
そうして国民議会と革命議会、どちらにするかの投票が素早く行われ、結果、革命議会と名付けられることになりました。
「それじゃあ、これから俺たちは三部会改め、革命議会としてやっていく!みんなで力を合わせて、この国を変えるぞ!」
「おおおおおお!」
「お、おお!」
リュカの号令に平民の代表者が最初に雄叫びを上げ、その後に遅れて特権階級の者たちが声を上げました。これほどまでに順調に進むとは思ってもいませんでした。そして、この後に訪れる惨劇のことも。




