Just in side
穏やかな昼下がり、もはや恒例となり始めた見知らないわけではない天井を見ながら目を覚ます。
清涼感のある覚醒は、もう一度眠りの誘惑へと引き摺り下ろそうとしてくるが、そうは問屋が下さない。
まだ眠気の残る顔を両手で引っ叩いて無理やりの覚醒を促す。痛みという洗礼で完全覚醒へと至った頭は今日は何をしようかと考え始める。
「おはようございます。ゲントクさん」
柔らかな微笑みを携え目覚めの挨拶をしてきた綺麗な女性、カタリア。
絹のように美しく、水のようにしなやかな金色の髪は、見るものに神々しさと安心感を与える。
「ああ。おはよう」
「よく眠れましたか?」
「もちろん。ここ最近はぐっすりだ」
「それはよかったです」
旧教会に転がり込んで居候を始めて4日が経った。
その四日間、カタリアは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。なんだか申し訳なくなってくる。
しかしなんだか彼女は日に日にツヤツヤし始めているような…そんな感じがする。
「今日は何をする予定で?」
「また依頼を回されてな。それを片付けに行くよ」
「気をつけてくださいね」
冒険者登録をしてからというもの、ティドから依頼を結構回してもらっている。あいつが選ぶだけに報酬は高いものが多いが、それは全て他の冒険者が嫌がる…例えば家の留守番だったり、部屋の掃除などの雑用が多く、冒険者というよりかは何でも屋に近い状態だ。
一日にこなす依頼の中には、何個か戦闘依頼もあったが、それもかなり労力のかかるもの…というかギルドの仕事らしきものだった。まさに人使いが荒いとはこういうことだろう。
サボる術を心得た彼を止めることはできない。何があっても。
そんなとりとめもないことを考えながら森へ歩く。何度か来たことのあるその森はいつだって変わることなく緑が生い茂っている。
これが元気と言えるかどうかは俺に知識がないのでわからないが。見ていて気持ちの良いものだ。
「たしかナガウルフの討伐だったか...?」
ナガウルフ。ギルド指定の集団討伐対象モンスターだ。
ちなみに集団討伐対象というのは、パーティを組んで討伐してねというものだ。要するに仲間がいないと討伐するのは難しいという指標。
なんの因果か俺一人で今回は担当するわけだが。
彼曰く、めんどくさいだけで一人で対処は可能だよ。まあ複数人でやってもめんどくさいんだけど。とのこと。
結局めんどくさいだけじゃねえかというツッコミを置いときつつ、森を歩く。
この世界での魔物とうのは「どこから生まれたかは知らないが魔物以外の者に敵意を持ち、殺そうとして来る存在」だという。
超毒トカゲにうさぎがみつかれば捕食ではなく殺意を持って殺害しにくる。そこになんの利益もない。
早い話が害獣というわけだ。
だから見つければ即座に討伐する必要があるそうだ。
「あれだな…!」
ヒュウと緑を吹き抜ける風の彼方に見えるのは、二足歩行の白い毛並みの狼男。
凶暴なまでの鋭い瞳は明らかな敵意と害意を含み、対峙する。
「いくぜ....!」
誰に投げかけるでもなく呟く。
それは開戦の火蓋。
振るわれる剣は正確な一太刀となり、狼を打ち砕く。
「これで、終わりか?」
討伐の証拠である魔石が落ちているのでここから復活だとかいうことはないだろう。
あったら俺はティドを血祭りに挙げなくてはいけなくなる。友達をそんなふうにするには少々惜しい気もするな。
「随分あっさりだったなぁ....」
手の内の魔石はキラキラと輝いている。
ふと、視線を上げると、木に寄りかかって誰かを待っているような男が見えた。
「あんたは...」
見たことのある背格好。そして煮え湯を飲まされた大剣。
静寂で落ち着気のある場所に似合わない大剣は皮肉のように太陽光をうけて鈍く光る。
「団長?」
「レインだ。君に団長と呼ばれることはない」
「はぁ。それで?。あ、待てよ。俺がお前に近づいたから殺すってのは無しだぞ。なにせ俺は単純にいま、ギルドからの依頼を完遂しただけだからな」
「心配するな。そんな道理はない」
「じゃあどうして」
「僕が君のもとに来たのは感謝を伝えるためだ」
「感謝ぁ?」
「.....数々の事件、事故において、人を救ってくれたことに敬意と感謝を表す。ありがとう」
そう言ってレインは頭を下げる。
直角と言って良い程の深い礼は、このあいだまで俺を殺すだ何だと言ってきたものの姿には見えない。
「急にそんな事言われたって.....」
「それだけだ。これで僕は失礼する」
「おい、失礼すんじゃねえよ」
俺の引き止め虚しく、レインは去っていった。
「なんだったんだ...?あいつ」
▽
当てもなく森を歩く。詩的な表現をしたいところだが、そのような感性はあいにく持ち合わせていない。
あまりにも穏やかで、爽快なまでの静寂。思わず小鳥も囀りそうな気分だ。
「あ、ゲントクさん!」
「おお!セノ!久々だな」
「ええ」
穏やかな新緑に目を休ませながらだらだらと歩いていると、見慣れた人をみつけた。
キラキラと太陽光によって光る白髪、ワンピースのようでナース服のように見える白い服で着飾った豊満なバストはまさに救急団の副団長、セノその人だった。
「ご無事....だったんですね」
「まあな。死にかけたけどいい人に拾ってもらってなんとか生きてる」
「女性ですか?」
「え?」
「女性ですかと聞いているんです」
きれいな琥珀色の瞳からは威圧感を感じる。何に怒っているのだろう。俺じゃ全く検討もつかない。
「ま、まあ。そうなるな」
「私がいなくなった途端、他の女ですか.....」
「ええ.....?」
「いえ、良いご身分だなと思っただけです」
「随分と毒舌になったね....」
なにがあったのか。またまたこれも見当がつかないな。
「とにかく。ご無事で何よりです。お体は息災ですよね?」
「もちろん。.....と、言いたいとこだけど、このあいだぶん殴られてな。万全とは言い難い」
「やはり心配ですね....。いつか死にそうです」
「人はいつか死ぬもんだろ」
「じゃあ早死しそうです。明日にでも」
「早いなおい」
ざわりと、森の雰囲気が少しだけ変わる。
何度か経験したそれは嫌でも五感を研ぎ澄ませるはめになる。
「下がってろ」
セノを背中へ隠す。
刹那、爆発が怒った。血を揺らす重低音。つんざく風の金切り声。穏やかな日常は非日常へと一変する。
非常の開幕の狼煙ともいうべき土埃の中から原因と思われる奴が出てくる。
「個々にあるもんは全部俺のだ!!近づくもんは爆殺してやるぅぅ!!!」
野太い男の声。禍々しい体躯から響く強欲な宣言。
灰色や黒が多いその姿はまさに怪人と言うべき姿だった。
怪人は手にもつハンマーを振り回す。周りに人もいるが、そんなのは意に介さない。まさに強欲、帝王とも言うべきふるまいだ。
「はぁっ!」
森を破壊し尽くすハンマーを剣で受け止める。
重い。今の俺じゃ長時間やってたら力負けしてしまうな。
「誰だぁ?」
「そっちこそ!」
がら空きになった胴体にけりを入れる。
びくともしないように感じられたが、何かしらの効果はったらしく、相手は後ずさる。
「人がいるのにそんなもん振り回してるんじゃないよ」
「俺に意見する気かぁ?」
「そうさせてもらう」
『ワレモノチューイ!!』
カードをスロットに挿入し、そのままスロットを引き上げる。
ロック調の待機音とともに、俺を守るように火柱が上がる。激しき熱く赤い炎は剣にも伝わってゆく。
「変身!!」
剣を振るい、トリガーを引いた!
『無双!超絶!赤い炎はバキバキに割れ燃える!!』
激動の炎が鎧とスーツを形成し、俺にまとわれる。
ギザギザしたヒロイックな姿。奇妙で熱かりし力が全身にみなぎった。
『レクス!バーンスタイル!!』
「治療の時間だ!」
地を駆け空を跳ぶ。
炎と見紛う赤い閃光が空を飛び回る。
「ふん!!」
だが、重量級ハンマーで蹴散らされてしまった。
ハンマーの使い手はその重さの割に手こずることなく難なく軽快に振り回している。
「どっからあんな力が...うぉっと」
地面がめくれ上がり、土の壁による突き上げが襲う。
間一髪避けることはできたが、なんと次は木のツタが襲いかかってきたのだ。
「そんなのアリィ!?」
「フレースピア」
光の槍が飛んできて、ツタを撃退してくれる。
「セノ!助かった!」
「私は避難を開始させます」
「オッケー!!」
「余所見をするなぁ!!!」
怪人が走ってくる。
反撃の時間だ。
「これでも食らってろ!」
強烈な回し蹴りは、ブンという音をたて、きれいな弧を描き、命中する。
そのまま連鎖的に、拳と蹴り、斬撃を繰り出した。
演武のような一連の動きはあますことなく怪人に命中する。
「どうしてこんなことを?」
怪人の反撃に反撃を重ねながら問う。
「俺が俺のものに何をしようと勝手だろ」
「森はお前のもんじゃないなだろ!」
地を揺るがす殴り合い。
響く重低音は残響のようにこだまする。
「うるさいうるさいうるさい!俺はこの力を得てすべてを手に入れたんだ!昔の俺とは違う!惨めじゃないんだぁぁぁ!!!」
危険。脳が直感的に感じる。
急いで飛び退き、距離を取る。
しかし、それが間違いだった。
「ウァァァァァアアアア!!!」
ハンマーが地に叩きつけられ、地面が膨れ上がる。そしてそのまま土が津波のように襲いかかる。
なんとか前方のそれを斬り伏せ砂の風へと変える。
「後ろもかっ」
遅れた、
命を刈り取るかのように土に飲み込まれそうになる。だが、覆いかぶされる直前に、土は砕け散った。
「危ないところだったな!ブラザー!!」
「マイ・ベスト・ブラザー.....!!」
そこに現れた俺のソウルブラザー、アルベルト。
筋骨隆々のその姿がいつでも眩しく頼もしい。
「どうしてこんなところに?」
「筋トレの日課で匍匐前進をしていたらこんなところに来てしまってな。そしてお前がピンチだったんだ」
「なるほどな....」
彼は横から襲いかかる小さなつぶてをぶち破りながら答えてくれる。
だが、それでも攻撃の手は緩まなかった。
「貴様らぁぁぁ!!!俺を、見ろおぉぉぉ!!」
今度は四方向からの岩の牙だ。
「ふんっ!!」
だが、それもすべてアルベルトの手により粉砕される。
「ブラザー。お前への攻撃はすべて俺が対応しよう」
「いいのか?」
「本体には悲しいが俺じゃ勝てそうにない」
ビシッと俺を指差すアルベルト。
「そういうことなら....!」
「いけ!ブラザー!」
一直線に走る。襲いかかる攻撃はs俺に届く前にすべて粉砕される。
その光景に魂に熱いものが宿る。
そしてそれに比例するかのように力がみなぎる。
「はぁっ!!セイヤっ!」
炎の軌跡を残し、斬撃が乱舞する。蹴りや拳は相手の裏を書くために。
「くそっ。なぜっ」
「行くぜ!止めてみな!!」
大きな岩石が粉砕されると同時に、俺もスロットを上下させ、必殺をスタンバイさせる。
『ワッセイワッセイ!ソイヤソイヤソイヤ!!!』
剣を地面へ突き刺した。
力が最高に高ぶる。
『レクス!!フィニッシュエクスプロージョン!!!』
「ハァーッ!!!」
激しき炎を纏う拳が煌めき怪人に打ち込まれる。
「俺のすべてがぁぁぁぁ」
爆発を背に、アルベルトとハイタッチをした。
▽
「アルベルトさん。協力ありがとうございます」
「ブラザーを助けるのは当たり前だ!またいつでも呼んでくれ!!」
「今回は呼んでないんですけどね」
アルベルトはたくましく帰っていった。
「怪人に変身していた人物は私達がなんとかします。協力、ありがとうございました」
ペコリとセノが頭を下げる。
「じゃあ、また機会があったら会おう」
踵を返し、立ち去ろうとすると、セノから声がかかる。
「お待ち下さい。色々考えましたが、あなたじゃ生活が心配です」
「そんなだめ?」
「ええ。私がいないと早死します」
「さすがにそんことは.....」
「絶対です」
「そ、そっか....」
詰め寄るセノ。彼女のきれいな顔がとても近い。
ドキドキしてしまう距離だ。
「ですので、私も貴方と一緒に行きます」
「と、いうと?」
「わからないのですか?バカ」
「バカってなんだよ」
「事実でしょう?」
「何も言えない.....」
「ともかく、私も一緒に生活すると言ってるんです」
生活。
それってもしかして.....。
「俺と一緒に暮らすってこと?」
「さっきからそう言ってるじゃないですか」
「ええー!?」
驚きの声が木霊した。




