第8話 公爵令嬢は女騎士を守りたい-2
傷の手当てを終えたベラは、コルデリアの隣の部屋に寝かせられた。しばらくは公爵邸で寝泊まりするようコルデリアが手配したのだ。ここなら適切な医師からの治療をいつでも受けられるからだ。
「ベラ……一つ、聞いてもいいかしら? 包み隠さず本音を話してちょうだい」
「はい。なんでしょうか?」
「ジーク様のことよ。本当はどう思っているの? 好きではないの?」
「本音……ですか。実はとても迷惑しています。好きだなんてとんでもない」
「でも、あなたたちはとても親しそうだったでしょう? 食事も一緒にしていたし、ジークはあなたの腰に腕まで回していたわ。ベラに会いに行ったあの日、帰りがけに食堂で見てしまったのよ」
「あれはジーク副団長が勝手にやるんです。あたしだって、できることなら一発殴って席を立ちたいですよ!」
ベラは腹立たしそうに言い、コルデリアは確認する。
「つまり、拒否したいけどできないのね?」
「……その通りです。相手は副団長で、そのうえ貴族なんですから。父が亡くなってから、母は仕立て屋でお針子をしていますけど、お給料はよくありません。弟と妹もいますし、食費や家賃だってかかります。弟は頭がいいので、できれば学校に通わせてやりたいんです。だから、あたしが仕事を失うわけにはいかないんですよ」
ベラは王都の貧民街で母親や弟妹と暮らしている。決して豊かな生活ではなく、騎士団の給金は家族を養うためになくてはならないものだった。
「もちろん、副団長に嫌われたからって、すぐに首になるとは限りません。でも、あたしには後ろ盾がありませんから。貴族の方に睨まれて、やってもいない規律違反を理由に辞めさせられた女性騎士だって、何人も見てきました」
「そんなことが許されるの? 騎士団とはそういうところなの?」
「残念ですけど、そういうこともあるんです。あたしみたいな貧民街育ちの女騎士なんて、どうとでもなります。だから、適当に受け流すしかないです」
最後だけ少し情けない声になるベラに、コルデリアは思わずベラの手を握る。
公爵家の跡継ぎ娘として何不自由なく育ったコルデリアには、仕事を失うことを恐れて嫌な相手にも逆らえないという事情が、まるで見えていなかった。
「コルデリア様、信じてください! 四六時中勘違いだらけの人を好きになんてなれません。あたしには無理です!」
勢いよく否定した途端、傷に響いたのか、ベラは顔をしかめて肩を押さえた。
その必死な様子に、コルデリアはベラがどれほどジークを嫌がっているのか、改めて思い知らされた。
しかも、そのジークは自分の婚約者なのだ。立場の弱い部下にこれほど迷惑をかけるなど、男として最低ではないか。
「……そういうことだったのね。ベラの気持ちはよく理解したわ」
「わかっていただけてホッとしました」
コルデリアは目の前のベラを見つめた。
家族のために懸命に働いているのに、上官からの迷惑な行為にさえ耐えなければならないなんて、あまりにも理不尽だ。
(ここはわたくしがジーク様に現実を教えて差し上げねばならないわね……ベラを守るのはわたくしよっ!)




