表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/12

Load of the poison

「そろそろ毒を食わないと死ぬぜ!!!」


 穏やかな昼下がり。ボロボロになった身体も癒え、割と元気に過ごしていた今日このごろ。

 俺は最近毒を喰らっていないことに気がついた。


「何を言っているんだ?」


 金髪の美少女、アルアが俺に声をかける。

 彼女はどうやら定住するところさえ失っているようだったので、緊急ながらも俺が住まう寮の部屋で同棲することなったのだ。


「いや、最近毒を食べる場面も減ったなぁって」

「…普通、毒は人が食べちゃいけないものでは……?」


 この世界に来てからというもの、周りの環境に恵まれ、食べ物に困ることは無くなっていた。

 要するに毒を喰らわなくとも生きていけるようになったということだ。今更ながら整理してみると、かなり俺は悪辣な環境で過ごしていたのだとしみじみと思う。

 

「毒を食べなくても生きていけるようになったのか。うーん、すごい成長だ」

「君はどんな生活を送って来たんだ…?」

 

 毒を食うのは2度とゴメンだと思っていたわけだけど、やはり食べなくなると無性に恋しくなってくる。失ってわかる大切さってやつかこれは。

 

「でも…」


 まあどうせなら毒なんかよりも


「アルアの作った味噌汁が飲みたいなぁ」

「な、ななななな何を急に口説いているのだ貴様はっ!?」


 耳まで真っ赤に染めて、彼女は叫ぶ。

 口説く…?


「……………まあでも、お前がどうしてもというなら…」

「何か言ったか?」

「お前ってやつは……!」


 ガチャリ。

 唐突に部屋の扉が開いた。


「面白い飲み物もらったから飲もうぜ……ってなんでお前ら同室なんだよ」

「アルアがここがいいって言ったから…」

「わかった。ゲントクお前は一旦こっちに来い」

「なんだよ…っていたいたい!」


 首根っこを掴まれティドから部屋の外へ連れて行かれる。結構痛い方だ。


「なあ、お前ついに…できたのか?」

「できたって何が」

「彼女だよ。あの娘のこと」

「できてないが」

「彼女なんだろ?それともすでに妻?」

「違うが」

「でもどうするんだ?セノさんのこと。あの人もかなりお前に懐いてたけど」

「だから恋人じゃねえって。話し聞けバカ」

「誰がバカだ誰が」

「お前だよ。一人で突っ走ってんじゃねえ暴走列車かお前は」

「なんだとぉ……!」

「お二人とも、ここで何をしてらっしゃるのですか?」


 背後から声をかけられる。氷のように凛としながらも、どこか温かみを感じる声。

 俺がよく知る人物。セノの声だ。

 怒りや呆れではない、純粋な困惑が含まれた声だ。


「よお。セノ」

「おはようございます。いえ、今の時間はこんにちはが正しいのでしょうか?」


 現在の時刻はすでに昼過ぎ。昼食はまだだったが、お昼時というには少々遅いだろう。


「どうしたの?セノさんがこっちにくるなんて珍しいんじゃないの?」


 ティドが珍しそうに疑問をぶつけてくる。


「私は昼食を作りにきたのです」

「へぇー…」

「その顔はなんだその顔は」


 ニヤニヤと人の神経を逆撫でするような微笑みをこちらへ向けてくるティド。1発ぶん殴ってさしあげたいが、ここは我慢しよう。

 でも後でぶちのめしてさしあげよう。


「で、ティドはなんの用なんだ?」


 お前の方がこっちに来るのは珍しいだろと、付け加えつつ、彼に用件を答えるように要求する。


「いや、冒険者の人が旅行のお土産として面白い飲み物をくれてね」


 こっちじゃ見ることのない珍しいものだと、彼は言った。


「あの…、とりあえず中に入りませんか?」


 確かに。



「こんにちは。アルアさん」

「ああ。セノ殿」


 扉を開けて中に入った。当たり前だが、俺が外に連れ出された時から部屋の風景は変わっていない。

 せいぜいアルアが移動したくらいか。


「すぐに昼食を作るので待っていてくださいね」


 ガラスのキューブを作り出し、手元で弄んでいると、ティドが音を殺してそっと質問してきた。

 

「セノさんはどのくらいの頻度で昼食を作りに?」

「ほぼ毎日」

 

 ささやきの質問に対して普通の声で応対する。


「へぇー」

「なんだその顔は」

「いや、なんでも」

「で?その珍しいものとやらを俺は見せてもらってない気がするんだけど」

「ああ。すまん。忘れてた」


 彼は空に魔法陣を描き、それに手を突っ込んだ。


「えーっと…どこだっけな…。ああ、あったあった」


 魔法陣をぐるぐるさせた後、彼が手を引き抜いた。そして勢いよく姿を見せた手にはちょうど四人分の便が握られている。

 中身は透明な液体で満たされており、時たまに泡のようなものが下から上へと移動している。


「これは…」

「ソーダっていう飲み物らしい」


 ソーダ…。ソーダか。この世界にも炭酸が存在していたとはなんたる暁光。前世で炭酸なんていう高級品を飲むことなぞほぼなかったから、俺に馴染み深いわけではないが、それでも一度口にしたことはある。

 確か高校生の頃だった…確かあの時は体育の準備を手伝ったお礼に先生から買ってもらったんだっけ。

 美味しかったという記憶はあるけど、どんな味だったかまでは鮮明に思い出せない。人としての運命とでもいうべきか。


「飲んでみたほうが早いでしょ」


 キュポンという小気味よい音をたて、線が抜かれる。炭酸は勢い余って溢れる…ことはなく、シュワシュワと音を立てているだけだ。


「なんでしょう…不思議な感覚ですね…」


 ソーダを口にしたセノが感想を漏らす。


「甘くて…パチパチするな」


 続けてアルアが目を丸くしたまま、率直に感じたことを口にする。

 俺も続けて飲んでみたが…。あの時飲んだものと同じ味がした。


「癖になりますね…。美味しいです」

「これが炭酸ってやつなのか…」


 セノとアルア、2人が感嘆の声を漏らし、俺は顔に冷たい液体がかかった。


「うわっ。なんだこれ…!?」

「あ、すまん」


 視界がクリアになり、すぐに見えてきた景色の先には瓶を俺に向けたティドがいた。


「吹き出るものは人に向けるなって言われなかったのか?」

「いや、お前ならいいと思って」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ」

「まあ、その、なんだ。ごめん…ってぶわっ」


 ティドの顔にソーダがかかる。目には眼を歯には歯を、ソーダにはソーダを。


「おい!何すんだよバカ」

「これで頭冷やせよバカ」

「誰がバカだ」

「お前だよ!自覚しろバカ」


 人にソーダぶっかけておいて何がバカだ。


「まあいいや」

「いやよくないだろ」

「それとは別にもう一つ見せたいものがあって来たんだ」

「無視すんなよ」


 俺の言葉を気に止めることもなく、彼はスラスラともう一つの目的とやらを語る。困ったな、止まる気配がないぞ。


「一つね。面白いものを作って来たんだ」


 彼はもう一度空に魔法陣を描き、ゴソゴソと漁る。

 そして、何かを見つけたのか、今度はゆっくりと手が引き抜かれてゆく。魔法陣から姿引き抜かれる手が握っていたのは、一振りの大剣だった。


「よっ…とぉ」


 がこん。部屋の床に容赦なく刃が突き立てられ、その大剣は直立する。要するに、床に突き刺さったってわけだ。


「一応ここ借家なんだけど」

「こいつは昨日、俺が作った大剣。魔法の強化と威力の底上げができるぞ」


 話を全く聞かないや…。


「なんと言っても一番の目玉はここ」


 そう言って剣の鍔についていた機器を指差しながら説明する。何かのスロットと動かせそうなレバーの先には、刃があり回路を作るように溝が掘ってあった。

 他にも、スロットの上部には、厳重に閉められた蓋のようなものもついてある。


「このレバーを動かして、このスロットを回転させることで、内部の魔力が活性化、スロットの蓋を開けることでその魔力を放出させることができるんだ」


 炭酸と同じ仕組みなのだろう。魔力にも通用するのは驚きだ。


「すごいですね…」


 セノが思わず驚きと尊敬が込められた言葉を漏らす。

 

「でしょ?天才でしょ?」

「自意識過剰」

「そういうお前は住所不定、身元不明の不審者だろ」


 痛いところをついてくるじゃないか。

 

「だがそれは半分間違いだ」

「半分あってんじゃねえか」

「俺の住所はここだ!」


 ビシッと床を指差す。すでにヒビが入っているが気にしてはいられない。特に請求については。


「救急団のヒモ」

「失礼なやつだな」


 失礼しちゃうぜ。

 

「でもどうしてそんな大剣をここに?当たり前だが見せびらかすためだけに持ってきたわけではないでだろう?」


 アルアが聞く。まさかティドがそんなことを考えてるとは思わなかった。


「まあね。ここなら誰か扱える人がいるかなぁって。俺が振り回すには重すぎてさ......」

「そういうことか....。すまないが私は力が強い方ではないのでな」

「俺も無理だな。ペンより重いもんは持たない主義なんだ」

「あなた剣持ってませんでした.....?」


 なんだか核心をついた言葉が隣で聞こえたが物語の重要なネタバレになってしまうので気にしないでおこう。


「しかし....。そういうことならうちの団長なら使えるかもしれませんね」

「団長....」。俺は生まれてこの方救急団の団長って見たことないな......」


 ティドが呟いた。俺も団長がいるとは聞いていたが確かに見たことはない。


「でしょうね。基本的に人の前に顔を出しませんし。今もこの街にはいませんしね」

「なにが彼をそんなにも駆り立てるんだ....?」

「正義感が強い方ですからね。滅多に危険な依頼が舞い込んでくることがないのは彼が一人で解決しているからです」


 俺が経験した依頼関係はすべて超危険だったきがするんだけどなぁ。あれは気の所為なんだろうか。

 そうな気がしてきた。そうだったな。これは気の所為だ。


「まあ、ここ最近はその滅多にない危険な依頼が舞い込んできているっていうのが実情ですが」


 少々異常です、とセノが付け加える。

 なんということでしょう。気の所為が否定されてしまいました。


「なるほどね....。じゃあ団長が帰ってきたらこれを渡しといてくれ」

「わかりました.....使えるかどうかはわかりませんが打診はしておきます」

「それじゃ、俺は戻るよ」


 そういってティドは帰っていった.


「これ...どうしよう」


 床の傷を眺める俺が残った


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ