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帰郷 その2

 俺は久々にアランと再会した。その後も2時間ほど2人で喋り続けていた。



「それは災難だったね……。まさか初日で彗星級の魔物に出くわすだなんて」

「なんだ、あの怪物のこと知ってたのか?」

「勿論だよ、軍隊だって場合によっては魔物と対峙することはあるからね。必要な情報はしっかりと組合からもらっているよ。魔物に対する情報の充実度という面では、もしかすると軍人の方が良いかもしれないね」

「話を聞く限り、そうだろうな。なんてったって、駆け出し冒険者は、彗星級の階級のことすら知らない人が多いからな。冒険者の基本が書いてある教本に載ってないから仕方ないんだけどさ。俺だって、たまたま知る機会があったから知ってるってだけだし」

「冒険者だからって無条件に魔物に詳しいってわけじゃ無いんだね」

「そうなんだよ。おかしな話だけどな」


 本当にここの部分に関してはおかしいと思う。いくら彗星級に出会う機会がほぼほぼないとは言え、別に教本に情報を載せておくぐらいやっても良いんじゃ無いかとも思うんだが……。組合にも色々と事情があるのかもな。まぁなんにせよ、俺はもう知っていることなんだし、そこまで気にする必要もないかもしれない。



「まぁ、組合の方でも色々事情があるのかもな。俺にはその辺りのことは分からんし、大人の世界のことなんざ興味もない。取り敢えず、依頼をこなすのに必要な情報さえ正確に寄越してくれればそれで良い」

「ははは、確かに。必要なのは依頼をこなすための情報だもんね。他の情報はあれば良いな、程度の要領でいけば良いのかもね」

「そうそう」


 一先ずこの話はこの辺で終わりにしようとした時、アランは話の続きがあったようで、口を開いた。


「ところでさ、セドリック」


 物凄く真剣な表情で話しかけるアランに、俺も真剣に話を聞く姿勢をとる。


「僕らが学生だった頃、序列云々で戦うことが多かったよね? 僕は初めの頃は控えていたけど、途中から何度か君に決闘を申し込んだよね」

「あぁ、あったなそんなこと。決闘を受ける度に、お前が新しい魔法を覚えていたり、考えていたりしてたから、序列を維持するこっちも結構大変だったよ。まぁでもその分、常に緊張感を持って勉強も訓練も頑張れたから、こちらとしても有り難かったよ」

「そう言ってもらえると、こちらとしても努力した甲斐があったよ」

「そうか。でもなんで今その話を?」


 俺がそう聞くと、微笑んだアランが少し間を置いて、再び言葉を発した。


「もう一度、戦わないかい?」


 俺はアランの言葉にさほど驚きはしなかった。なんとなくだが学園を卒業しても、いずれまた手合わせをする時が来るだろうとは思っていたからだ。

 アランは貴族なので、口調は穏やかだが負けず嫌いなところがある。さっきも話したが、学園で俺は序列を維持し続けた。それはつまり、アランとの勝負でも無敗だったってことだ。何度かヒヤリとさせられる場面もあったはあったが、結局最後はいつも俺が倒していた。


 なので、こういうリベンジマッチはあるだろうとは思っていた。だが今言われるとは思っていなかったので、どちらかと言うと困惑の方が今は強い。

 ただそれと同時に、久しぶりに戦おうと言われたことに対する高揚も感じている。


 というわけで、


「面白そうだな」

「じ、じゃあ!」

「ただし! 一つ条件がある」

「じ、条件……?」


 俺の言葉にアランは困惑しているようだ。そりゃそうさ。今までの序列決闘において、俺はこいつに条件なんか出したことはない。というか、序列上位者は下からの挑戦を断ることもできないし、正々堂々引き受けなければならない、という決まりがあったからな。出したくても出せない、というのが正しい。


 しかし今回は違う。俺たちはもう、権力の及ばない学園のルールに守られている学生でもなければ、序列決闘をやっているわけでもない。1人の冒険者と貴族として会話しており、そして戦おうとしているんだ。

 

 当たり前の話だが普通、貴族を傷つけるなんてことをして、許されるわけがない。それ故に俺は迷っているんだ。ここは冷静に考えて、最初にこいつの父親のベルリオーズ騎士爵に許可をもらっておくべきだろう。それが必要最低限の礼儀と配慮というものだ。


「あぁ、簡単な話さ。俺たちはもう、学園の学生でもなければ、序列の決闘をしているわけでもない。1人の冒険者と貴族として会話している。そんな2人が今から戦い合おうって言ってるんだ。いくら当人同士の合意があったとしても、法律的に問題があると思わないか?」

「まぁね。普通に考えれば、いくら凄い階級を持つ冒険者であったとしても、結局平民は平民。爵位を持っていなければ、不敬罪に当たる可能性はあるね」


 アランは俺の言わんとしていることを正確に理解してくれたようだ。


「そういうわけで、まずは決闘の許可をもらわないとな」

「なるほど、父上か」

「そそ。もともと挨拶には伺う予定なんだ。その流れで、お前と戦っても良いかどうか聞こうじゃないか」

「よし、分かった。それで行こう」

「決まりだな」




 そうして俺たちは会話を切り上げて、直ぐに執務室に向かった。


 コンコンッ


 アランが丁寧に扉をノックする。すると直ぐに返事が来た。


「はい、どうぞ」


 懐かしい声だ。聞いたのは随分前のはずなのに、しっかりとその声は覚えている。それも当然の話だ。何故ならこの部屋の奥にいる人は、貴族であるにもかかわらず、俺の属性のことをすんなりと受け入れ、凄いとまで賞賛してくれただけでなく、貴族として初めて俺に味方してくれた人でもある。


 何か特別なことをしてもらったわけではないけど、俺にとっては貴族が1人でも味方についてくれたということが何よりも大きい。本当に感謝しても仕切れない。だからここに来ると決めた時は絶対に挨拶だけはしておこうと思っていたんだ。


「失礼致します」


 そう言ってから、部屋に入って行ったアランに続いて、俺も入室する。


「失礼します」

「やぁ! いつかの少年だね! アランからも君のことについてよく話を聞いていたよ。セドリック君」


 俺はこの人に覚えててもらえたことが嬉しくて、つい嬉しさを顔に出してしまう。そりゃ、まともな人間なら命の恩人の顔と名前を忘れるわけがない、と言われればそれまでだが、俺としては素直に嬉しかったのだ。


「覚えていただけてたようで、光栄です。ベルリオーズ卿」

「ははは、君は相変わらず言葉遣いが平民らしくないな。でもまぁ、そんなことよりも、再開できたことを嬉しく思うよ」

「はい、僕もです」



 ベルリオーズ卿は騎士爵という、最下級の貴族ではあるが、担っている役割や仕事は通常の同格貴族とは比較にならない。

 いや、正確には"格が違う"と言った方が正解かもしれない。騎士爵に留まっているのは、あくまで力を示す機会が少ないだけであって、機会さえあれば一瞬で準男爵も飛ばして男爵にまで上り詰めそうな勢いの貴族だ。マジな話、顔を覚えておいてもらって損はない人だ。


「この後は妻や下の子にも会うのかな?」


 俺はその質問に頷きかけて、ふと疑問に思った。


「奥様にはこれからご挨拶に伺おうと思っております。しかし気になってしまったのですが、アラン様には妹さんがいらっしゃったのですか?」

「あれ? 知らなかったのかい? 君とアランは学園で同級生だったと聞いているので、てっきり知っているものかと」


 そんなの全く知らなかった。アランの奴、よ〜く考えれば、あまり自分のことを話さない奴だったかも。まぁ、今はそんなことどうでもいいや。取り敢えずアランに妹さんのことについて聞いておこう。


「アラン様、そのようなお話はお聞きしたことが無かったと思いますが、詳しくお聞きしても?」

「そうだったね。君とは友達なのに、あまり家族のことは話さなかった気がするね。よし、じゃあ取り敢えず今から母上のところに行って、その後に妹にも会っていただくとするかな」

「はい、ぜひ」


 


 その後、二、三言葉を交わしてベルリオーズ卿の部屋を出た俺たちは、アランの母親の部屋に訪ねた。とても気さくな人で、穏やかな雰囲気を纏っている正に淑女と言った感じの女性だ。

 名前はセレスティーヌ・ベルリオーズ。素敵な名前だと思う。そして容姿に関しても、この女性にしてこの息子あり、と言った感じだ。夫婦揃って美形のようだ。


 彼女とも少し言葉を交わし、これからもアランを宜しくとお言葉をいただいた。





 アランの母親と会った後は、いよいよ妹さんとの初対面だ。部屋についた俺たちはノックをし、入室許可が出たので、中に入る。

 するとそこには、アランをそっくりそのまま女性にしたような女の子が居た。正直言ってめちゃくちゃ可愛いと思う。


「お初にお目にかかります。セドリックと申します。あなた様のお兄様と、学園で一緒に学ばせていただいておりました」


 俺がそう挨拶をすると、アランが横からクイっと俺の服を引っ張った。


「彼女は君より年下だし、今は僕ら以外、誰も居ないから畏まった態度はいらないよ」

「そ、そうか? でも、妹さんも同じ考えかどうかはわからないだろ?」

「大丈夫だよ。ほら」

「え?」


 俺はアランに示されるままに、アランに向けていた顔を妹の方に向けた。するとそこには、頬を薄く赤らめ、俺のことをチラチラと横目に見ている女の子が……。


「あ、あの〜……」


 俺が声をかけると女の子は、ハッ! とした表情で我に返り、挨拶を返してきた。


「私はアランお兄様の妹で、シャルリーヌと申します。シャルリーヌ・ベルリオーズです。宜しくお願いします!」


 先ほどの様子とは打って変わって、ものすごくハキハキとした挨拶だった。そんなことを俺が思っていると、アランが横から声をかけてきた。


「彼女はね、君に夢中なんだよ」


 スゲェいい笑顔でアランがそう言ってきた。だが俺は意味が分からなかったので、どういうことか尋ねた。


「どういう意味だ?」

「そのままの意味さ。妹は君のことを、僕が学園から定期的に送る手紙で知っていてね。だんだんと興味を持っていったようだよ。そして序列決定戦の時、観戦に来ていたのが決定打になったようだ」


 俺がアランからそんなことを聞いていると、シャルリーヌ嬢が物凄い勢いで詰め寄ってきた。


「お兄様! 余計なことを言わないでください!」


 赤面しながら必死に兄に抵抗するシャルリーヌ嬢の様子は、なんだか微笑ましい。


「だって本当のことじゃないか」

「そ、そんなこと……ない……です……」

「言葉と口調が一致してないぞ?」

「もう! お兄様!」


 うん、取り敢えず分かった。この兄妹の関係。シャルリーヌ嬢はアランにとって完全にオモチャらしい。でもまぁ、仲の悪い兄妹なんか世の中に腐るほどいる。それに比べたらこの2人はすごく仲が良くて、むしろ微笑ましいぐらいだよな。


「まぁ、なんだかよく分からないけど、宜しくな! 2人とも」


 このままだと2人がヒートアップしそうだと判断した俺は、その言葉で一先ずその場を締め括った。すると2人は兄妹らしく同時にこちらを向き、声を揃えて、


「「勿論(です!)!」」


 そう返事をしてきた。しかもセリフまで一緒だなんて、どこまで仲良しなんだよ……。まぁ、俺もある意味兄バカだし人のこと言えないのかもだけど。



 俺はそんなことを思いながらも、笑顔でアラン達の様子を眺めるのだった。

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