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歌姫ギルと黄金竜  作者: 青樹加奈
エピローグ
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エピローグ

 イシュリーズ湖の岸辺を、バチスタ・フォン・ロイエンタール公とロジーナ姫が歩いていた。背の高い公の足取りに、少し足早になりながらロジーナ姫が付いて行く。高地の湖の国には秋が早い。湖を渡る風は冷たいが、ロジーナ姫は汗だくだった。

「ふう、この劇場、ギルが結婚するまでに出来上がるかしら?」

 劇場の建設は始まっていたが、完成は遠い先のようだった。公は立ち止まって、建設の始まった劇場を眺めた。

「あの二人、なかなか、結婚出来まいよ」

 笑いを含んだ調子で公が言う。

「そうね、だったら間に合うかもしれない。ここで、ギルの歌声が聞けたら素敵だわ。レオニード殿下と結婚したら、国外に出るのは難しいでしょうからね」

 ロジーナ姫は辺を見回した。みどりの水をたたえた湖。その水に写る周りの山々。美しい景色である。

「それより、見ました? ベルハの元王妃の美しい黄金の髪。濃い化粧をしていたからわからなかったけれど、肖像画を見たらすぐにわかりましたわ。ギルと元王妃。面立ちがそっくり」

 公はゆっくりと言った。

「それは、言わぬが良いだろうよ」

「もちろん、言いませんわ。そうね、一人の母親の話をしましょう。貴族の娘がどういう経緯か子供が出来た。彼女は修道院でひっそりと子供を産み、そして手放した。子供はある夫婦に預けられ、大事に育てられた。一生、修道院から出るつもりのなかった貴族の娘は、そこで、運命の恋をする。王にこわれて、還俗し王妃となる。そして、自分の子供の行方を探す。子供を育てているのが、兵士だとわかると王宮の兵に取り立てた。

 兵士の方もわかっていたのかもしれない。子供に兵士の娘としては異例の教育を施す。しかし、運命の輪は巡り、王妃は戦争によって総てをなくす。だが、そこに、娘がブルムランドに逃げのびたときかされ、ブルムランドの後宮に入るのを承知する。ケルサ祭の日、舞台に自分の娘の晴れ姿を見るが、同時に、ブルムランドの王が娘に関心を持ったのを知る。それから、元王妃は妖艶な美女に変身して王を夢中にさせ、娘を守った」

 公はうっすらと笑いを浮かべ、ロジーナ姫の話を聞いていた。

「よく出来た話だが、私ならこうするな。

 ……ベルハの王が貴族の娘を愛した。しかし、ベルハには後宮がない。子供が出来た娘は王との恋が発覚するのを恐れて修道院へ入る。王は娘が忘れられず、とうとう妃を毒殺し、娘を修道院から還俗させ、王妃にすえる。しばらくは、平和な日々が続くが、毒殺された王妃の息子、成長した第一王子が美しい義母に恋をする。それを知った王はブルムランドとの戦に第一王子を送り出し、殺してしまう。そして、王もまた、討ち死にする。残った王妃は、幼い子供達とかつての修道院へ逃げ込むが、子供達は流行り病に侵され死んでしまう。一人残った王妃は自害しようとするが、娘がブルムランドで生きているかもしれないと知って、もう一度生きようとする。そこから先はあなたと同じだ」

「その話、絶対、口にはできませんわね」

「もとより、作り話だ。ギルには親が誰かなど、関係ないだろうよ」

「そうでもありませんわ。だって、あの子は自分が平民でレオニード殿下とは決して結婚出来ないと、随分悩んでいましたからね。自分の父親が国王だったら悩まずに済んだでしょうに。それどころか、ベルハの王女ならレオニード殿下と十分釣り合いが取れますわ」

「しかし、歌姫としての成功は望めまい。王族が舞台に立って歌うなど許されぬからな。これからもギルは悩むだろうよ。歌姫として生きるか、ブルムランドの王子妃になるか」

「ああら、それは殿方の考えよ。王子妃が舞台に立ったって全然おかしくないわ。私だったら、両方取るわね」

「くっくくくく、あなたには負ける」

 ロイエンタール公とロジーナ姫の笑い声が、いつまでも湖畔に響いていた。



 

         完

最後までお読みいただきありがとうございました。

心から御礼申し上げます。 

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