第7話 継母の毒
この可愛らしい…いいえ、今はとても他人に見せられる顔ではありませんね。儚くも幼いその少女を知っていますよね。そう〈時の魔術師〉ホタルです。
「翼…どうしてこうなったのでしょうね」
翼からの連絡が来る少し前、私は彼の母親の動向を監視していました。そこで私は見てしまいました。この世の醜悪を。
「で、いつになったら翼を殺せるの?」
「い、いやあ殺すなんてねえ…ほんとにそこまでやらなきゃなんすか?」
「私としゅうくんにはあいつが邪魔なの。遺産目当てで結婚したのにとんだ粗大ゴミがついてきて最悪な気分よ」
ああ、これが母親の姿なのでしょうか?私はとてつもない吐き気に襲われました。しかし、見届けなければなりません。
「あんたらが殺しても少年院止まりだし、それに前科ついてもしゅうくんのところで雇ってもらえるから大丈夫よ?」
半笑いで息子への殺人を肯定する彼女はもう人間などやめてしまったのでしょう。王族のように。
「それにあんたら、私からいくら貰ってると思ってるのよ?それに見合った仕事をしなさい」
「…うす」
「さっきも夢なんて聞いて本当に気持ち悪かったはあの子」
「そ、そうなんすか」
「その場ではテキトーに応えたけど、私の夢なんてあんたが死ぬことよって言ってやりたかったは~」
その言葉を聞き、私は家に帰りました。彼女の夢を聞き届け、大きな虚脱感を胸に小さな一歩で歩みました。
「まさか、セカンドゲインの発動条件が揃うなんて思いもしませんでした」
どれだけ母親が子どもを嫌っていても、これだけは発動できないと思っていました。しかし、セカンドゲインを行使できることは、翼の最後の救いなのかもしれません。そんな時、翼から電話がかかってきました。
「もしもし、ホタルか?」
「はい、そうです」
「あいつら、俺の母さんから金を巻き上げていたんだ!だから、絶対許さない」
「…場所はどこですか?」
「あのコンビニの近くに人気のない廃工場がある。そこであいつらをボコボコにする」
「私が行くまで少し待てませんか?」
「いいや、もう待てない。絶対にあいつらを殺す」
どこまでもあなたは救いのない道を選ぶのですね。きっともうファーストゲインの効果は切れている。だって魔法は永遠じゃない。花魔法の効果は、使用された花によって決まる。トリカブトは摘まれてから一週間程度で枯れてしまう。それが魔法のタイムリミットです。
「あなたの鎧はもうどこにもないのに…」
私はソファー近くの床に魔法の瓶を置き、翼のいる廃工場まで向かいました。全力で魔法を使って向かえば彼は痛い思いをしなかったのかもしれません。それなのに私は己が倦怠感から、徒歩で向かってしまったのです。
「翼、私に嘘を吐きましたね。いるじゃないですか王様が。私の大嫌いなクズたちが…」
そうして廃工場に着くと、案の定翼は酷い有様でした。
「翼…今、私があなたを救います」
私は彼の縋るような目をしっかりと見てから唱えました。
「セカンドゲイン」
私の言葉と同時に翼の体には毒が回り、彼は息絶えました。トリカブトの花言葉を知っていますか?「復讐」「人間嫌い」「騎士道」などらしいですよ。では、なぜ翼の体に毒が回ったのでしょうか?
「ホタル、よく聞いてね。ファーストゲインを花言葉の解放と呼ぶならばセカンドゲインは逸話の再現なんだよ」
昔、レヴィ叔母さんに教えてもらったことです。トリカブトは大昔、「継母の毒」とも呼ばれていました。古代ローマ、継母が夫の連れ子を殺すために頻繁に用いられたらめ、こんな呼び名ができたようです。その逸話を私は解放しました。
「この逸話は継母からの明確な殺意がなければ成立しない…はずなんですけどね」
「お、おい!こいつ息してないぞ!?」
「はあ?おま、加減ミスったのかよ!」
「いや、そんなことねえって!やべえって!」
「とりあえず逃げるぞ!」
小者が何やら叫んでいます。不愉快ですね。私は翼が持っていた魔法の瓶を回収し、もう一度彼の自宅に向かいます。
自宅につくと翼の母親が男といました。彼女たちがベッドの上で戯れている姿はまるで獣のようにお盛んで、気持ちが悪かったです。なので私は魔法の瓶を回収し、すぐにその世界を消しました。
家に戻り、夢の蕾へ向かいました。そして二つの夢を注ぐ。そのはずでした。
「こちらは汚いのでやはりやめましょう」
母親の夢を捨て、翼の夢だけを蕾に注ぎました。そうして私は花畑を出て、いつもの場所に戻るのです。そうして、私の旅が終わったのを知っていたかのように、またあの男が訪ねてきました。
「今回の旅はどうだったんだい?」
「…毎度よく旅の終わりがわかりますね」
「まあ、毎日来ては居るか確認しているからな」
「私の熱心なファンなのですね」
「冗談はよしてくれよ。それで、どうだったんだ?」
「もしも…」
「?」
「もしも母親に愛されていなかったら、もしも母親に死んでほしいと思われていたら、あなたなら生きていけますか?」
「それが今回の旅に関係あるのか?」
「いいから答えてください」
「俺は家族なんてどうでもいいからな。母親が俺のことを殺そうとするなら俺は母親を殺す。それだけだ」
「中々酷いですね」
「酷いのは今泣いてるあんたの顔だろ」
「…」
どうやら私は泣いていたようですね。きっとそれは翼のことを悲しんだのではなく、私がもしも母親や家族に嫌われていたらというイフを考えてしまったせいです。だって、お母さんとおばあちゃんは私のせいで…
「少なくともあんたは家族に嫌われてないと思うぜ」
「どうしてですか。だって私の家族は…」
「あんな死に方、お前に才能があるからってできるもんじゃねえよ。きっとあんたに生きて欲しかったからだ」
「そうだと嬉しいですね」
「きっとあんたの姉もそうだと思うぞ。じゃなきゃ最後にあんなあっさりと…」
「え…」
「あ、いや、今のは忘れてくれ」
この人は今、私の姉の話をしました。以前もおかしなことを言うなと思っていましたが、どうして知っているのでしょうか。もしや…
「私の姉の代表的な魔法はなんですか?」
「おいおい何だよ急に」
半笑いで誤魔化し、その場から去ろうとするその男に、私は般若の如く怒りをあらわにしました。だって、私と王族しか知らない真実をこの男は…もしもそうであるならば、この場で死なない程度に殺してしまいましょう。
「いいから、速く答えて!」
「そ、そりゃあ、えーと…ああ!宇宙を理解する11次元の魔法を実用化させたことだろ!他にもほら、次元魔法でレオン様が残した10の魔法を初めて実用化させたのも彼女だしな!」
私は彼の胸倉を掴み、真相を確かめます。
「本当にそれですか?」
彼はさっきまでのふざけたような態度ではなく、神妙な面持ちで話します。きっと私の予想は当たっているのでしょう。
「時の魔術師さんよ、それ以上は野暮ってもんじゃねえか」
「認めるわけですね」
「さあ、どうだろうな」
やはり王族は嫌いです。私に姉を殺させたのに、こうやって悪びれもせずに姿を見せるのですから。




