第4話 プレリュード
今、革命の狼煙を上げ、この国に光をもたらすであろう青年を前に心を震わす少女がいます。儚くも幼いその少女を知っていますね。そう、〈時の魔術師〉ホタルです。
議会を出て行った平民の代表者たちを追い、私たちはとある屋内球戯場に辿り着きました。そこでは特権階級の人々に辟易し、不満が漏れ出していました。
「なんなんだあのクソ貴族たちは!」
「俺たちのこと何も考えていない!こんなのが王に認められているだなんておかしい!」
「ああ、どうにかしてあいつらを貴族の座から降ろせないものか!」
「聖職者達もだ!」
口々に溢れだす不満が部屋中に充満しました。この場を仕切れる人間はもういないでしょう。少なくともあの代表者たちの中には。
「ホタル、あいつらを少し静かにして俺の話を聞くようにはできないか?」
リュカはやる気のようですね。もう臆病は彼はどこにもいないようです。私はそんな彼に笑みを零し、快く引き受けました。
「ええ、もちろんできますよ」
「それならよかった。じゃあ、行くか」
「ええ、そおうですね」
私たちは魔法のヴェールを脱ぎ、彼らの前に立ちました。そしてリュカが彼らに号令をかけます。
「ちゅうもぉぉぉぉく!!」
その声はスピーカーや伝令の魔法を使っていないにも関わらず、その場の喧騒を黙らせました。彼は旧人類でありながら魔法並みの出力を出せるのですね。そんな彼に驚いていると、代表者たちも驚いた様で、口々に言葉を投げかけました。
「は!?誰だお前は!」
「どこから入ってきた!」
「まさか!?貴族たちの回しモンか!」
場は不満の満ちた暗い雰囲気から一変、混乱に満ちた嵐のような雰囲気になりました。それでもリュカは止まりません。私の出番はまだ無いようです。
「俺の名はリュカ、リュカ=アルベールだ!そして、この国を変える男だ!」
「はあ?何言ってんだお前!」
「そうだ!そんなふざけたこと言って俺たちの邪魔をする気か?」
「ふざけた真似をしているのはどちらだ!何だあの会議は!なんだこの現状は!今日で何が決まった!何が変わったと言うのだ!」
周りからの罵声はありましたが、リュカの声量と熱量に気圧され、その声は段々と小さくなり、彼の演説のみが球戯場に響きました。
「我々の敵は何だ?貴族か?聖職者か?いいや違う。我々の敵は王権そのものだ!贅沢を貪り、そのツケを払わせたのは誰だ!この国の王たちだ!そして、今!我々だけでは補えなくなった税を第1、第2身分の特権階級たちに払わせようとしているのは誰だ?」
リュカは一人の男に指を差し、答えるように促しました。
「お、王だ!」
「そうだ!我々が立ち向かわなくてはいけないのは王だ!断じて!特権階級の者たちなどではない!」
場はリュカの演説によって熱を帯び、異様な空気に包まれていました。それまでは不満を漏らすだけだった彼らも、真の敵は誰かを真剣に話し合い、まさに白熱した議論へと変わっていきました。
「だが!王政が敵だとしても、特権階級たちに税を払わせなければ平民はもう生きられない!だからまずは彼らに税を納めてもらわなければいけないはずだ!」
リュカよりは年上ですが、まだ若い20代ほどの長身な男が意見します。
「ああ、その通りだ。貴族や聖職者には税を納めてもらわなければいけない。しかし、それは彼らと敵対して行うものではない!」
「じゃ、じゃあどうするんだよ!」
「そんなもの決まっている。彼らと手を組む以外ないだろう」
「き、貴族たちと手を組む!?そんなこと現実的に可能だと思っているのか!」
「可能かどうかじゃない。やらなきゃみんな死ぬだけだ。俺は何もできず、ただ飢えて死んでいくなんてまっぴらごめんだ!それに、今は啓蒙思想も広がっている。平等を求め我々に味方する特権階級たちも必ず存在する」
リュカはどうやら天性の才があるようですね。私が何もしなくても彼はこの場を支配してしまいました。
「あ、あんた、本当にできると思っているのか?打倒王政なんて」
「ああ、そうさ。そして、それは俺がやる!母も親友もこの国に殺された!もう我慢なんてできない!君らもそうじゃないかのか!?この国がおかしいって思っていたから立ち上がったのだろう?」
「ああ、そうだ!」
「そうだそうだ!俺たちは王なんかに屈しない!」
「この国の代表はおれたちだ!」
リュカの演説に心打たれ、彼に加勢する者たちが現れました。この流れはもう止まらないでしょう。彼は言葉だけで魔法の域に達したのです。私は震える心を押さえつけ、この神話の序章を見守ります。
「この世界を変えるのは我々だ!我々は王を否定し、人の時代を始める!この船の舵取りはリュカ=アルベールだ!共に俺とこの激動の海を渡ってはくれないか!」
そして、一人の中年の男が彼の手を握りました。
「たとえあんたの船が泥船だとしても、俺はついていく。その代わり、沈没するときまで舵を離さないと誓ってくれるか?」
「ああ、当たり前だ。それに、今ここに集うは英雄だけだ!そんな船に渡れぬ海などありはしない!そう、かつての英雄たちの船、アルゴー船のように!」
男たちの雄叫びがそこら中から聞こえました。彼らもリュカの言葉に感化されたのでしょう。普段なら耳を塞いでしまう喧しさですが、今日ばかりはその声を聞き逃すわけにはいけません。
「明日、我々は特権階級たちをこの船に取り込む。だから、皆ここに誓ってくれ!この船にいる乗っている間は、彼らとの軋轢も忘れ、同じ仲間として戦うことを!」
「あんたが言うなら従うぜ!」
「リュカ、一生ついていくからな!」
「打倒王政!!」
さあ、前奏曲はもう終わりです。ここからが彼らの始まりです。旧人類が下等な人種などと決め付けた王族たちはやはり阿呆だったのですね。だってこんなにも光に満ちた光景、私の生きる時代では、決して見られませんもの。




