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帰郷その3

 さて、色々と楽しい時間を過ごしたが、ここからは真剣な時間の出番だ。


 いよいよアランとの模擬戦を行うのだ。場所はアランの家からそう遠くない場所にある国営の運動広場だ。ここは年に数回開催される貴族主催の武闘大会の会場として使用されている場所だ。その中でも、大貴族が主催する大きな大会とかだと、たまに王族が鑑賞に来たりもするらしい。それくらい大きく、設備も整っている広場だ。


 そして当然、それほどの舞台で模擬戦を行うということは、大会でなくとも少なからず人目につくわけで……


「おいあの2人……」

「ん? なんだぁ?」


 俺やアランの姿に気が付き、興味深げに視線を向けてくる人間がチラホラ出始める。


「今日大会なんて……無かったよな?」

「あぁ、ねぇな。あるとしても1ヶ月先だったと思うぞ」

「だよな〜。てことは個人で広場を借りた連中か?」

「そうみたいだな」


 そんな会話が聞こえてくる。俺たちは広場の中央にいて、彼らは客席で仲間たちと談笑していたようなので、本来ならば会話が聞こえる距離ではない。しかしここはホールになっているので、結構会話の声が響くんだ。


「随分と注目を集めてるみたいだな」

「そうみたいだね。まぁ、仕方ないよ。本来ならここは武闘大会などに使用する会場で、今日はその大会がない日なんだから」

「ふ〜ん。まぁ、取り敢えず始めるか?」

「お、早速やるかい?」


 俺は頷き、広場の中央に足を進める。アランもそれに続くように準備を始める。そして互いに準備体操や体の調子の確認などを済ませた後、しっかりと向き合う。


「こっちはいつでも行けるぜ」

「僕もだよ。久々の手合わせだ。今後いつまた会えるかも分からないし、互いに悔いの無いようにしよう」

「あぁ、そうだな」



 俺たちは互いに戦闘態勢に入る。剣を抜き、体内の魔力を循環させていつでも戦える状態にする。そして、


「いくぜ!」

「来い!」


 俺はアランに向かって走りながら剣に炎の魔力を纏わせ、一閃した。


真紅(しんく)爆閃(ばくせん)!」


 真紅の爆閃とは、学園で読んだことのある魔術教本に載っていた攻撃特化の魔法だ。炎の王国出身のとある炎魔法使いが自身の剣に火炎と爆発を同時発生させる魔法を開発したのが始まりだ。


 俺がよく使う、剣に炎を纏わせる魔法は爆発まではしない。だが今回は相手が相手なので、よりこう威力の魔法を使うためにこれを選択した。


「そっちが接近戦を選ぶのなら、こちらも応戦せずにはいられないね! 水渦(すいか)清剣(せいけん)!」


 そう言ってアランも接近戦に応じてきた。まぁ、そうだろうな。アランは逃げないだろう。なんせこいつは騎士を目指してるんだ。接近戦こそが本職なんだから逃げるわけにはいかないだろうな。


 アランの水の渦を纏った剣と俺の炎の剣が激しくぶつかり合う。


 バキィーーーンッ! ガキィーンッ!


 俺の赤熱した剣がアランの剣にぶつかる。そして同時に爆発も起こす。それに対して、アランの剣は強烈で巨大な渦を凄まじい速度で回転させながら、俺の魔法の効果を相殺しようとしてくる。


 そして……


「……何ッ!?」


 俺が吹き飛ばされた。初めてだよこんなの。俺は学園での経験、そして冒険者になってからの経験で、たくさんの知識や技術を得た。そして一年以上の時間を経て体が成長したことで、身体能力も上がった。なので打ち合いにもそこそこ自信があった。


 (でも……吹っ飛ばされたのは俺だった……アランのやつどんだけ強くなってんだよ)


 そんな余計なことを考えていたためか、アランが追撃のために接近していることに気付かなかった。


「何をびっくりしているのさ。僕だって成長する。いつまでも君にあしらわれてるだけの存在じゃないぞ! さぁ、どんどんいくよ!」


 アランが再度繰り出してきた渦の斬撃を俺は防ぐので手一杯になっていた。やれやれ、流石に成長してるのは俺だけじゃ無いのは当たり前か。


 俺たちの関係は、常に前世で言うところのボクシングのようなものだった。序列一位となった俺がチャンピオン。その座を狙うアランが挑戦者。俺は一位の座を守るためにずっと防衛戦をやっていたようなもの。


 だが、いつまでもアランが挑戦者だと思っていたのは、俺の驕りだったようだ。いつのまにかアランは俺に追いついていた……いや、既に超えているのかもしれない。冒険者としても成功しすぎて、いつの間にか天狗になっていたようだな。一旦、気を引き締め直さないといけないな。


 

 ドンッ! バキィーーーンッ! ガキィーンッ!



 何度か打ち合いが続いたが、流石にそろそろこの展開を打破できる策を考えないといけないと思った俺は、一度アランに吹き飛ばされるようにして距離を取った。


「はは、流石だぜアラン! しばらく見ない内にとんでもなく強くなりやがって!」

「ふん、そんなことを言いながら、僕の攻撃を全て上手く捌いてるじゃないか」

「そりゃ当然だ! 俺だってこの一年ちょっとの間、遊んでたわけじゃないんだ。それなりの修羅場を乗り越えてきた自負はある。簡単にやられてたまるかよ!」


 そう返事をした後、俺は一気に地を蹴り、左手を前に突き出した。その仕草を見て直ぐに反応して警戒体勢に移ったアランは流石だ。俺が何か魔法を撃つつもりだと察知したんだろう。


 だけど、察知したからと言って、この攻撃を捌き切れるかは別の話だろう。


業火(ごうか)監獄(かんごく)!」


 俺は学園の最高学年時に、今まで学習してきた魔法の中で自分が使える最高のものを披露するという試験で使った最上級拘束魔法を発動した。


 効果は指定対象の周囲を円形状に囲み、炎の熱で(あぶ)り殺すというなかなかにエゲツない魔法だ。しかもこの魔法の厄介なところは、囲いの高さが50間ほどあると言うことだ。因みに"間"はこの世界の単位で、1間は前世の1メートルって感じだ。


 さてさて、あいつはどう動くかな? そんなことを考えていると、アランが魔法で対処しようとしていた。


「また厄介な魔法を……! だったら、これはどうだ!? 水霊(すいれい)咆哮(ほうこう)!」


 アランは自分が捕えられている魔法がかなりヤバいものであるというのを直感で悟ったのだろう。かなり強力な魔法を発動しようとしている。

 まぁ、流石に模擬戦なので、熱量を下げる設定をしてあるとしても、暑さで体内の水分も体力も精神力も削がれてしまっていることには違いない。何も対処しなければ、いずれ意識が飛び、完全に戦闘不能状態になる。


 アランもそれを分かっているのだろう。直ぐに同じぐらいの強さの魔法を発動してきた。

 水の化身のようなものを顕現させると、その化身が咆哮という名の水のブレスのようなものを放ってきた。



 ドバーンッ!!


 

 アランの水魔法のブレスが俺の炎の拘束魔法と激しくぶつかり合う。水蒸気爆発が起こり、凄まじい爆風が俺たちを吹き飛ばさんと迫ってくる。


「うぉッ!?」

「くッ!!」


 互いに数間ほど後退した後に、俺は次の魔法を撃った。そしてそれはアランも同じだったようだ。


蒼炎槍乱(そうえんそうみだ)()ち!」

「青い炎!? 確か、序列決定戦でも使っていたね。ならこっちは、水竜(すいりゅう)逆鱗(げきりん)!」


 俺たちは互いに単体目標撃破における最高の魔法を放った。俺のは前世の知識を使って自分で作り上げたシンプルな魔法。ただ火球に酸素を大量に含ませるイメージをしただけの魔法。しかしその威力と熱量は想像を絶する。もちろん今回の魔法も、出来る限り威力は抑える設定にして魔法を構築した。なので当たって死ぬことはない。

 しかし直撃すれば、大火傷を負うだろうな。でも俺には回復魔法もあるので、死ななければ治療可能だ。


 というわけで、遠慮なく倒しに行く。向こうも同じ考えだったようで、アランの放てる最高の魔法を俺に向かって撃ってきたようだ。


 竜の姿をした水の魔法が俺の蒼炎とぶつかると、途轍もない水蒸気爆発を起こす。そしてそれは一度で終わりではない。俺の魔法は複数同時発動だからな。


 アランの魔法も、かなり耐久力のある魔法のようで、次々と俺の魔法を掻き消していく。


 正直驚きを隠せない。俺の炎は青色だ。つまり、万を超える温度で燃えているんだ。そんじょそこらの水分では消化するどころか、逆に蒸発する。だが実際目の前で起こっているのは、互いの魔法が徐々に消滅し合っていく光景だ。


 それならと俺は次の行動にあたろうとした。しかし、


「君の動きが止まる時を待っていたんだ!」

「ッ!?」


 ガキィーンッ!!


 俺の目の前には既に接近戦に移行していたアランがいた。向こうが水の魔法を纏った剣で攻撃してきたので、俺もそれを受け止める。

 しかし、


「くッ!!」

「流石に強化無しの剣じゃ無理があるでしょ! 押し切らせてもらう! 水流剣(すいりゅうけん)!」

「舐めんじゃねぇぞ! こちとら常に自分の数倍の体格の怪物相手にしてんだ! 赤熱武装(せきねつぶそう)!」


 アランの水の剣と俺の熱の剣、どちらが打ち勝つか我慢比べだ。


「ぐぉーーーッ!!」

「でりゃぁーーーッ!」


 俺たちは互いの足が互いの剣で鍔迫り合いをする反作用で、ジリジリと後退していく。そして俺とアランの間からは猛烈な水蒸気と衝撃波が荒れ狂う。

 そして、


 ドーンッ!!


 魔法のエネルギー衝突が限界を迎え、爆発した。その影響で俺たちは互いに後方へ吹き飛ばされる。俺はその隙を見逃さなかった。


火槍(かそう)!」


 真っ赤に燃え盛る炎の槍がメラメラ、バチバチと音を立てながら、俺の頭上に出現する。そしてそれをアランに向かって放つ。

 すると、


「君ならそうすると思っていたよ! 大水球(だいすいきゅう)!」


 アランも同じことを考えていたようで、水球の巨大バージョンを撃ってきた。俺とアランのちょうど中間あたりで二つの協力な魔法が衝突し、そして……


 バシュッ!!


 俺の火槍がアランの魔法を貫いた。そしてそのままアランの方へ向かって行き、アランはすぐさま水の防御魔法を展開した。


「ちぃッ! 何のこれしき!」


 そう言いながら踏ん張るが、ジリジリと炎の槍がアランの防御魔法を突き破っていく。やがて限界を迎えたアランの防御魔法がついに弾け飛んだ。


「ぬぉーッ!?」


 火槍の直撃を喰らったアランはそのまま後方へと吹き飛んだ。そして壁に激突し、動かなくなった。






 数分後、


「ほれ、起きろ! 治療は終わったぞ!」


 ぺちぺちと頰を軽くはたいてやるとアランは目を覚ました。


「う、うぅ〜……。あ、セドリック。そうか……終わってしまっか」

「あぁ、俺の勝ちだ」

「それは……残念だなぁ。今回は学園祭時代よりも上手く戦えていたし、気を抜かなければいけると思ったんだけど……」


 アランは心底残念そうにそう言った。俺からしたら勘弁してくれと言いたい。俺たちがまだ学園生だった頃はあれだけ差があった実力をたったの一年ちょっとでここまで埋めてきたんだ。とんでもない成長速度だ。


 最後だって結局は魔力のゴリ押しで勝ったようなもんだったし……正直、俺は今勝者の気分じゃない。ただそれはアランの前では言わない。どんな形であれ、勝ったやつが負けたやつにそんなことを言っても、ただの嫌味にしかならない。

 ただ一言。


「いや、今回は俺も結構苦戦した。いい試合だったぜ。またいつかやろう」

「セドリック……ふ、そうだね。またやろう! 次こそは絶対に倒すからね」

「はは、これは俺も気合を入れて特訓しておかないとな」

「そうしておくことをお勧めするよ」



 シンプルな賞賛とまたいつか再戦する約束、今はこれだけで十分だ。余計な言葉は必要ない。お互いに笑顔で決闘を終えたところで、周囲から拍手が聞こえてきた。


「いやぁ、すげえ試合だったぞ! 大会でもねぇのにびっくりしたよ!」

「ホントだぜ! いいもん見せてもらった! ウチ食堂やってんだけどさ、今夜どうだい? お礼に店の奢りで好きなだけ食わしてやるから!」

「すごい音が聞こえるから見にきたけど、あんなに若い子達がこれほどの試合をするなんてね〜。世の中どこにすごい人がいるかわからないものね〜」


 いつのまにか俺たちの試合をガッツリ観戦していたギャラリーが居たようだ。しかもかなりの数。おそらく戦闘音に引き付けられてきた人達だろう。

 だがそんな中で1人の人物が、


「ん? 待てよ? あんたらどっかで見たような顔だな……。うーん……あ!?」


 大きな声を上げた男に周囲の視線が集まる。


「おい、アンタら気づかねぇのか!? 彼らだよ彼ら! ほら去年だったかな? 今まででもあまり例がないほどの人数が優秀生徒紋を授与されて学園を卒業したあの世代! その筆頭格の炎魔法使いのセドリックとベルリオーズ騎士爵家嫡男のアラン様だ! 大体、この水の王国であれほどの腕前の炎魔法使いなんてほとんど居やしねぇからおかしいと思ったんだ!」

「あぁ! 思い出した! あの2人か! 四年ぐらい前の序列決定戦で、凄え暴れっぷりだったっていう……」


 それからは、広場は俺たちの話題で持ちきりとなった。でも流石に疲れたので、最初の方に店に来ないかと声をかけてくれた店主の人に、今夜寄ると声を掛けて住所だけささっと聞いてから直ぐに広場を後にした。


「な、なんか凄いことになったね……」

「ま、仕方ねぇだろ。普段、大会とかが無ければ静かな場所なんだろ? あの広場は。ならいきなりあんだけドンぱちやり始めれば、騒ぎも起こるだろ」

「まぁね。さてと、疲れたし一度屋敷に戻ろうか」

「あぁ。これからあの店主の店で、腹一杯飯を食べねぇといけねぇからな。疲れをとっとくに越したことはないだろ」

「そうだね」



 そうして俺たちはヘトヘトになった体で馬車に乗り込み、アランの家へと直行した。

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