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突如塗り替えられる生態系


 まるで何かから逃げるように山を下ってきた雷獅子。しかし、逃げてきたように見えても相手は蒼星級最強の魔物。油断すれば一瞬であの世行きだろう……。とにかく様子を伺うことに専念する。向こうもこちらに気付き、どう出るか思案しているような感じだ。


「ボドワンさん……」

「シッ!!」


 アルが不安げにボドワンさんに声を掛けると、ボドワンさんは口を閉じるように短く指示を出した。

 今は静かに様子を見るべきということなんだろう。そもそも山頂で暮らしているはずの雷獅子が何故山の中間地点にまで降りてきたのか、そこが不可解で仕方がない。


 そういう意味でも、今は下手に動かないのが得策なのかもしれない。




 そうしてしばらく様子を見ていると、向こうが痺れを切らしたのか、稲妻がギラつく鋭利な爪を振りかざして突進してきた。


 雷獅子……まさに名前の通り、雷の獅子だ。見てるだけでとんでもなく強いのが伝わってくる。俺たちは攻撃を喰らわないように後ろへ後退した。


 ズドーンッ!!


 雷獅子が手を叩きつけた部分の地面が大爆発して陥没した。そしてその陥没している地面からバチバチと放電しているのが見える。そしてゆっくりと体を起こし、再び俺らを睥睨(へいげい)する雷獅子。


「みんな……これはちと予想以上だよ。一度撤退し、作戦を練り直そう。でなければ、いくら僕らでもこの敵は厳しい」

「くッ! せっかく順調に見つけられたのに……分かりました。ボドワンさんの指示に従います。アルもそれでいいな?」

「はい! セドさんとボドワンさんはともかく、僕は勝てるかどうか分かりません。できればしっかりと対策したいです!」


 

 よし、反対意見無し! それじゃあ撤退するか。今回ボドワンさん主導で依頼を進めていたけど、パーティリーダーは俺だ。なのでこういう緊急時の指示は俺が出さないといけない。


 そんなわけで撤退の号令を出そうとした正にその時、




 ドッカァーンッ!!




 とてつもない轟音と共に、目の前が砂塵に覆われた。何が何だかわからなかったけど、取り敢えず状況を確認しないといけないと思って俺は目を開いた。そこでは予想もしなかった光景が広がっていた。いや、正確には予想なんてできるわけがない光景だ。


「なん、だ……これ?」


 

 ボドワンさんやアルたちも目を開いて目の前の光景を見て、絶句している。何故なら今俺たちの目の前で雷獅子が体当たりを喰らい、怯んでいるところだったのだから。



「グォ〜〜ッ……」



 そして俺たちがここまで驚くもう一つの理由。それが今目の前で威嚇のための唸り声をあげている魔物だ。

 水色の胴体に、体から伸びている幾つもの触手。体からは絶えず水蒸気を発している。どう考えても水属性の魔物だった。


 だが一つ気になるのが、



 バチバチッ!



 今みたいに触手の先端から電気がチラついていることだ。これを見て俺は一瞬、2属性も持ってるのか!? と驚いたのだが、そこにボドワンさんの解説が入った。


「驚くのも無理はない。魔物には一つの属性で極限まで強くなるものと、複数の属性を操り、より臨機応変に戦いに対応するもの。こういった特徴がある奴もいるからね。しかも驚くことに、中には属性と呼べるほどのものではないけど、自分の持ち属性以外に生態的特徴を使って戦うものもいる。例えば毒なんかがそうだ。このあたりが魔物と人間の違いだね」


 そこまで話を聞いて俺は、より一層魔物という生物への警戒を強めた。そうこうしていると、ボドワンさんがアルにも声をかけながら俺に話しかけてきた。


「セド! とにかく撤退だよ! コイツはやばい! 明らかに雷獅子よりも格上だ!」

「分かりました!」


 今の反応を見る限り、ベテランのボドワンさんでもこの魔物は見たことがないんだな。魔物の教本にも載ってなかったし、下手すると新種かも?

 とまぁ、今はそんなことはどうでもいい。とにかく撤退だな。


「ボドワンさん、アル! 俺が殿を務めるから撤退を始めて!」

「なッ!? 何を言っている!? ここは僕が……」

「いいから行って下さい! 水魔法は炎魔法よりも範囲攻撃が苦手なんですから、こういう場合は俺の方が得意です! だからアルと一緒に撤退を!」

「くっ、分かった! 君もすぐに戻って来なよ!」

「えぇ、勿論です!」



 こうしてボドワンさんたちは、相手を刺激しないようにゆっくりと撤退を開始した。幸い、あの乱入魔物は雷獅子に夢中でこっちは眼中になさそうだ。今なら特に何事も無く撤退できそうだ。



 そう思っているとフラグが立ってしまったのか、こちらに顔を向けてくる乱入野郎……。いいよこっち向かなくて。そっち向いとけよ、クソ……。


 この間に雷獅子は持ち直したのか、さっさとどこかへと走り去っていってしまった。ふざけんなマジで……。もう踏んだり蹴ったりだわ〜。


「まぁ、嘆いていても始まらないよな。やるしかない」

「グォ〜〜ッ」



 それにしても改めて見ると強そうだな〜コイツ……。この間戦った白星級の魔物よりも威圧感がすごいと思う。というか普通にそいつよりも強いと思う。


 と、そこまで考えてふとあれ? と思った。


「? 白星級の魔物よりも強いんだよな? あいつより強いってことはまさかコイツって……」


 やめよう……考えることを放棄するのも時には大切だ。知らない方が幸せでいられることだってある。うん、そうしよう。考えない、考えない。とにかく今はコイツを2人から遠ざけることだけを考えるんだ。



 



 そうして互いに牽制し合うこと十分ほど……



 あれから一切乱入野郎は動かない。雷獅子のことも既に頭にないのだろう。俺のことをじっと見ながら、水魔法を発動しようとしたり、しなかったりで警戒してくる。

 俺も炎魔法を出したり消したりしながら相手を威嚇する。



 そうこうしているうちにボドワンさんたちは安全圏に避難したみたいだ。水魔法で霧を出して俺に知らせてくれた。乱入野郎からすれば、なんだこの霧? 程度の認識なんだろうが、俺からすれば立派な合図の一つだ。


 そうと分かればあとはやることは一つ。


「あばよ」


 俺は小声で乱入野郎に別れの挨拶をすると、反対方向に走った。向こうは霧に惑わされて俺の動きに気がつくのが遅れたのか、しばらく追ってこなかった。というかその後も追ってこなかった。



 なんとかボドワンさんたちがいるであろう地点まで辿り着いた俺は、そこで一度足を止めて息を整えた。そこに丁度俺を発見した2人が近づいてくる。


「どうやら撒くことに成功したようだね」

「はい、何とか」



 俺がそう返事をすると、アルがすごく心配そうに声をかけてくる。


「あ、あの。セドさん、大丈夫ですか?」

「あぁ、うん。大丈夫。特に戦闘にはならなかったから」



 俺がそう言うと、2人は驚いたような顔をした。そりゃそうだろう。あの状況なら誰もが俺は攻撃されてると思うだろう。でも実際はそうでもなかった。ま、結果オーライってやつだ。そんな感じで2人に返答すると、呆れたような、安心したような顔で微笑んできた。


「さて、これからどうしますか?」


 俺が急に話題を変えると、2人はいつもよりもさらに真剣な感じで話を聞いている。





 そこからいろいろみんなで話し合って、雷獅子の捜索だけして、今日は一旦活動を終了しようという話になった。


 俺もその意見に賛成だし、他の2人も特に異議が無かったので、野営の準備をして野営位置の周囲に水と炎で二重の防御魔法を張った。そして明日に備え、簡単な方針決定だけして就寝することにした。



 因みに決めた内容というのは、結局今日、あのあと捜索しても雷獅子は見つからなかったから、明日も探して見つからなければ、組合にトラブルにより依頼遂行が不可になった旨を伝えて依頼は終了ということにしようという内容だ。


 残念だが今回は仕方ない。冒険者になれば、いやでもこういう場面には遭遇する。今回はその学習の機会が得られたと思えば、案外損は無かったのかも知れない。



 そんなふうに思いながら、俺は明日に備えて眠りについたのだった。


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