第2話 18世紀、フランス
激動の時代に一人で全てをひっくり返してしまうような絶対的強者が顕現しました。儚くも幼いその少女を知っていますね。そう〈時の魔術師〉ホタルです。
「ここがフランスですか」
目の前を歩く人々はどこか生気がなく、街もどこかボロボロでした。これから大きな革命を起こす国の民たちとは思えませんでした。気になった私は、道端で座っている青年に今の状況を尋ねてみました。
「あの、すみません」
「あ?」
「今は何をしているのですか?」
「わかんねえか?物乞いだよ。もう食べ物一つもないんだ」
「それは大変ですね。では、食べ物をあげるので、どうしてそんな貧しくなったのか教えていただけませんか?」
「はっ、そんなことで飯が貰えるなら喜んで話すぜ」
「では、こちらを」
私は鞄の中から缶詰を取り出し、それを手渡しました。
「おいおいなんだよこれ」
「ああ、缶切りを持っていませんか?」
「いや、そうじゃなくて、なんだよこれは」
「ただの缶詰ですが」
「なんだよそれ」
どうやらこの時代の人々は缶詰すら知らないようです。仕方がないので缶を魔法で開け、彼にあげました。
「おいおい、こんなうまいパン初めて食ったぞ!」
「そうですか」
「しかも出来立てみたいにあったかいし」
「まあ、出来立ての状態で時を止めていましたから」
「はは、ほんとうめえ」
彼は食べながら喋るので、パンくずが飛び散っていました。汚いですね。そうして食事を終え、彼はここまでの経緯を語りました。
「俺がこんなんになった理由は何の面白みもないが、税が重すぎたせいだ」
「急に税が重くなったんですか?」
「まあ、そうだな。元から税は重かったよ。生活もギリギリだった。全部貴族や王族の贅沢のせいでな。でも、一番の原因はやっぱりあれだよ」
「あれとは?」
「は?知らないのか?戦争だよ戦争!イギリスとの戦争で馬鹿みたいに金を使って負けたんだよ」
そう言われても、この時代では革命があったことしか知りません。旧人類の歴史的文献はほとんど残っていないので、翼の教科書で軽く読んだ内容しかわかりません。
「そうだったんですね」
「それで、ただでさえ金がなかったのに、更になくなって国はボロボロだよ」
「それで街がこんなにも静かなんですね」
「まあ、それもあるが、今は代表者たちが会議で出払っているからってのもあるな」
「会議ですか?」
「ああ。王様が貴族や聖職者にも税を課すって決めて、それに納得いかないお偉いさん達が誰が税金を払うんだっていうくだらない会議を始めたんだよ」
「確かにそれはくだらないですね」
いつの時代も特権階級はダメですね。私たちの時代も貴族たちは魔法の特許を守ることに必死でしたし。
「それで代表者たちが話し合っているってわけ」
「そうだったんですね。ここまでの流れはある程度わかったのですが、なぜ物乞いに?誰か助けてくれる人はいないんですか?」
「いねえよ。家族は死んで、親友は戦争で戦死だよ」
「そうですか。それはお辛いですね」
「住む家も、人との縁も、金も、何もかもを失って、今はこれだよ」
まさにこの世の地獄ですね。私も似た境遇とはいえ、魔法という絶対的な力があり、それで生計を立てられています。それができない彼の辛さは推し量ることはできません。
「では、このまま死んでいくつもりですか?こんな国変えてやりたいとは思いませんか?」
「思うさ。変えられるならな。でも、俺にはそんな力ない。だからこのまま野垂れ死ぬしかないのさ」
「市民の代表者として戦う道もあるのでは?」
「俺にはそんな勇気はない。国中の国民の思いを背負って権力者たちと戦うなんて」
「ないのは勇気だけですか?」
「ああ、そうだ。勇気が出ないんだ」
「なら、能力は足りているのですね」
「は?ああ、まあそこそこ頭は切れるほうだと思うぜ」
あまり自身に自惚れる人を信頼はできませんが、今回は彼に賭けるとしましょう。もちろん私のは自惚れではなく事実なので何の問題もありませんよ。
「では、あなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」
「俺はリュカだよ。あんたは?」
「私はホタルです。では、リュカ、単刀直入に聞きます」
「おう」
「あなたの夢はなんですか?」
「夢…そんなの決まってるだろ」
彼は、それまでの敗者のように光のない目ではなく、生気を宿し、力強い瞳で私を見つめました。
「この国を変えることだ」
「良い夢ですね」
「まあ、叶うわけないけどな」
「なら、私があなたに勇気を与えましょう」
「は?」
私は一輪の花を出し、彼の前に掲げます。
「これが、あなたに勇気を与えてくれます」
「なんだその花?」
「マリーゴールドです」
「なんか凄い乾燥しているけど」
「はい、ドライフラワーなので」
「はあ」
「最後に1つだけ教えてください」
「なんだ?」
「もしもこの国を変えられるとしたら、命を懸けられますか?」
「愚問だな。」
そう言い、リュカは不敵に笑い、立ち上がりました。
「こんな腐った国を変えられるなら、命なんて惜しくねえよ」
「その言葉聞けて安心しました」
そして、私は体中に魔力を込めました。昂る私の心と反応して魔力が舞い上がっているのがわかります。
「花よ、その形を捨て、言葉となりて、私たちに権能を授けよ」
周囲に光が舞います。それでも今回はいつもとは違い、花弁は舞いません。その代わり、魔力の粒たちがドライフラワーに活力を与え、魔力に満ちた花は神々しく
輝いていました。
「その輝きを永久に伝え、作られし意味として、もう一度咲きほこれ」
そうして光は一点に集まり、球形へと形を変えました。そうして辺りは白き光に包まれ、私の手には花栞が顕現していました。
「おい、ホタル」
「どうかしましたか?」
「今、何が起きたんだ?」
毎度恒例のやつです。魔法を知らない彼らにとって魔法の輝きには畏怖の念を抱くようです。私はいつものように懇切丁寧に教えてあげました。
「と、いうわけです。魔法のことがわかりましたか?」
「ああ、ああ!すげえなほんと!魔法ってこの世に存在したんだな!聖職者たちの嘘じゃなかったんだ!」
「まあ、この時代のものは嘘でしょうが、私のは本物です」
「いや、この時代のは嘘なんかーい!」
「はい、そうですね」
彼のギャグセンは高く、突っ込みのキレの良さに思わず笑ってしまいました。
「マリーゴールドの花言葉は勇気です。ゲインと唱えれば、あなたに勇気を授けてくれます」
そう言って彼に花栞を手渡す。彼も覚悟を決めたようで、それを力強く受け取りました。握りつぶして綺麗な花栞が傷つかなくてよかったです。
「ゲイン!」
「これで足りないものは全て揃いましたね。では、私に見せてください。あなたのレジェンドミィスを」
旧人類にとってこれはただの歴史的エピソードにすぎないのでしょう。でも、私にとっては王への反逆という伝説的な神話なのです。そして、この神話の先にきっと私の答えがあるはずだと信じています。




