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お花屋さん ー夏ー  作者: ニケ
8/16

親父と兄貴

都会から田舎町に戻った速水は、直ぐ様会社に直行した。出張の報告と荷物の確認をしてもらい、さつきから教えてもらった場所へと行きたい。会社の駐車場にトラックを停めて速水は足早に会社へと足を踏み入れた。会社はいつものように忙しそうに皆働いている。予定ではこのまま勤務終了だが、会社の雰囲気に速水は眉をひそめた。



「おお!速水!!出張お疲れさま!本当に助かったよ!」



会社の上司に速水は頭を下げる。二泊三日の出張は不思議と速水の体に負担をかけなかった。配達中もこれから行く西森のことばかりを考えていた。自然と体が臨戦態勢になっていたようだ。挨拶をしてこのまま帰ろうとした速水を上司は申し訳なさそうな顔でじっと見つめている。首を傾げた速水に上司は重い口を開いた。



「速水。。本当にすまないのだがこれから配達に行ってくれんか?いつものルートではないんだ。経験の浅い奴に行かせてもな。。お前なら安心して任せられるんだ。どうだ?」



上司の言葉に速水は驚いて目を大きく見開く。確かに忙しそうだし、配達の同僚たちはとても疲れたように仮眠を取っている。でも、これから速水には行かなければならない所があった。いつもならすぐ承諾して配達に向かうのだが今日は西森のそばに行きたい。お世話になっている会社の願いも叶えたい。速水は何も言えなくて下を向いた。



こんなことは初めてだ。西森と出会ってそばにいても、速水はいつも配達の仕事を優先にしてきた。それが仕事だしお金を稼ぐ手段である理由の他に、拾ってくれた会社への速水の感謝でもあった。大切な西森を泣かせても配達の仕事を常に優先した。



一緒に暮らし始めて、西森との約束を急な配達で果たせなかったことがある。一度や二度ではない。ちょうど自分と同世代の男が会社を辞めてしまった。人手不足で大変なことはわかっていた。約束が変更されても西森は穏やかに笑って速水を送り出してくれる。本当はとても寂しくて悲しいだろうに、そんな顔は見たことがなかった。速水も約束を果たせなくて悔しかったが、仕事だと自分にも西森にも言い聞かせて考えないようにしていた。



でも今回は状況が違う。西森は何よりも会いたいと言ってくれた。周りに迷惑をかけ巻き込むことを一番嫌う西森が、それよりも自分と一緒にいることを選んでくれた。今も恐怖と寂しさの中で自分を待っている。そんな西森のことを思うと堪らなくなる。速水は強く目を閉じる。真っ暗な視界の中に西森の優しい笑顔が浮かんで、ゆっくりと消えていく。悲しくて顔が歪んだ。



いつまでも返事をしない速水に上司は少し困惑しているようだ。人手不足のため、速水には申し訳ないが配達に行ってもらいたい。休ませてやりたいが、どうしたものかと迷っている気配がした。



「なんじゃ。こげな忙しい時に。何をしとるん?お!速水!帰ったか!」



聞いたことがある大きな強いなまり声に速水は驚いて顔を上げた。戸惑う上司の後ろに見知った顔がある。速水と視線が合うと嬉しそうに目を細めた。



「原田さん。。」



それは速水を就職させてくれた男だった。空手部のOBでもあり、速水の一番近い上司でもある。定期的に開かれる空手の交流会でよく話題に上る先輩でもあった。速水も強かったが、この原田という男もそれはそれは強かったらしい。速水やさつきが入学した年に卒業したのでちょうど入れ違いになって、強さについて速水はよく知らない。仕事ではとても頼りになる年上の精悍な青年だ。訛りが強く時々何を言ってるのかわからないが、とても優しくて強かったと先輩たちは口を揃えて言っている。配達の仕事は速水よりも忙しくて、空手の交流会には滅多にこない。残念だと先輩たちは嘆いていた。



「いきなりの出張やったじゃろ?どうしたものか心配しとったん。無事でよかったぜよ。さあ、もう上がり」



無口な速水でも手合わせをすればなんとなく相手の心が伝わってくる。原田はとても真っ直ぐで優しい。初めて会った時に対峙して、原田は速水のことをとても気に入り、会社へと紹介してくれた。何にも興味を示さずただ仕事ばかりしていた速水をよくご飯に誘ってくれるのも原田だった。



原田も速水と同様に急な配達で会社を離れていたはずだ。突然現れた原田に速水は戸惑いながらも配達のことを伝えた。原田は驚きながら、それはないぜよ!と呟く。上司に話を聞いた原田が納得したように頷いている。新規の急な配達らしい。



「あー、なるほどのう。。うーん。おっちゃん。俺がそれやるから、速水を休ませてやってよ」



原田の提案に速水も上司も目が点になる。というか、原田はこれから新しい配達のはずだ。二つの仕事を同時にはできない。どうするのかと聞いてみると、意味深に口元を緩ませた。



「おっちゃん。。俺がいつも遊んでいるんはな、こういう時のためぜよ。この田舎町でも働き手はいっぱいおるんよ」



にやにやと楽しげに笑っている。速水は嫌な予感がして原田を見つめた。原田は優しくて温かいが、たびたび人が悪い。何か企んでいるんだなと速水は呆れている。上司がどうやるんだ?と再度詰め寄った。



「それはええじゃろ?ちゃんと話すきに。それより、速水、早う上がり。今日は上がった方がええよ」



原田の楽しそうなしたり顔が少し心配だったが、西森のこともある。速水はすぐ頭を下げて会社を出た。花屋に戻って車を確保したい。トラックに積んである自分の荷物を取って花屋へと走っていく。夏の強い日差しは夕方になっても衰えず花屋へと向かう速水をじりじりと照らした。



原田の言葉を聞いた途端に頭を下げて、会社を飛び出していった速水の後ろ姿を二人はぼんやりと見送る。原田の口元は緩みっぱなしで、抑えてもどうにもならない。あの速水が焦っている。原田にとってその事実がとても嬉しくて、にやけた顔がどうしても収まらなかった。



「なんじゃ、さっきから。にやにや気持ち悪いのう。どうするんだ。配達」



隣で呆れたように見上げてくる上司に、原田はこれ見よがしにため息をついた。軽く頭を左右に振りながら、おっちゃんはモテないじゃろうなぁと呟く。原田の声に上司が、何!?と素早く反応した。反論しようとした上司に、いいか、おっちゃん。速水はな、恋をしとるん。原田は切々と説明をし始める。原田の話を黙って聞いていた上司は、はぁ?と口を大きく開けた。



「おっちゃん。気づいとらんじゃろ?それもな、とてつもなく大きくてロマンチックな恋ぜよ。あれは確実に片想いじゃな!速水はきっと恋い焦がれとる人と約束しとったん。考えてもみんしゃい。出張後で、誰に会いたいか。それは大好きな惚れとる奴ぜよ。速水は今が正念場なんじゃ。その人の心をゲットするためのな。そこんとこ、上司ならちゃんと見抜いて、さりげなく背中を押さんとだめぜよ」



おっちゃん。聞いとる?仕事ばかりしとってもだめなん。原田はとても口が回る。そしてよくしゃべる。会社の中ではよく原田の口の多さが話題に上がり、速水と原田を足して二で割ってこい!とたびたび言われていた。いつにも増して熱弁を奮う原田を上司がぽかんと聞いている。呆けたように見上げている上司に原田はさらに話し出す。忙しいというのに何をしているのか。



「だーかーらー!速水のためにここは影ながら支えてやらんといかんぜよ。ということで、おっちゃん。配達行こうな!指令はもう終わっとるじゃろ?」



ひょいと上司の襟元を掴み、そのままトラックの方へと連れていく。原田の説明の長さと内容に毒気を抜かれていた上司が自分の置かれた状況をやっと把握した。配達を?自分が?確かに指令は終わったが、何かあった時のために会社に残っていなくてはならない。慌てて抵抗する上司を原田は楽しそうに見て笑っている。



「こら!!原田!!会社の留守番はどうするんだ!!寝ている奴も起こしてやらないといけないんだぞ!飯も食わせてやって、健康状態をだな!!」



上司の真っ当な突っ込みに、大丈夫じゃ!!と根拠のなさそうな満面の笑みで答えている。原田曰く、応援を頼んだとのことだ。



「大丈夫じゃって!信用ないのう。。おっちゃんが会社におるよりも、可愛い女の子たちがいてくれた方がみんな元気が出るんじゃ。全く。わかっとらんのう。。おっちゃんはこのままじゃったら、ぜーーーったいモテんきに。まあ、ええわ。ここが男の見せ場ぜよ!」



強引にトラックに乗せて車を走らせる。新しい配達は品物は少ないが運び方がとても難しい。熟練した者が行かなくては品物を壊してしまう。さっさと上司を降ろして自分の配達を終わらせよう。その後で上司を迎えに来ればいい。都会ほど距離がある所ではなく、それをわかっていて上司も速水に頼もうとしたのだろう。原田は運転をしながらしみじみと呟いた。



「おっちゃんは優しいけど、気が利かん。速水には恋とか愛とか、こう、ふんわりとしたものが必要なんじゃ。速水みたく、心が特殊な奴にはのう。速水にそう思わせてくれる奴はとても貴重なん。その人に会いに行きよるんよ。ちゃんと行かせてあげんと、男が廃るん」



原田の言葉に心から速水を想っているのだなと伝わってくる。優しくて心配そうな声に上司は自分の口元がゆっくりと緩んでいくのを感じた。



わかる?おっちゃん。ちらっとこちらを向いて悲しそうに眉を寄せる表情に上司は優しい目で大きく頷く。確かに速水は頼んだ仕事を断らなかった。その事に甘えて仕事を回し過ぎたなと反省する。原田がまた大きなため息をついた。



「おっちゃんがモテん理由はそこぜよ。目に見えん想いをきちんと心で感じて、相手に気づかれんように大切にするん。綺麗な純粋な想いは、美しい花みたいに繊細で壊れやすいん。守ってやらんと、すぐ傷ついて知らぬ間に枯れていくんよ。だから、ちゃんと見てやらんと。大切なもんを失ってからじゃ遅いん。わかる?おっちゃん」



一生懸命話す原田が可愛い。よく話しやり方もめちゃくちゃで手のかかる奴だが、こういう所が憎めない。今回も原田なりに手を打ってあるようなので、上司は原田のしたいようにさせてやろうと思った。それにしても原田はロマンチックな奴だ。無口な速水には相性がいい先輩なのかもしれない。持論を展開しながら、心を込めて話す原田の声を頷きながら聞いていた。



「モテるモテないんは、心の温かさなん。おっちゃんは温かいのに、気が利かんぜよ。会社のことを考えるのと同じくらいに、生きとる人の心も大切にするん。おっちゃんは男じゃき。それができるぜよ」



延々と続きそうな原田の力説に上司は、自分が褒められているのか貶されているのかわからなくなってきたが、原田の速水を想う真剣さに嬉しくなって笑う。この大きな子供は自分のことも大切に想っているようだ。速水にはもう少し休みを与えよう。話したいだけ話した原田が大きく深呼吸をしている。わかったと何度も頷く上司に原田はまたちらりと視線を合わせてきた。



「それと。。速水の急な配達も少し減らしんしゃい。俺も。。少し遊びを減らすきに。俺に回して」



内緒話のように小さく囁く原田に上司は堪らなくなって吹き出した。速水には絶対秘密ぜよ!!顔を真っ赤にしながら運転している原田に上司は何度も頷いた。入社したての頃からずっとふらふら遊び歩いて、甘えん坊だった原田がこうして後輩や自分を気遣っている。時の経つのは不思議なものだなと上司は思う。きっと原田は速水のことを弟のように思っているのだろう。



「速水は、幸せにならんといかんぜよ。。あ!おっちゃんも!今度連れてきた女の子、めちゃくちゃ健気で優しいんよ。おっちゃん、心意気見せてな」



嬉しそうに笑う原田を上司は穏やかに見つめる。わかったわかったと何度も頷いた。



「速水。。上手くやっとるかなぁ。。気になるのう。。でも、こっちの気配りに気づかれたら台無しじゃ!恋の状況はよーわからんけど、速水。。がんばり!」



上司を乗せながらいつもとは違う道を運転していく。急いで走っていった後輩を原田は思い浮かべ心からエールを送った。

皆様こんにちは(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?

今回は速水くんを支えている人達を書きました。人は支えて支えられて~。生きて行くのだ!西森くん。。ちょっと待っててね。。

ではではこれからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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