第6話 弱者に救済を
ただの平凡だった少年がいた。しかし、あの日、美少女に救われた。そんな少年を知っているかい?そう、結城翼だ。
ホタルが来てから一週間と少しが経った。あいつがいたから俺は救われた。ホタルはどこか変わっていて、自分勝手だけど、感謝せずにはいられない。
「あいつがいなきゃ今頃…」
命があることに喜びを感じながら通学路を進む。今まではただただ憂鬱な道だった。でも、今は胸を張って歩けるんだ。ホタルから渡された魔法の瓶を握りしめ、学校に向かう。
「よお翼」
学校に着くと、いつものように不良が絡んできた。ここ最近は何度も僕にやられているのに懲りないやつらだ。
「なんだよ」
「あ、いや、その」
やたらと歯切れの悪い。用もないのに絡みに来るとは、不良も退屈なのだろうか?それに、僕に固執しすぎだろう。まあ、他の奴を狙っても、僕はそれを見過ごさないが。
「何?」
「いや、なんでもねえ」
そう言い、取り巻きを連れて去っていく。本当に何がしたかったのだろうか。
「ちょ、いいんかよ?」
「しゅうさんに怒られちまうぞ!」
「だからって、どうしようもねえだろ!」
最後までうるさい連中だな。本当に。
家に帰ると、そこには母さんがいた。母さんは忙しくて、家計も厳しいからずっと働いてくれている。
「母さん!帰ってたんだ。お仕事お疲れ様!」
「ああ、ありがとうね、翼。」
「今コーヒー淹れるよ!待ってて」
「ありがとね」
母さんは疲れているのか、口数が少ない。いいや、いつもこれくらいだっただろうか。ホタルが来てから会話が増えて、今までに満足できなくなっているのかもしれない。
「母さん、聞きたいことがあるんだ」
「ん!?何?」
母さんの体が少し跳ねた。そんなに驚いてどうしたんだろうか。
「母さんの夢って何?」
「え?夢?」
初見ならやっぱりこいうい反応になるよな。でも、ホタルとの約束だ。しっかり聞いて、叶えたい。
「急にどうしたの?」
「いや、その…母さん、俺のために仕事とか頑張ってくれてるだろ?だから少しでも
母さんの夢を叶えたいなって」
自分でも身の丈に合わないことを言っていることは自覚している。でも、今の俺とホタルならそれも無理でなないんじゃないかって思える。
「夢ねえ…」
母さんの夢。今まで考えたこともなかったな。ずっと自分に精一杯だったから、他の人を気遣う余裕なんてなかった。でも、今ならきっとできる。
「強いて言うなら、翼が元気でいることかな」
その母さんの言葉に思わず涙が零れそうだった。血の繋がりはないけど、母さんは母さんだ。
「私、少しコンビニに行ってくるから」
「それなら俺が行ってこようか?母さん疲れてるだろうし」
「いいや、大丈夫」
そう言って母さんは少しの身支度をして出て行きました。僕は部屋の掃除をすることにした。
「母さん、自分の部屋は自分で掃除するって言うけど、そんなの僕に任せてくれればいいのにな」
母さんと親父の部屋は僕の管轄外だ。母さんはあまり入ってほしくないようだから、僕は入らない。
「でも、なんで母さんはダメって言うんだろうな」
今までは考えたこともなかったが、同じ家で入れない場所があるのはおかしいだろう。何かがあるのだろうか?親父は遺言も何も残さず死んだって言ってたけれど、もしかしたら何か…
「いいや、母さんを疑うなんて馬鹿馬鹿しいよな、やめよう」
一通り掃除を終え、ソファーに座る。
「母さん、大丈夫かな」
コンビニに行くと言っていたが、あそこはヤンキーたちが集まる場所。もしものことを考えると、居ても立ってもいられなくなった。
「よし、コンビニまで行こう!」
そうして俺はコンビニまで走った。そこで、最悪の物を見た。この世の全ての憎悪合わせても届かないほどの黒い感情が湧き上がってきた。
「母さんから、金を巻き上げてる」
あいつらは、母さんから金を受け取っていた。その事実にただ、怒りが湧くだけだった。
「おい!お前ら!」
「ひっ!翼!」
「今、母さんから金取ってただろ!」
「いや、これは違くてさ」
「何が違うんだ!」
人生で一番声を張り上げていた。僕が母さんを守らないと。
「お前たち、もう許さない。あの廃工場が見えるだろ?あそこに30分後に来い」
「は?なんでだよ」
声の震えた小者たち。こんな弱者、僕が殺してやる。
「母さんは先に家に帰ってて」
「ええ、ありがとう、翼」
そうして母さんは不良たちを一瞬睨んだ。母さんも不良たちに嫌悪感を抱いているのだ。それに対して不良たちは酷く怯えていた。母さんは凄いと思った。
「さっさと行け。僕も後で行く」
不良たちにそう言い残し、母さんを見送り、自宅に電話をかける。
「もしもし、ホタルか?」
「はい、そうです」
「あいつら、俺の母さんから金を巻き上げていたんだ!だから、絶対許さない」
「…場所はどこですか?」
「あのコンビニの近くに人気のない廃工場がある。そこであいつらをボコボコにする」
「私が行くまで少し待てませんか?」
「いいや、もう待てない。絶対にあいつらを殺す」
もう大丈夫。不良なんて怖くない。ホタルがいなくて僕ならできる。
廃工場に着くと、不良たちは既に準備ができているようだ。
「翼、もう知らねえからな」
あいつらは四人だ。傍から見れば僕が不利だ。しかし、そんなもの、今の僕には怖くない。
「じゃあ、始めようか」
「く、くそ!こんなことなら最初からやるんじゃなかったよ!」
そう言い、拳を振りかぶる。そんなものは意味がない。僕の体は鎧に包まれているはずだった。
「グホッ‼」
こいつらの拳なんて僕には意味がないはずだった。それなのに、顔面には激痛が走り、頭が揺れる。何で?どうして?僕は強くなったはずなのに。
「は?こいつ前までの雑魚い翼じゃね?」
「おいおいあんなイキっててそれかよ!」
「や、やめ…」
「おらもう一発!」
その後はただ殴られるだけだった。顔を、腕を、足を、腹を、背中を。全身に激痛が走り、僕にはもうほとんど意識がなかった。でも、その時、声が聞こえた。僕を救った少女の声が。
「翼…」
ああ、彼女はまた僕を救いに来てくれたんだ。正に女神だ。
「今、私があなたを救います…」
また恩返ししないとな。本当に僕は救われてばっかりだ。
「…セカンドゲイン」
セカンドゲイン、彼女は確かにそう言った。そして、僕は一瞬の激痛を感じ取り、その場で息絶えた────
「翼、私はこれがあなたにとっての救いだと確信しています。」
夢の溜まった瓶を回収し、その場を去ります。そして母親の夢が詰まった瓶を回収しに家に戻る。どうしてこうなってしまったのでしょうね…




