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お花屋さん ー夏ー  作者: ニケ
12/16

包み込む光

アキラに案内されて工場の奥へと進んでいく。アキラは速水への敵意が消えていて、軽やかな雰囲気に満ちていた。速水は前を行くアキラの背中をじっと見つめる。自分よりも年下で背丈は少し小さい。この背中にいろんな想いを背負って生きている。心の奥にある深い悲しみを真っ直ぐ受け止め、隠しもせずに葛藤している。アキラの潔さを感じた。



「アキラ、この世界は今でも憎いか?温かいと感じたことはないのか?」



目に見えないものはこんなにもわかりづらいのかなと速水はぼんやりと思う。両親との出来事で心を閉ざした自身の経験から、アキラの目を見れば深い悲しみを背負っていることはすぐにわかる。でも、さつきや杉崎にはわからないだろう。さつきはアキラの冷たい雰囲気を感じて、不思議そうにまだ首を傾げていた。



「アキラの速水を信頼したい気持ちは伝わってくるのに、どうしてあんなに冷たいのかしら。温かさというものが感じられないの。なんだか、悲しくなってしまったわ」



その言葉に速水は何とも言えない悔しさを感じた。速水の問いに少し先を行くアキラは振り返って隣にやってきた。しばらく考えるように下を向いている。自分と対話しているのだなと速水は思った。



「そうですね。。昔よりは憎しみの強さは減りました。仲間が次々と亡くなっていく中で、親父や兄貴に出会いましたから。この世界の冷たさ温かさの違いは、人の心ではないかなと。この頃、そう思うんです」



今はまだわからないとアキラは速水に穏やかに微笑んだ。そうだよなぁと速水は頷く。自分がこの世界を温かいと思ったのは、今まで出会った人達の心が温かかったからだろうと思う。亮太郎を初め、出会った人達はとても優しくて穏やかだった。自分が声をかければ微笑んで存在を認めてくれる。どうすればいいかわからなかった時は、優しく忍耐強く教えてくれた。人を信頼して自分の存在を感じられたのは、信頼できる人達の中で生きることができたからだと気づく。



「でも西森さんへの速水さんの気持ちには、すごく温かいものを感じましたよ。なんて表現したらいいのか。。初めて感じたので、まだよくわかりません」



真っ直ぐ受け止めて、真っ直ぐ返してくれる。アキラは元々素直な心を持っているのだなと速水は思う。アキラの返答に、ありがとうと速水は笑った。



「さつき、西森の祖母の写真をありがとう。杉崎、重くないのか?」



杉崎を担いでいたさつきに問いかけてみれば、うーんと何やら考え込んでいる。アキラが見かねて、目を覚まさせましょうか?と声をかけていた。気絶している体格のいい男を担ぐのは、とても負担が大きいだろう。アキラとは休戦している訳だし、目覚めさせてもいいではないか。そんな速水とアキラの主張にさつきは優しく笑って、大丈夫だと答えた。



「だってこのまま気絶させておいて、どの場面で目覚めるのか、楽しみじゃない。面白そうだから、そのままにしておきましょう」



天使のような慈愛に満ちた笑顔で言い放った。その笑顔と口から出た答えの内容との違いに速水とアキラは動きが止まる。西森が心配で何が何でもついていき、誰よりも最初に単身で乗り込んでいったのに肝心な所で気絶している。もし自分だったら。気の毒に思い

、目を覚まさせようと二人は思っていたのに。最愛の人から面白がられている。杉崎を憐れに思った。



「俺、これから杉崎に優しく接しよう。気の毒だ。。」



速水の呟きに、杉崎さんも大変ですね。。とアキラは答えた。



「天使のような悪魔とよく言うけれど、さつきさんは典型的な天の邪鬼だなぁ。杉崎さん、ご愁傷さまです」



速水とアキラの憐れむような視線に、気絶している杉崎が気づくことはない。さつきは嬉しそうに笑って、楽しみだわぁ!と無邪気に笑っていた。



目を反らさない西森に老人は根負けして優しく微笑む。どうやら一途な心は愛する静子とそっくりなようだ。大きな優しさを宿して愛する者を強く想っている西森の目を老人は心のどこかで嬉しく思う。誰かをこんなに思いやることができるなんて。損得や未来の保証よりも、目の前の愛する人を心から心配し、真っ直ぐ信じている。西森は静子の孫なのだと老人は改めて実感した。



「速水という男のことがそんなに好きなんだね。傷つくことが怖くはないのかい?」



大切な静子と同じ目をした西森が傷つく姿を見たくはない。できれば安全だとわかっている場所で幸せに暮らしてもらいたい。優しく頭を撫でる老人に西森は屈託なく笑った。



「俺、速水さんのことを考えると

、とても温かくて優しい気持ちが溢れてくるんです。同時に寂しさや甘えたい気持ちも。こんな自分初めてで。速水さんの前では、心に嘘はつけなくて」



照れ臭そうに嬉しそうに西森は笑った。他の人を好きになった時は自分の素直な気持ちを抑えて誤魔化せたのに、速水を目に写すだけで心が満たされていく。何も理由がないのに甘えたくて温もりを感じたくて。困ったように笑った顔や照れたようにすねた顔。いろんな速水の表情を見たくなる。



自分がこんなにも心に正直で素直だとは知らなかった。速水に出会ってから西森はどんどん変わっていく。困らせてみたい悪戯心も甘えてみたい幼い心も溢れて止まらない。心の奥で頑なに開かなかった小さな蕾が速水の存在を感じて、豊かにゆっくりと花開いていく。そのことを西森は心地よく感じていた。



速水の心を無理に受け止めようとは思わない。速水が心を開いてくれなくてもいい。ただどんな時でも寄り添っていたい。ずっと速水の大好きな背中を励ましてあげたい。照れ臭そうに笑う速水の笑顔を思い出して、西森は優しく笑った。



「俺、速水さんのことが好きなんです。自分でも呆れるくらい。不思議だけど、心から想いが溢れてきて止まらない。速水さんが大好きです」



傷つくことも未来のことも、何一つ恐れていない西森の目。愛する人を想う温かさに満ちている。かつて静子が自分のことを目の前の西森のような目で見つめ続けてくれたことを老人は思い出した。嬉しくて切なくて、そっと目を細める。速水への愛しさが西森には溢れていた。



いつまでも見つめていたい。愛しい人の面影を老人は感じていた。



ブザーが鳴る。ここへと繋がる通信機の呼び出し音だ。老人は西森から視線を外し車椅子に備えてあった呼び出しのボタンを押した。



「失礼します。アキラです」



我が子とも言えるアキラの声が聞こえてくる。どうした?と尋ねてみるとアキラから速水についての報告を聞いた。老人は驚く。どんな嘘や誤魔化しも瞬時に見抜き、人の心を見る鋭い感性を持ったアキラが速水を連れてきた。速水の気持ちを聞いてほしいと伝えている。老人の心に小さな灯火が静かに生まれていた。



「わかった。入りなさい。ちょうど西森くんとの話が終わった所だよ」



通信機を車椅子に置いて西森に速水が来たことを伝える。驚いたように目を見開いて、嬉しそうに屈託なく笑った。



まるで暗闇の中、ひっそりと存在していた花が愛しい光を見つけたかのようだ。



こんな表情をさせる速水という男に会ってみたいと老人はこの時、初めて思った。



アキラに連れられてゆっくりと速水が姿を現す。その瞬間、西森の意識は速水にくぎ付けになる。西森の中のすべて、心も意識も速水へと奪われてしまったかのように目を反らせない。ドキドキと高鳴る鼓動をそっと手で抑えた。



「西森」



視線に気づいた速水が西森を優しく微笑む。しばらく見ないうちにまた痩せたようだ。西森は嬉しさと切なさを感じながら速水の声に答えるように頷いた。一度西森を見た速水の顔が緊張した面持ちになる。西森の隣にいる老人の方を向いてゆっくりと頭を下げた。顔を上げた速水は何かを決意した強い目をしている。急にピリピリと緊迫した空気に西森は少し身震いをした。速水と老人は静かに見つめ合っている。アキラとさつきは黙って見守り、長い時間が過ぎていく。この空気を破ったのは老人の一声だった。



「君が速水か。西森くんの恋人だそうだね。はっきり聞こう。君は西森くんを幸せにできるのかね?君は西森くんに相応しい心を持っているのかね?どうなんだ」



西森と話していた時の優しく穏やかな雰囲気はない。老人の周りにはとても威厳のある高圧的な力を感じた。老人の得たいの知れない鋭く抉るような眼差しに大きなプレッシャーを感じる。隣で聞いていた西森は急に怖くなって目を閉じた。強い老人の目を速水はしっかりと見つめ返す。迷いのない澄んだ目で真っ直ぐ見据えた。



「俺は、西森が好きです。大好きです。自分への不信感から、逃げていたのは事実です。あなたの俺への不信感は当然だと思います」



西森の祖母の写真を持つ手を強く握りしめる。自分への不信感や迷いがたくさんの大切な人を巻き込んでしまった。不甲斐なさに悔しくて唇を強く噛む。このまま悔しさに溺れてしまいそうだが、自分を責めるよりもやるべきことがある。速水は激しく波打つ心を一旦静めて、老人に向き合った。今までの自分をさらけ出す。目の前の老人に自分というありのままの心を見てもらいたい。強さも弱さもしっかり見極めてもらいたい。震える心のまま速水は口を開いた。



「俺は、西森といると自分の知らなかった弱さが溢れてきます。西森を傷つけたくなくて怯える自分。温かさを与えてやれないかもしれないと逃げたくなる自分。言い訳をしたくなるほど、たくさんの弱さに出会いました」



西森に会うまで知らなかったこと。これが弱さなんだと気づいた。情けなくて、見たくなくて配達に逃げていた時期もある。そのことで西森を傷つけたかもしれない。



「でも、俺は西森と一緒にいたい。こんな弱い自分だけど、信じていたい。あるがままで。俺は西森を愛したい。ずっと愛することができると今の自分も、未来の自分も信じることに決めました」



心のどこかで逃げていた自分。どんなに大切に想っていても、愛せないのではないかと怯えていた自分。そんな弱さも脆さも冷たさも。すべてあるがまま受け入れて、西森を愛することができると信じる。自分が自分を信じて西森を愛する。それが西森への想いだ。速水はゆっくりと深く老人に頭を下げた。速水の意図がわからなくて、老人は顔をしかめている。速水は頭を上げ構わず老人の目を見つめた。



「俺の。。ぐずぐすとした迷いのせいであなたに不信感を与えたこと、不安にさせたこと、心からお詫びします。この事件は俺が西森への想いを抱えながら、弱い自分から逃げていたことが原因です。本当に申し訳ありませんでした」



もう一度速水は深く老人に頭を下げた。いつまでも頭を起こさない速水を西森は呆然と見つめる。頭を下げている速水から自分への真っ直ぐな想いを感じて胸が熱くて苦しい。堪らず西森も老人に頭を下げた。



「俺も。。俺がお爺さんに心配そうな顔を見せたからだね。ごめんなさい。俺、とても幸せだから。速水さんと一緒に暮らせて、すごくすごく幸せなんだ」



頭を下げたまま何も言わない速水と自分がどれだけ幸せか何度も繰り返し伝える西森に老人はだんだん表情が崩れていく。表現の仕方は全く違うのに、お互いがお互いを庇い合っている。もう十分だと思った。下を向いている西森の頭を優しく撫でる。深く礼をしている速水にも、顔を上げなさいと優しく告げた。頭を上げて目があった速水を老人は優しく穏やかに見つめる。わかったよ。慈愛に満ちた声でゆっくりと頷いた。



「さあ、そこに突っ立っていないで早くこちらに来なさい。西森くんはずっと会いたがっていたんだよ」



老人の声に西森が勢いよく顔を上げる。しばらく老人の目を見つめた後、堰を切ったかのように涙が溢れてきた。何かがそばに近づいてきてそれが速水だとわかった瞬間、強く腕を引かれる。気づいた時には耳元で熱く激しい鼓動が聞こえてきて体全体が強く包み込まれていた。温かい。優しい。速水がそばにいる。溢れてきた大きな感情のまま、西森は速水の腕の中で思い切り涙を流した。



「良かったなぁ。親父が認めてくれたなら、安心だ。速水さん、西森さん、おめでとう」



強く抱き締めあう二人をアキラが手を叩いて祝福している。杉崎を担ぎながら見守っていたさつきは感動して涙を抑えていた。



「ふふふ。静子さんにはこの結末がわかっていたのかな?私も気が済んだよ。。これからも西森くんを見守っていこう。速水くんやさつきさんや杉崎くん。あなたの愛したあの田舎町をね」



速水に渡された静子の写真を見つめながら、老人は優しく穏やかに微笑む。愛しい人は今も昔も変わらず、その美しい瞳を真っ直ぐ向けていた。愛する孫やその大切な人達を見守っていこう。老人は静子の写真に新たな誓いを立てた。



抱き締め合う二人が美しい。心から求め合い涙を流す姿にこの場にいる誰もが心を打たれていた。

皆様、こんにちは(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?

はあー!書きました。あともう少しです。速水さん!いやー、愛って良いですねぇ。私は愛にメロメロです。

ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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