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魔法と夢と花。  作者: 無糖
第2章 トリカブト
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第5話 翼の夢

 夕日に包まれ、河川敷の草原に並んで座る幻想的な少女がいます。儚くも幼いその少女を知っていますね。そう、〈時の魔術師〉ホタルです。



「なあ、本当に俺の夢の手伝いでいいのかよ?」


何度も同じことを聞き続ける翼にはそろそろうんざりします。


「はい、なので早く夢を教えてください」


こんなことになったのは数時間前に遡ります。




「翼、あなたの夢はなんですか?」

「え、夢?」

「はい、私にあなたの夢の応援をさせてください」

「なんで夢?てか、それだったらまた俺だけ助けれられるじゃん!」

「私の旅の目的の一つに夢を集めるというものがあるんです。夢はそれが叶う瞬間にだけ形を成して集められるんです。だからそのお手伝いをさせてください。」

「な、納得いかね~」




と、こんな風に納得できないという意味不明な理由で私のお願いは聞き入れてもらえません。


「やっぱり、他のお願いはない?」

「何度も言いますけど、私の旅の目的は夢集めです。これが叶わないなら、もうこの世界にいる意味はありません」

「そうか…」


そう言って、翼は辺りをウロウロと歩き回っています。そうして時計の長針が数度世界を回り終えたころ、また私の近くまで駆け寄ってきました。


「俺の夢、よくよく考えたけど、これだったは」


そう言い、彼は満面の笑みで私に言い放ちました。


「母さんの夢が叶うこと!」


彼の笑顔は不格好でしたが、いつものような不快感はなく、私の心もほんの少し暖まりました。


「良い夢ですね」

「ああ、そうだろ!母さんさ、再婚してからすぐ俺の親父が死んじまって、血の繋がりもないのに俺のことを育ててくれたんだ。まだ若いのに毎日遅くまで働いてさ。

そんな生活がもう五年にもなるんだ。だから、そんな頑張ってる母さんの夢を叶えたいんだ」


素直に私は感動してしまいました。いつもなら長くて途中から話を聞いていなかったでしょう。でも、この話だけは聞かずにはいられませんでした。


「って!?ホタル泣いてるのか!?」

「え…」


私は気づかぬうちに涙を流していたようです。頬に伝う雫をすくい上げ、つい昔のことを思い出してしまいました。


「私も家族が大好きなんです。でも、もう誰とも会えなくて…それが悲しくて」

「…」


夕焼けが私たちを飲み込んでしまいそうなほど赤く輝いています。その輝きに影響されたのか、翼も何やらカッコいい台詞を吐きます。


「なら、俺に話してくれ。ホタルの家族のことを」


その真っすぐな瞳に、ほんの少しだけ口が緩みます。


「少しだけですよ」

「ああ、それでもいい」

「私が小さい時は、お母さん、おばあちゃんにお姉ちゃんの計4人で過ごしていたんです。」

「父親は?」

「私が生まれる少し前に亡くなりました」

「そうだったのか。何か病気とか?」


話を聞いてくれるのはいいのですが、あまり人の死因を聞くのはデリカシーがないですね。今回だけは見逃してあげますけれど。


「いいえ、処刑です」

「しょ、処刑!?」

「はい。禁術を使ってお姉ちゃんを助けて処刑されました」


きっと禁術のことも処刑のことも日常とは程遠い彼にはわからないでしょう。それなのにこんな話をしてしまいました。


「お母さんとおばあちゃんも処刑されました。私の処刑を回避するために、王族に忠誠を誓って自ら魔道具になって死にました」

「…そうなんだ。処刑ってホタルは何か悪いことしたの?」

「過去に戻れる魔法を作ったんです。最初は過去の世界を再現するだけの魔法だったのですが、本当の過去に戻れる魔法を作ってしまって。それで過去改変を恐れた王族に目をつけられました」

「…」


翼の口が止まります。それまでも何とか喋っていた彼の口が完全に止まる。もう潮時なのでしょう。


「さ、ここでおしまいです。暗い話は止めて、明るい夢の話をしましょう」

「お、おう!そうだな」

「それで、翼のお母様の夢は何なんですか?」

「知らん」

「は?」

「知らない」

「はあ…」


つまり、翼の夢を叶えるには、母親の夢の調査からというわけです。素敵な夢ですが、とても大変です。


「では、夢の調査からですね」

「おう!今日の夜聞いてみるは!」


しかし、その日は彼の母が帰ることはありませんでした。




「それじゃ、学校行ってくるは!」


寝不足なはずなのに、元気に笑顔で登校していく。そんな翼に感化されたからか、私も活力に満ち、金庫を突破することにしました。


「あんまり良い行いではありませんが、私の好奇心が止まらないので仕方ありませんよね」


そうして体中に魔力を駆け巡らせる。今回の魔法は上級ではあるものの、世界最高難度の次元魔法のため、天才とは言え、専門ではない私は少し気合を入れました。


「世界を歩みし精霊たちよ、今ここに秩序を変えることを、どうか許してほしい、ああ、世界よ、我が意思に染まり、跪け」


まさに世界中の精霊が集まったかのように白き光が身を包む。正真正銘、魔法の域を超えた超越者の奇跡。これによって、私は一つ上の次元へと引き上げられた。


「ほんと、お姉ちゃんはとんでもない魔法を作るよね」


これで金庫すら開けずとも中身が取り出せる。


「四次元軸の認知…これで上級なんだからほんと敵わないや」


そうして私は金庫の中の手紙を取り出し、読んだ。



翼へ

 お前にとっては突然の訃報だろう。しかし、俺は少し前から病気であると診断されていたんだ。もう取り返しのつかない状況だった。

 美咲さんと再婚をしたのも、お前が一人になることを恐れたからだ。彼女には本当に悪いことをした。病気のことは話したが、子どもがいることを伏せていたんだ。それでも彼女は翼を受け入れてくれた。本当に素晴らしい女性だ。感謝している。

 お金のことは心配しなくていい。この家と、二人が何不自由なく暮らせるだけのお金は用意した。

                            家族を愛する父より



とても感動的な手紙を読み、また涙腺が緩んでしまいました。その時、翼の母親と思わしき女性が帰ってきました。


「あ~しゅうくん?今日もそっち行くからさ。うん、待っててね。あ~あと、あの子ども達にやらせてたのは順調そうなの?…ええ、それなら良かった!」


何やら楽しそうに話していました。話の内容から、大方の結末を予想し、手紙を金庫に戻しました。




それから一週間ほど、私は翼の母親を尾行して全ての真相を知りました。誰もいない家に戻り、とてつもない虚脱感に襲われた私は、ソファーに横になりました。しかし、現実は私に追い打ちをかけるようで翼から連絡がきました。


「あいつら、俺の母さんから金を巻き上げていたんだ!だから、絶対許さない」

「…場所はどこですか?」

「あのコンビニの近くに人気のない廃工場がある。そこであいつらをボコボコにする」

「私が行くまで少し待てませんか?」

「いいや、もう待てない。絶対にあいつらを殺す」


そう言って翼は電話を切りました。家の中では固定電話の通話終了音が鳴り響くだけでした。




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