帰郷 その4
アランとの決闘の翌日。今日はいよいよ帰省するため、王都を出発する日だ。昨日はベルリオーズ家の歓待もあって、一泊させてもらえることになった。そして豪勢な食事まで用意してもらって、非常に楽しい1日だった。アランの両親は酒も入って、凄く盛り上がっていた。
残念ながら、俺はまだ成人していないので、酒は飲めなかったがそれでも問題はない。前世でも成人はしていなかったから酒の味は知らないので、絶対に飲みたかったわけでもない。
何より食事が美味かったので、そんなことは些細なことだった。貴族の料理って本当に美味いんだなと強く思った。
しかしまぁ、いつかはその美味い料理にプラスして酒も飲んでみたいとは思う。この世界の成人年齢は一応14歳と決まっている。なので、あと約一年は酒が飲めないわけだ。でもまぁ、一年なんてすぐなのでいずれ来るであろう酒の解禁日まで、気長に待つこととする。
とまぁこんな感じで、アランの家での休暇を楽しんだので、そろそろ本来の目的の帰省に意識を移そうと思う。
「それでは皆さま、昨日は本当にありがとうございました!
食事もとてもおいしかったです」
「そうかそうか。気に入ってもらえてよかったよ。またいつでも来てくれ。歓迎するよ!」
俺がお礼の挨拶をすると、エミリアン様は嬉しそうに手を差し伸べてくれた。俺もその手を取り、力強く握手をする。
「またしばらく会えないかもしれないのですよね? 寂しいですね……。いつでも来てくれていいですからね?」
「はい。また必ず伺います!」
セレスティーヌ様も凄く別れを惜しんでくれているのが分かる。まだ会って一日しか経っていないわけだが、俺とベルリオーズ家の間には確かな繋がりができた気がする。
この出会いは大きいものになると直感したし、今後もお世話になるかもしれない、確信は無いがそんな気がした。
「あ、あの……セドリックさん……」
今度はシャルリーヌ嬢が声をかけてきた。俺はそっちに向き直り、しっかりと目を見て彼女の言葉の続きを待った。しかし、逆にそれが彼女をより一層緊張させてしまったみたいで、2、3分ほど彼女は沈黙してしまった。
俺には目的もあるわけだし、急がなければいけないとかなんとか言って、挨拶を切り上げることもできた。でも流石にそれは可哀想すぎるし、相手に失礼だ。
なので、じっと彼女が話し出すのを待つ。そして、ゆっくりとシャルリーヌ嬢が話し出す。
「そ、その……また、来てくださいね?」
凄く不安そうな声でそう言ってきた。何をそんなに不安がることがあるのか。俺がこの一家と縁を切ることなどない。絶対にまた来るに決まっている。だけど、それはあくまで俺がそう思っているだけであって、彼女もそう確信できているとは限らないんだよな……。まだ会ったばっかだし。
ここは一つ、俺がまた来ると確信できるような返答をしなくちゃな。
「ご安心下さい、シャルリーヌ様。私は有難いことに、アラン様に友の1人に加えていただきました。そして今回、ベルリオーズ家の皆様と関わらせて頂きました。本当に感謝してもしきれません。ですので、私の方からまた来させて下さいとお願いしたく存じます。そういうわけですので、シャルリーヌ様。また皆様のもとに伺ってもよろしいですか?」
シャルリーヌ嬢が一瞬驚いた表情をした。まさかそんな返しが来るとは思ってなかったのだろう。しかしすぐに笑顔を浮かべてこう言った。
「はい! 勿論です! ぜひまたいらして下さいね!」
「はい、必ず」
俺たちのそのやり取りをエミリアン様とセレスティーヌ様が微笑ましげに眺めていた。本当にこの家の人たちはみんないい人だと思う。絶対にこの関係は大切にしなければいけない。俺は心の底からそう思った。
「それでは、私はこれで失礼致します」
俺はそれだけ口にすると、そこからは振り返らずに王都の出口に向かった。なんとなくだが、振り返るとずっとあの場所に長居してしまいそうな気がしたからだ。
王都の入場門に着くと、早速門番に身分証明書を見せて、手続きをしてもらう。
「うし、何も問題は無いな。通っていいぞ」
「どうも〜」
軽くお礼の言葉を述べて、俺は自分の故郷目指して歩き出す。本当に久しぶりだ。以前帰ったのはいつだったか?
(多分、学園最後の長期休暇の時だったかな?)
つまり俺が学園の3年生だった時の話だ。ただ、いつもいつも俺が長いこと帰らないせいか、セザールの甘え方が半端ではない。帰省している間は常にベッタリなのだ。まぁ可愛いから良いのだが。
しかしあの子ももう5歳なわけだし、流石にもう兄貴離れしているかもしれない。そう考えると少し寂しいが、仮にそうであったとしても、俺がセザールを愛し続けることも、仲良くし続けることも変わらないだろう。
前世で弟や妹と仲が悪くて苦労していた友人を何人も知っている。だからか、前世の頃の俺は弟や妹という存在を勝手に面倒なものだと決めつけていた。
しかし実際、自分に弟が出来てみるとどうだろうか? 可愛くて仕方がない。確かに、わがままな時があったり、年齢を重ねるごとに少し生意気になっている部分があったりもするが、それでもずっと仲良くできている。
まぁそんなわけで、これからも俺がセザールを愛し続けることは変わらないだろう。勿論それはセザールだけに限らず、父さんや母さんも含めた家族全員に言えることだ。俺は本当に周りの人間に恵まれている。だからこそ、その人たちのことを大切にしないといけない。本当に、心の底からそう思う。
そんなことをまじまじと考えていると、気が付けば途中の中継地点の町に着いたようだ。毎回王都と故郷を行き来するときは、休憩場所としてこの町を利用している。
だが俺は、ここで恐ろしい事実に気づいてしまった。それは何か……。
(俺、考え事しすぎて無防備な状態でこの町まで歩いてた!? "気が付けば"ってそういうことだよな?)
つまりはほぼ無意識に、体を動かしてここまで辿り着いたということだ。ろくに周囲への警戒もせず、街の外を彷徨いてたなんて、冒険者にあるまじき失態だ。
故郷に着くまでは何が起こるかわからないんだ。もう少し気を引き締めないといけない。俺は心底そう思った。
何故ならここ最近、魔物が妙に騒がしい。本来の生息域から外れた場所で発見される魔物や普段は群れない種の魔物が仲間を集めて縄張りを確保していたり……。しかもその縄張りを確保している魔物の中に白星級以上の魔物もいたりするのだから笑えない。
まぁ、生息域を急に変えられるだけでも結構厄介なんだけどな。そこにいると思って討伐しに行ったのに、実はすでにいなくなっていた。逆に他の場所で、そこにはいないと考えられている魔物が大量に出現したり……。考えるだけでもゾッとする。
とは言ってもまぁ、俺も何度か経験はある。その最たる例が祖獣だ。熾火のヴォルコーン。不滅の八祖獣と言われ、彗星級にカテゴライズされる正真正銘の化け物……。他にも赤星級時代に白星級の魔物に出会した時もあった。先日の雷獅子を撃退した謎の魔物事件もそう。
何かが起こっているんだろう。俺が冒険者になった初期の頃に、世話になってたとある冒険者も言っていた。
"魔物の生態系が不規則な動きを見せるときは特に気をつけろ。そういう時に油断してアッサリ逝っちまった上級冒険者を嫌になるほど見てきた"
と。そこまで言ってもらっていたのに、今回の失態だ。家族に会えるからと少し気が抜けてたのかもしれないな。
ただ、今はあれこれ考えても始まらない。一先ず今後の旅路で油断しないことだけを頭に入れて、今すべきことはここまでの道のりでの疲れを癒すこと。
「取り敢えず宿を取るか。寝泊まりする場所が無いと体を休めるどころじゃないもんな」
そう思った俺は、ここに来るときは毎回利用している宿の方へ向かって歩き出す。
すると、
(背後から誰かつけて来てる……のか?)
俺は後ろをちょろちょろ歩かれるのは目障りだったので、取り敢えず対処するために裏路地に入った。
まぁ優秀な奴であれば、こんな何もない路地に標的が入った時点で、尾行に気づかれているということに気付くだろう。
(さてさて、敵の反応は……)
俺が路地に入ったところで直ぐに人1人分隠れるほどの物陰に身を潜めた。そして相手は、
(あ〜、ついてきた、か。大丈夫か? コイツ……。俺なら少しは警戒するけどな)
「それで? 一体何の用だ? お兄さん」
近くまで来た時に、ようやく俺は男に声をかけた。黒ずくめのローブにフードをかぶっているので、本来なら男かどうかは分からないが、身長と肩幅的に男だろうと判断したので、そう声を掛けた。
男は気付かれていることに気付いてはいたようだが、俺が本気で気配を殺して隠れてしまうと、それを見つけることはできなかったようだ。
いきなり横から声を掛けられて心底驚いているような感じだった。
「おやおや、やはり気付かれていましたか」
「まぁね。これでも一応、冒険者っつう戦闘職の人間なんでね」
「なるほど」
(さてさて、一体何の用か気になるが、まずは一つずつ質問をしていくか)
こうして俺は、謎の男への対処をさせられる羽目になってしまったのであった……。




