第5話 絡まれる女騎士
数日後、コルデリアは学生時代から親しくしている伯爵令嬢、エレノア・ハミルトンの屋敷へ招かれていた。
ハミルトン伯爵家はバクスター公爵家より爵位こそ下だが、エレノアとは貴族学園に通っていた頃からの友人である。卒業後も付き合いは続いており、時折こうして互いの屋敷を行き来していた。
その日のお茶会には、コルデリアのほかにも学園時代から顔見知りの令嬢が数人招かれていた。
もちろん、護衛であるベラも同行している。
庭園に設けられた白いテーブルの少し後ろで、ベラはいつものように背筋を伸ばして控えていた。
騎士団の制服に身を包んだ彼女は、色とりどりのドレス姿の令嬢たちの中ではひどく目立つ。
そしてベラがコルデリアとともに現れたときから、何人かの令嬢は彼女を気にしていた。
「ねえ、コルデリア様。そちらの方って……とても素敵ね。中性的で凜々しい女性騎士だこと。王立騎士団に派遣を要請したのはその方なんでしょう?」
最初に口を開いたのは、侯爵令嬢のミレイユだった。彼女は他家の情報にとても詳しい。
扇子を手にしたまま、値踏みするようにベラを見ている。
「もしかして、ジーク様とずいぶん親しくしていらっしゃるという女性騎士ではなくて? とても強くて目を見張るほど颯爽とした騎士だと噂になっていたわ」
途端に、その場の空気がわずかに変わった。
ベラは内心ぎくりとした。
(……なんでここまで話が広がってるかなぁ。あたしは真面目に働いてお給料をもらって、母さんに楽させたいだけなのに。これもしつこくしてくるジーク副団長のせいだ)
もちろん、口には出せない。その間にも、ミレイユはベラをじろじろと眺めてコルデリアに言った。
「ずいぶん親しげだと聞きましたわ。食事をご一緒したり、鍛錬中でもいつも側にいらっしゃるとか。コルデリア様もお気の毒ですわね。いくら筆頭公爵家の令嬢でも婚約者の浮気は止められない」
黙っていようと思ったベラだが、コルデリアを侮っているような口調に、苛ついてしまった。
「ジーク副騎士団長とあたしは、本当にただの上司と部下ですよ。コルデリア様が浮気されるわけがないじゃありませんか。こんなに綺麗で、お優しいのに。その価値がわからない男なんて、あたしがぶちのめしますっ!」
コルデリアは思わずベラを見た。
(……どうして、わたくしを庇ったの? そもそも恋敵を守るために好きな人を殴る? あり得ない……)
「でも、ジーク様の方はどうなのかしら? コルデリア様よりも、あなたの方がお好きだったりして……だって、あなたはとても素敵よ」
「そんなわけありません! あたしなんかよりコルデリア様の方が百倍もお綺麗ですし、上品で、まるで天使です。それに比べたら、あたしなんてその辺の石ころみたいなものです。手だってこんなです。副団長がコルデリア様よりあたしが好きだなんて、絶対にあり得ません!」
ベラは剣ダコのできた手を見せながら、勢いよく言い切った。あまりにも力のこもった否定に、その場にいた令嬢たちの視線が一斉に集まる。
ベラにしてみれば、侯爵家の子息である副騎士団長など身分が違いすぎる相手であり、そもそも異性として慕う気持は微塵もない。ジークからの好意など正直大迷惑なのだ。
(やめてよぉ……。あたしは真面目に騎士の仕事をして、お給料をもらいたいだけなのに……)
副騎士団長との色恋沙汰で名前を知られるより、任務をきちんとこなす騎士として評価されたい。それがベラの本音だった。
一方、コルデリアは照れていた。ベラから天使と言われたのは今ので二度目だ。
(……ベラは本当にジークのことが迷惑のようね)
だとすれば……コルデリアは静かに目を細めた。
筆頭公爵家の一人娘として生まれ、これまで相応の教育も努力も重ねてきた。家柄だけでなく、自分自身にも誇りがある。
(ジーク様が嫌がっている女性を追いかけ回すような愚か者ならば、わたくしの婿にはふさわしくない)




