第14話 父に相談してみたら
バクスター公爵は不思議そうに娘を見た。
「そもそも、あの婚約はドジソン侯爵家から申し込んできたものだからね。こちらとしては、どうしても結ばなければならない縁談ではなかったんだよ」
「……そうでしたの?」
「ああ。ちょうど年頃の息子がいるというので、話を聞いてみたんだ。ジーク君と引き合わせたとき、コルデリアも特に嫌がらなかっただろう?」
コルデリアにも、幼い頃の記憶がかすかに残っていた。
初めて会ったジークは見目がよく、礼儀正しい少年だった。悪い印象もなかったため、感想を尋ねられた際には、特に異存はないと答えたのだ。
「……まさか、あのときの返事で婚約が決まったのですか?」
「もちろん、それだけではないよ。家柄にも問題はなかったし、当時のジーク君は評判もよかったからね」
公爵はあっさりと答えた。
「向こうにとっては筆頭公爵家との縁組だから、ありがたい話だっただろう。だが、我が家は婚姻によって後ろ盾を得る必要もない。無理をしてまで守るような縁談ではないんだよ」
「……わたくしはずっと、両家のために婚約を守らなければならないと思っていましたのに」
「何だ、そんなことを考えていたのか。もっと早く相談してくれればよかったのに」
あまりにもあっさりした返事に、コルデリアはがっくりと肩を落とした。
長年、婚約者なのだから結婚しなければならないと思い込んでいたのだ。それが、父親にとってはそれほど重要な縁談ではなかったという。
「私はてっきり、コルデリアもジーク君との結婚を楽しみにしているものだと思っていたよ」
「楽しみに……」
コルデリアは遠い目をした。
いつから結婚を楽しみにするのではなく、義務のように感じるようになったのだろう。もっと早く相談していれば、あれほど悩まずに済んだはずだった。
「まあ、正式な婚約解消には先方との話し合いも必要だが、心配はいらない。私にとっては、コルデリアが幸せでいることの方が大切だからね」
「……お父様。ありがとうございます」
コルデリアがほっとしたように微笑むと、公爵は婚約破棄の書面をしたためた。
「早速、ドジソン侯爵家へ使いを出そう。それから、ベラの件で王立騎士団にも連絡を入れておくよ」
バクスター公爵は婚約破棄を記した書面に併せて、ジークのこれまでの振る舞いについて、ドジソン侯爵家としての見解を求めることにした。




