↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/64

イギリス篇 中章&断章 15

1940年12月20日 4:52


 ゆっくりと準備を整える。あの時同じように。もう二度と袖を通すまいと思っていた服に袖を通し、支度を整える。重い外套を羽織り留め金をかけた。

 今朝は月明りすらない。

 絶好の出立日和だ。


「そういえば、お前は新月を喜んでいたな。

 今日は、塹壕の土を顔に塗っておけば、誰も俺たちには気が付かない。と。」


 ゆっくりとホルスターから銃を抜く。

 一日たりとも手入れを欠かしたことのない、ルガーP08R。

 伝令兵用にカスタムされた‥‥‥いや、カスタムした銃だ。軽量化と隠匿性の向上のためにショートバレル化された銃。多くのメリットを喪った銃。それでも、伝令兵たちには、この銃は渡された。

 1カートリッジ、9発の弾倉。伝令兵には、1カートリッジの他に、たった1発の9ミリ弾が渡される。

 伝令兵が捕虜になることを恐れた自決用の弾丸であり、そして、裏切者を撃つときに使用する弾丸でもあった。


「伝令兵になるための最後の1ピースだ。お前は、そう言っていたな。おれは、その1ピースを使う勇気がなかった。」


 ゆっくりと、装填を追え立ち上がる。もう、ここに戻ることはないだろう。

 エントランスは静かだった。邪魔するものなどいない。それを象徴するように。

 静かに横切ると、入り口の扉ではなく通用口を開いた。

 凛とした冷たい空気が、この決意をさらに重いものにしてくれる。


「シュレッターは‥‥‥Mark127は、無事に帰れただろうか?」


 ふと出た言葉に苦笑いを浮かべた。当然のことだ。彼の特異性が知れた今、MI6が、なによりイギリス軍が逃しはしないだろう。今頃は、安全な場所で帰国の時を待っているはずだ。


 不意にワーゲンのライトの光が網膜を焼いた。どうやら、出迎えらしい。ゆっくりと近づき、大きなサイドカーに荷物を置いて腰かけた。


「では頼む。」


「行先は、フランクフルトでよかったな。

 ——ブレンド」


 声に驚いた。運転手が、ゆっくりとゴーグルを外した。

 その下から出たのは、見知った顔だった。


「シュレッター。なぜ」


「まあ、あれだ、帰国までの1週間。休暇をもらえた。

 休暇中ならば自由行動も止むえないって、上司の判断だ。休暇と成ったら、せっかくだから、死の街フランクフルト観光もしたいって思っただけだ。あそこは、写真にもとられていないからな。

 

 それにだ。

 

 俺も、お前の元バディに言いたいこともある。

 理由なんてそんなもんさ。」


 ぐっと出たものを抑え込んだ。


「この馬鹿野郎が」


 その言葉は、照れ隠しにしかならなかった。だが、それは、たった2か月でできた即席バディにもバレバレだったらしい。人懐っこい笑みを浮かべたシュレッターは再びゴーグルを掛けなおした。


「これからが、本番だ。

 行こうぜ、総統閣下っていうあんたの最高のバディの顔を拝みな」


 ベルリンの街。黄昏が深い最も暗い中をワーゲンのエンジン音とライトが切り裂いていく。

 まだ夜明けは遠くにあり、真実は、その闇の中にあるのだとしても。


 すでに、動き出した物語は、止められるはずもない。

これで、イギリス篇 中章は終わりになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。