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解雇通知

「君は解雇だ。今後一切僕達に近づかないでくれ」

「……団長」


 セノが男性と呼んだ、赤髪の顔立ち整った男。

 彼が救急団の団長だというのは、セノの表情が悲しいほどに物語っていた。


「もしそれが守れないというのなら、殺す」


 冷酷だが無比ではない。そんな印象を感じる声で彼は言い放つ。

 彼の腕の先の大剣の鋒は常に俺に向けられている。


「説明してください。団長。なぜ彼を解雇するのですか?。彼は私たちに甚大な貢献をしてくれました。能力不足などはあり得ないと思うのですが」

「彼は能力不足だ。患者を治したことはあったか?患者の世話をしたことはあったか?」

「それは…」

「彼は戦ってばかりだ。戦いたいだけなら傭兵にでもなればいい。少なくとも、ここにいる理由にはならない」

「……それは、そうですが」

「戦うのは、僕だけでいい」

「ですが、彼は助けを呼ぶ声を逃しませんでした。それは自分の身を犠牲してでもの覚悟でした」

「それだ。自己犠牲などという行為に身を委ね、自分の身すら軽んじるような人間が、人を救うなどできると思うな」

「……」


 全く、ぐうの音も出ない正論だ。

 だが、残念ながら俺はその正論に対抗できる詭弁すら持っちゃいない。所詮、俺は自己犠牲による捨て身でしか人の役に立てない人間だということは、俺が一番理解しているんだ。


「それでも、人の役に立とうとした人間を、そう簡単に切り捨てるのですか?」

「……僕は、そんな人間が一番嫌いなんだ」


 彼は言い直す。


「とにかく、君は解雇だ。給料くらいは支払うが、次関わろうとすれば殺す」

「考え直してください!団長!」


 珍しいセノの叫び声。

 懇願にも似た慟哭、いや、慟哭にも似た懇願というべきか。

 

「そんな簡単に受け入れるとでも思ってんのか?」

「なんだと…?」

「お前ら俺がいない中で話進めやがってよ」

「君の意見は聞く必要がない」

「対話すらする気がないってのか?」

「………必要がない、それだけだ」

「あるだろ」


「これ以上問答を繰り広げる気はない。素直に引き下がらないというのなら」


 鈍色の鋒が向けられる。


「いまここで、斬り伏せる....!」

「望むところだ...!」


 担いでいたガラスの剣を抜く。どちらも戦意を携え睨み合う。


 そして。


「はぁっ!」


 一閃。超重量級の刃が俺を襲う。段ボールのように軽々しく振るわれた剣の重みは到底で生身で受けきれるものではなく、圧倒的な膂力ともにガードを無視しては階級の一撃が叩き込まれる。


「ぐぅっ...!」


 間一髪の防御壁。ガラスの壁で吹き飛ばされることはなかったが、かなりのダメージだ。

 だが、こんなところで足を止めていればもう一撃を華麗に食らうだけだ。


 持っている剣に炎をたぎらせ斬りかかる。赤い残像と陽炎を残し、刃は団長の体へと吸い込まれる。

 一閃、二閃と剣戟が続く。新たな陽炎は幾重もの軌跡を描き出し、その場に儚くとどまる。


 ガキンという音がなり、俺の体が弾き飛ばされる。死角からの大剣。サプライズとは名ばかりの強襲に反応できずモロに食らってしまった。


「スピードは、落とさない!」


 吹き飛ばされる最中、炎を斬撃として投げ飛ばす。ガラスの混じった唯一の遠距離攻撃は、風をつんざき狙いをぶらすことなく飛んでゆく。


「効くものかっ!」


 自慢の一撃は大剣でそのままかき消される。だが。


「自慢の二撃目を用意してねえほど頭空っぽじゃねえんだよ!」


 打ち付けられるはずだった木ん幹を踏み台にして元いた場所へ飛び帰る。

 青空を爆速で滑走し、風のままに上着がたなびく。剣を振り下ろし、完全着地とする。


「一つ聞いていいか?」

「.....」

「なんで顔も見たことない人間を解雇しようと思ったんだよ」


 火花が散り、派手に切り結ぶ。ド派手な演出にも見る火花は花火の奥に舞い散り剣戟を飾る。


「君のやってきたことはすべて聞いた。そのうえで判断したんだ。君はここにいるべきではないと」

「顔見ねえとわかんないだろ」

「わかるさ。それだけ君は似ていた。僕の嫌いな人間に」

「好き嫌いで人を首にしてんじゃねえよ!」


 隙かあるいはただの馬鹿力か。終わりなき剣戟は俺の一閃により強制的な終わりを迎える。


「なら!」


 剣を構えながら団長は問いかけるように叫ぶ。


「君は自分の身を滅ぼしてまで目の目の死にそうな命を助けるのか!?自分が絶対に死ぬとわかっている状況でぇ!!」

「あたりまえだろぉ!!」

「そこが!!!大っ嫌いなんだよ!!!」


全力の一撃。空気が振るい、風が嵐のように吹きすさぶ。


「うっ......」


 崩れ落ちる。地に倒れたのは、俺だった。



 追い出されてしまった。

 まあ負けたし。文句はないけど?。けど理不尽は感じている。

 世の中ってこんなもんか。幸い、俺は生前致死量の理不尽を浴び尽くしているため困惑することもなければ、無職無一文でも3年間は生きていけることがわかってしまっているのでなんとかなるだろう。


 雨風をしのげる場所さえあればいいなと思う。


「どうすっかね....」


 街中をぶらぶらと歩く。怪我をしたり暇がなかったりでこうやって街をゆっくり歩くのはなんだかんだ初めてだ。

 平日だからか、平和な静けさが街を包み込んでいる。しかし時刻はもうそろそろ16時を回る。

 空はまだ青いが、暁に変わるにつれ、だんだんと人も増えてくるだろう。


「また無職に戻ったかぁ…」


 人生2度目の無職。もし俺が本当に死んでこの世界に来たというのなら、2度目の人生で1度目の無職ということになるな。

 うーん。我ながらバカなことを考えているな。


 考えなしにぶらぶら歩いていると、街のハズレまで来た。

 中心部よりも閑散としていてどこか寂れた雰囲気のある場所だ。そして眼前には、ボロボロになった教会と思わしき廃墟もある。

 朽ちた外観は凄惨さを感じさせるが、よく見ればところどころが綺麗で、誰かが綺麗に保っているようにも思える。


 なんだか唆るような感覚もあるけど、それ以前に頭がぐらつく。視界がぼやけていく。

 だんだんと体の力が抜けていき、ついには崩れ落ちた。


 そこで俺の記憶は途切れた。



「ぬわぁ…」


 あくびをしながら起きてみる。なんということだ。全然知らない天井ではないか。

 というか、俺はあの後どうなったんだ?確か意識を失ったところまでは覚えてんだけど…。


 知らない天井は西洋の教会のように綺麗で、ステンドグラスに反射する温かな光は、名も知らない誰かを祝福するかのように暖かい。


「目が覚めましたか?」


 珠のような綺麗な声。これまでで聞いたことがないような涼しく柔らかく、優しい声は名も知らぬ場所に響く。


「え?あ、ああ」

「そうですか。ならよかったです」


 声の方へ目を向けると、そこには、大きな白い羽を携えた、金髪の女性がいた。人ではないとすら思わせるその魅力的な容姿と雰囲気。寛容さと冷酷さを兼ね備えているのはきっと彼女の性質なのだろう。


「あなたはこの教会の前で倒れていたんです」


 極めて優しく、未知のものに触れるかのように彼女は語る。

 

「教会といっても今は廃墟ですがね…。びっくりしましたよ。(わたくし)が帰ってくると倒れている人がいるんですもの」

「それは…迷惑をかけてしまった…。すいません」

「ふふっ。謝らないでください。敬語も結構です」


 彼女は、鈴蘭のように微笑む。


「私の魔法で簡易的な検査と応急処置を施しています。きっと、倒れた理由は過度なストレスと疲れですので、どうぞ安静になさってください」


 急激なストレス…。心当たりがありすぎる。疲れってのももちろんあるだろう。なければおかしいくらいだ。

 ほんと。よく考えてみれば、どうして今までぶっ倒れずに済んだのかが不思議なくらいの毎日だったな。

 激動に次ぐ激動は心身共に痛めるらしい。胸に刻んでおこう。


「それで…あなた、お家は?」

「いや、それが…その…、追い出されて…」

「ええ…」


 

 彼女に説明をした。


「というわけで家なしってわけだ」

「そんなことが…」


 天使のような彼女は、真摯に話を聞いてくれた。


「では、あなたはこれからどうするのです?」

「まあどっかふらつくよ。ここに迷惑をかけるわけにもいかないし」

「ダメです。また倒れますよ」

「そのときはその時だ」

「お身体を大切にしてください」

「じゃあどうすれば…」

「ここで暮らしてください。もうほぼ廃墟ですが、私が生活している場所ならあなたも生活できるはず」

「いいのか?」

「もちろんです」


 朗報だ。異世界とやらはなんだかいい人で溢れているらしい。


「ありがとう」

「気にしないでください。でも、寝る場所がないですね。ずっとここというわけにもいかないですし」


 知らない天井もとい大聖堂。美麗なステンドグラスに囲まれた、芸術作品のようなここは、どうやら寝るには適さないらしい。


「お片付けが必要になりそうですね。終わるまでは私の部屋で一緒に寝ましょう」

「それは…なんだかダメな気がする…」

「何がいけないのです?」


 ふむ。困った。どう説明しようか。

 

「でも、そこ以外に選択肢はないですし…。いいですか…?」


 そんな顔をされちゃあ流石の俺もダメとは言えない。


「わかった。そうしよう」

「ええ。そうしましょう」

「ところで、君の名前は?」

「カタリアです。あなたは?」

「ゲントク」

「では、よろしくお願いしますね。ゲントクさん」


 彼女の微笑みは、天使のように輝いていた。



 その日の夜。

 

「さあ、こちらにおいでください」


 カタリアが毛布を持ち上げ、ベッドに誘ってくる。彼女のスタイルは例外なく良い。胸もお尻も言わずもがなでかい。

 健全な男としては唆られずにはいられないが、悔しくとも俺は生物。理性というストッパーが思考を締め上げる。


「どうしたのです?来ないのですか?」

「あ、ああ。俺はもうちょっと起きてるよ」

「ダメです。疲れが取れませんよ」

「いや…でも…」


 彼女の豊満な胸に目がいく。明らかに柔らかく煩悩を増やしそうなほどに主張してくるそれを見ていると、なんだか体が動かない。


「そんなに私が嫌なのですか?」


 ぷくーっと頬を膨らませるカタリア。可愛い仕草で顔が綻びそうになるが、幸か不幸か現在の俺は煩悩増量中。煩悩が増えてしまうと人というのは動けないようで、今も俺の足は進みそうにない。


「来ないというのなら無理やり来てもらいますからね!えい!」


 可愛らしい掛け声と共に、両腕を突き出すカタリア。胸がぷるんと弾んでいる。

 そしてその瞬間。地面が消えた。

 いや、実際には浮いたのだ。俺が。


「うわぁ」


 思わず気の抜けた声が出てしまう。

 人生初の浮遊体験は、それはまた不思議なもので、戦いで吹っ飛ばされる時の感覚は大きく異なっている。戦いの時にゆったり感じている暇がないからってだけかもしれないが。


「ふふっ。これでよし!です」


 彼女の甘い声と共に、俺の頭が柔らかいものに押し付けられる。温かい人肌の感触はとても心地よく、邪魔な思考とは別に、なんだか子供に戻ったような感じまでしてくる。


「では、おやすみなさい」


 しかし彼女の地肌との距離はわずか布一枚。

 ピンク色をした突起が俺の頬に当たっている。邪魔な煩悩がまた膨れ上がってゆくのがわかる。

 だが、それ以上に睡魔というのは力強く、強引にも意識の漂白へと手をひく。

 3年ぶりくらいの温もりに抱かれて俺は意識を手放した。



「おはようございます。よく眠れましたか?」


 またもや知らない天井だ。だが、昨日の記憶はしっかりあるので、昨日のように慌てることはない。

 経験というの名の成長だ。


「ああ。久しぶりによく眠れたさ」


 3年ぶりによく寝た気がする。深い睡眠というのはこういうものなのだろう。


「それはよかったです」


 もうそろそろ朝食もできますからねとカタリアは言った。

 ふと周りに意識を向けると確かにジュージューという名に輝ける音と、良い匂いがする。

 

「ありがとう」

「苦手なものとか、なかったですよね?」

「ないよ」


 無職時代の弊害で、好き嫌いなんてなくなっていた。強いていうなら食ったら死ぬ系の食べ物は嫌いってだけだろうか。



「本当に大丈夫なんですね?」

「大丈夫だって」

「本当に倒れたりしませんよね?」

「…たぶん」

「たぶんじゃダメなんですよ!」

「じゃあ絶対」

「じゃあってなんですか」

「じゃあ、行ってくる」


 仕事を探すため、ギルドへ行こうとした。だがカタリアの追跡を逃れることはできないようで、行こうとした時からずっとこんな感じだ。

 この問答も何回したかわからない。

 

「あ!ちょっと待ってください!」

「夕方には帰るよ」


 振り切って歩き出す。

 

 ギルドには冒険者システムというものがあるらしく、冒険者登録さえすれば、ギルドのあらゆる依頼を受けられるようになるらしい。

 まあ受けられる依頼はランクによって変わるらしいが、そこは想像の範疇だろう。


 緑の森を抜け、賑やかながらも閑散とした平日の街の中心部を歩く。

 木製の建物が見えてきた。


「久々だな…」


 実際は前に訪れてから一週間も経ってないが、なんだかとても懐かしいものを感じる。

 

 中に入ると、予想通りに多くの人で賑わっていた。甲冑を着込んだ人物。上裸で無口な巨大な男性。謎に露出の多い褐色肌の女性やローブを纏ったミステリアスな女性までもが集まり賑やかなコミュニティを形成している。

 ここはギルド。冒険者たちが集まるにはうってつけの場所だ。


「やあゲントク。何か用か?」


 とにかく喧騒が絶えず静まるという言葉を知らないほどの賑わいを掻き分け声をかけてくる人物が一人。

 ギルド職員のティドだ。


「やあティド。なんだか今日は人が多いな」

「そうだね。なんでかは知らないんだけど」


 普段、このギルドはここまで人がいることなんて滅多だ。

 そもそもギルドなんていうのは、役所みたいなもんで、人がいないことはなんなら普通と言ってもいいほどなのだが。


「まあおおかた予想はつくよ:

「へえ?」

「この近くで新たなダンジョンの予兆が現れたんだ」

「ダンジョンって自生するんだな」

「まあね。そうしてそのダンジョンを大人数かけて攻略しようと、パーティを組みにきた奴が多いってわけさ」


 確かによく見てみると、冒険者たちで集まって話し込んでる人たちが多いようだ。

 一人で依頼書を見ている冒険者は少なく、大体が団体だ。


「なるほどなあ。ティドたちはなんもしなくていいのか?」

「俺たちが行動を起こすのは本当に危ない時のみだ。特に予兆がわかり辛い崩落の時とかね」


 彼らの基本は事務職らしい。あとは根回しとか。


「で、なんのようできたんだ?」

「冒険者登録をしようと思ってね」

「冒険者登録ぅ!?お前が!?」

「うるさい。ステイ」


 ティドの声はよく響く。鼓膜にも、周囲にも。それはまたダイレクトに。


「大体、そんなおかしなことじゃないだろ」

「十分おかしいよ。救急団はそもそも冒険者登録ができないんだよ。何かのとき二ダンジョンに行ってて戻ってこれないなんてあったらだめだからな。で、そんなお前が冒険者登録をするなんてことは.....」

「そうだ。クビになった」

「だよな。なにがあったんだよ」


 かくかくしかじかしかじかかくかく。起こったことを包み隠さずティドに話した。


「そんなことが......」

「解雇理由は俺が聞きたいくらいだよ」

「まあなってしまったもんは仕方ない。ほら、手をかざせ」


 ティドが差し出す魔道具的な水晶に手をかざす。

 もとより深く青く何よりもきれいに澄んでいたそれは、中身の澄んだ青を取り出すかのように淡く光りだした。


「はい。てことで登録完了。これが冒険者カードね」


 身分証みたいなもんだ。優待なんてのは特にないけどなと、ティドが話す。

 金属にしては軽く、プラスチックにしてはひんやりしすぎているカードには、職業、スキルなどが書いてあった。


「お前のスキルは、物質生成か。まあ納得かな」

「スキルってのはいったい?」

「特殊技能のことだよ。浮遊がスキルになっていれば空を飛べるし、炎魔法なら炎魔法の火力が馬鹿みたいに上がる」

「セノのスキルは何かわかるのか?」

「セノさんねえ....。ここでの受付じゃないから正しいことは言えないけど、確か彼女が超回復っていってたような」

「超回復?」

「うん。超回復。普通の回復スキルは魔力の消費なしで体力を回復したり擦り傷なおしたりするもんなんだけど、超ってつくからにはものすごいんだ。身体が半分消し飛んでも10分以内なら元通りにできるくらいの回復能力を持ってるんだ」


 そりゃすごい。

 どうりで彼女が副長というポジションに居るわけだ。


「持ってる人も少なくてね。俺が知ってる人は確か国の重要人物として保護されたてはず」

「それって....」

「ああ、心配してくれなくて良い。あいつ図太いから貴族を尻に敷いてんだよ」


 口ぶりから察する彼の友人はどうやら元気なようだ。

 

「ティド先輩~!?」

「ん?どうした...」

「会議、昨日サボりましたよね?」

「いやぁ、どうだったかな....?」

「サボりましたよね?」

「.....はい」


 こちらも気圧されるほどの圧を受け、さすがの精神図太野郎も折れたようで、バックへ引きづられていった。

 南無三。


「......帰るか」


 待ってくれている人の顔を思い浮かべ、俺はギルドを出た。



 帰り道。

 茜色にはまだ早い時間に、旧教会へ歩いていっていると、声が聞こえた。


「やめろっ」

「いやっやめて!たすけて!」


 男性と女性の声だ。

 声の方向を見ると、なにやらいかつい男性たちが女性を連れ去ろうとしているところらしい。

 

 「おい。離してやれよ」

「誰だ?あんた」


 駆けつけ声を掛けると概ね想像通りの答えが帰ってきた。


「通りすがりのお人好しだよ」

「はっ。お人好しなら見逃してくれないかね?」


 そういう彼の手にはナイフ。銀色にぬらりと光るそれは敵意を持って俺に向けられてる。

 どうやらまわりの屈強な男たちも仲間らしい。


「それはできないな」

「どうしてだ?」

「自分の胸に聞いてみな!」


 渾身の一撃。スキンヘッドの男にジャストではいる。


「ぐはぁ」

「冥土の土産に教えてくれよ。なんでこんなことを?」

「教えてやるかよ!!」

「がはっっ」


 今度は俺の頬に拳が入る。

 口に血の味はしないが、妙に頬が熱い。血が流れているのだろう。


「いってえな....」

「あの女はカネがないっていうもんでな。それを聞いた俺達がすぐに金を作ってやりうと思っただけだよ。奴隷として売ってな!」

「説明ありがと、さん!!」


 次は渾身のアッパーだ。俺にだって渾身の技はいっぱいある。もちろん次だって用意できてるわけで.....。


「来いよ」

「てめえっ」


 こうして戦いの火蓋は落とされた。



 空は茜色を通り越して藍色に染まろうとしていた。


「いってえ....。無茶しちゃったな」


 あの男女はすぐに逃げたようで、屈強な男たちとやり合ってる間に見ることはなかった。

 ひとまず安心というやつだ。

 ちなみに、屈強な男たちの殴り合いは俺の勝利で収まった。ナイフで切られ、頭を殴られたりもしたが、なんとか俺はたって歩いている。

 がんがんと頭は割れるように痛いけど。


「おかえりなさい....ってえ!?」

「ああ、ただいま......ってあれ?」


 教会の扉を開けると、すぐに身体は脱力し、制御が効かなくなった。

 カタリアが支えになってくれたので、大事に至ることはなかったが。


「ゲントクさん、血が....、血が.......!」


 どうやら流血していたのは頬と腕だけじゃなかったらしい。ぼかすか殴りやがって......。


「いやっ。いやぁっ。死んじゃう、死んじゃうよ!」

「俺は...大...丈夫.....」


 カタリアの瞳の皮肉のように美しい涙だけが見える。


「死ぬのはだめ、だめ、だめなんだからぁ.....」


 死ぬほどのことではない。この程度、寝たら治るくらいのものだろう。だが、どうしてか、彼女は血と倒れた俺を見て大粒の涙をボロボロこぼした。


「もう、いなくならないで....。私の前からだれも....」


 彼女の最後の声を聞き、俺の意識は濁流に飲まれた。




 次に目覚めたのは、柔らかく温かい枕のようなものの上だった。


「ぬうぉん.....」


 またしても知らない天井。今度は何故か肌色面積が半分と、白色面積が半分だ。


「起きましたか....?ゲントクさん」

「あ、ああ。ごめん、心配かけて」

「ほんとですよ。あ、起きないでください」


 頭上からカタリアの声がする。どうしてかは知らないが、俺は膝枕をしてもらっているらしい。


 え、じゃあこの肌色何?


「ごめんなさい」

「いや、あやまることじゃ.....」

「いえ、もっと私が一生懸命に看病していたら.....」

「俺が言えたことじゃないけど、あれは外的原因だ。カタリアのせいじゃない」

「そう言ってもらえると、嬉しいです」


 カタリアは微笑んだ。顔が見えないのでそんな気がしただけだが。


「それで.....」


 なんだか恥ずかしそうに彼女は言う。


「わたしのおっぱいを、飲んでください」

「は?」

「ですから、わたしのおっぱいをのんでくださいって」


 思わず止まりかける思考にムチを入れ、言葉を紡ぐ。


「どうして....?」

「わたしの母乳は失われた体力を多く回復してくれます。あなたを回復させるにはいまはそれしかないんです」


 理屈はわかった。理解もできる。

 だが、なんだか釈然としない。


「いいですか?あなたがノーといっても飲ませます」

「い、いやちょっとまって」

「えい」


 顔が持ち上げられ、彼女の胸に押し当てられる。

 甘い香りと、ピンク色の突起が煩悩を膨れがらせる。


「ここですよ....口、あけてください」


 カタリアはそういった。俺はどうしてか抗えずに、口を開けてしまう。

 するとすぐに甘い香りがより強くなり、唇に柔らかい感触眼の前にピンクと肌色のグラーデーションが現れる。


「ほら、いきますよ。....ちゅー」


 彼女の掛け声と同時に、彼女の突起を吸い上げる。

 すぐさま甘い香りと同じ程に甘い液体が口の中に侵入してくる。


「んぁっ♡」


 情報からは甘い吐息が。

 口の中には甘い母乳が。全方向から押し寄せる甘さは幸せそのものに変わりない。


「はぁはぁ....♡。そうです、いい感じです♡では、もう一度.....ちゅー♡」


 一層吸い上げる力が強くなる。


「はぁんっ♡」


 彼女の甘い声は嬌声のようで、エロスを感じざるをえない。


 しかし不思議なもので、体の回復は自分でも感じられるほどに劇的であった。

 彼女を吸い続けている間、身体はどんどん軽くなっていく。


「んはぁっ♡もっと...♡」


 カタリアもなんだか激しくなっているようで、俺を押さえつける力が強くなる。

 それに比例するように、吸う力も強なり.....。


「はぁんっ♡キちゃいそうですっ♡いきますっ♡」


 最後の底力のように、母乳が溢れ出してきた。

 それをゴクリと飲み込むと、胸辛から口を離す。


「はぁ♡、はぁ♡。元気少しは出ましたか?」

 

 伸びる唾液の糸がエロティックだ。官能小説にも優にも劣らない。


「ああ。ありがとう」

「そうですか、じゃあ次は、反対側ですね♡」

「え?」」


 彼女の授乳は一晩続いた

 


 

 

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