第1話 臆病な王
王族に刃を向ける少女がいます。儚くも幼いこの少女を知っていますね。そう〈時の魔術師〉ホタルです。
「あなた、王族ですよね」
「さあ?こんな不潔な王族なんているか?」
「剣よ、舞え」
私は武装魔法を使って周囲に剣を展開し、目の前の男に照準を合わせました。
「もう一度聞きます。王族と認めるつもりはありませんか?」
「それで俺を刺せばわかるんじゃねえか?」
「それもそうですね」
私は剣に突進の合図を出し、男へ一斉に射出しました。
「ほら、やっぱり王族じゃないですか」
全ての剣が彼に当たる前に崩れ、まるで存在が否定されたように、魔力の粒へと戻りました。
「まあ、今回は口を滑らしちまった俺のせいだし、王族への不敬として裁くのは止めてやるよ」
「なぜ王族のあなたがわざわざここに?」
「勘違いすんな。俺は確かに王族だが、弟との派閥争いに負けた負け犬だ」
「ということはあなたが第一王子の」
「ああ、ダンテ=ユーリエフだ」
「あらあら~最優の王子なんて言われていたお方がまさかこんな惨めなお姿になるとは~」
嘲笑うその言い方に腹を立てる様子はなく、ダンテはただ淡々と自身の身の上話を続けていました。
「ああ、今となっては弟の教育係だよ。でもな、俺からすれば弟に王の素質はねえよ。あいつはレオンを拒み続けているからな」
レオン…魔法使いの始祖であり、新人類と旧人類の争いに終止符を打った男であり、最強の魔法使いです。
「レオン様を拒むとは、これまた革新的な王子様ですね」
「お前、王族の秘密をどこまで知っている?」
「私の父が知っていた範囲でなら」
「はあ~全く参ったもんだぜお前の一家は」
大きなため息を吐き、私の家族への悪口…というよりは私たちがやらかしたことへの恨み辛みを吐露していました。
「父親は禁術使い、姉も禁術指定、そんで末っ子のお前も禁術指定。どうなってんだお前ら家族は」
「とても優秀な家系と言ってください」
私は剣による攻撃を再開した。王族と喋っていると、怒りで何もかもを吹き飛ばしてしまいそうだからである。適度なストレス発散というやつだ。しかし、一切効果はない。
「まあ、お前が王族を憎んでいるのはわかるさ。お前の家族はいわば王族に臆病者しかいなかったせいで死んだんだからな」
「それがわかっていてよくもまあ私の前に立てますね。王族は能力だけじゃなくて魂すら人間をやめたんですか?」
「勘違いすんな。俺はあの臆病者たちとは違う」
「何が違うんですか?」
「俺には野心がある」
「野心?」
「俺はこの王権をぶっ潰したい」
その言葉に私の攻撃の手が止まった。王族が王権を潰したいなんて馬鹿なことを言い出したんです。王族という座に胡坐をかいていれば、一生安泰だというのに。
「わざわざ王族の立場を捨てるなんて馬鹿なんじゃないんですか?」
「お前だって知ってるだろう?王族がどれだけダサいやつらか」
「ええ、それはもちろん。保身と特権だけの腐ったミカンたちです」
「そうだ。あいつらの全てがつまらない。だから俺は全部壊して俺が新時代の初代王になる」
「そんなこと本当に可能だと?」
「俺だけじゃ無理だ。でも、俺とお前なら可能性はあると思わないか?」
「ここにお姉ちゃんがいれば可能だったでしょうね」
そうだ、私じゃ姉には遠く及ばない。だって、あの始祖レオンが残した10の魔法を全て実用化させたんだよ?私はその理論が何一つわからなかったのに。それに、全ての魔法系統を王級以上で使えるお姉ちゃんは、始祖レオンに並ぶ魔法界の神だ。
「俺はそうは思わねえ」
「どんな冗談ですか」
「そのまんまだ。お前の姉は確かにバケモンだ。それは間違いない。でもな、それは現存する魔法理論の中でだ。時の、お前は魔法理論の外側に行く人間だ」
「は?」
「お前の姉は既存の魔法をほぼ全て使えたが、新しい魔法は何も残していない。ただ周りが使えなかった魔法を使えただけだ。でも、お前は新たな魔法理論を作り上げた」
「でも、魔法使いとして優秀なのは姉で…」
「俺が欲しいのは今を壊せる才能だ。それはお前の姉じゃねえ、お前自身だ」
ほんの少し、心が震えた。この道は間違いなくハイリスク。でも、もしも成し遂げられれば、私の夢が叶うかもしれない。馬鹿馬鹿しい理想を掴めるかもしれない。
「とりあえず、お前の結論は次に会った時に教えろ。まあ、どんな未来になるかはもう知っているがな」
そう言って男は店を出て行った。
「どうしよう」
その日はもう他のことは考えられず、ずっと家の中を歩き回っていた。そうしても結局結論は出なかった。
「革命…私にできるのかな」
もう考えていても仕方がないと思った。だから私は見に行くことにした。
「時の精霊よ、私の声を聴け」
目的地は18世紀、フランス。そこで私は見るのだ。始まりの反逆を。




