大会後
序列決定戦が終わってから三日後、
俺は今、アニエスと商店街を巡り歩いている。今日は休みで、学園外に出ることを許可されているからな。
この間考えていた件。彼女にお礼の気持ちとして食事でもご馳走しようと思い、こうして外出許可証をもらって街に遊びに来ている。
「ねえ、本当にいいの? 確か今向かってる区画のお店って高級商店街のお店でしょ? そこのお料理って言えば……」
「大丈夫だよ、アニエス。何も心配はいらない」
「そう、ならこれ以上何か言うのも野暮なことよね。それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」
「ああ、そうしてくれると嬉しいよ」
俺がこの学園に入って働き始めてから貯めたお金はかなりの金額になる。
日本円で言うところの四、五十万くらいか? 日給で貰うんだけど、めちゃめちゃ給料が良いんだ。一日数万円くらいで貰うんだけど、俺でこんだけ貰ってるんだ。
ここの正式な図書館職員さんはもっと給料がいい。学園は国立機関だ。なので就職には国家試験に通る必要がある。難しい試練を与えられるが、その代わり給料は良い。
そんなわけでここの職員さんたちは、いわゆる勝ち組だ。そういった人々の補佐のバイトをしているのでふざけてるのかと思うほど給料がいい。
なので何の心配もいらない。ちゃんとこのあたりのお店の相場も調べてあるし、気になったお店の平均的な値段も、序列決定戦の後から仲良くなったお金持ちの家の息子に聞いた。
下調べはばっちりだ。という訳で今日はしっかりとうまい料理を満喫するぜ!
そんなふうに考えていると、店に到着した。かなり高級感のある造りの店だ。
「ここだよ」
「うわぁ、凄い。綺麗だし大きいし」
「そんじゃあ、入るか」
「うん!」
俺たちが店に入ると、直ぐに店員が対応しに来た。店員は俺たちが学生服を着ているのを見て、少し大丈夫か? というような顔をしたが、直ぐにビジネススマイルに戻り、仕事に取り掛かろうと態度を変えた。
「いらっしゃいませ。本日はご予約はございますか?」
「いえ、ありません。今から食事出来そうですか?」
「はい、可能でございますよ。しかし失礼ですが、当店は少し割高な商業価格に位置するお店でございますので、その……」
ああ、やっぱり気になるか。でもまあなんとかなるっしょ。
というわけで、俺はこう答えた。
「そうですね、知ってますよ。でも僕、一応学園の図書館司書さんの補佐として一時雇用してもらってるので、そこそこ稼いでますよ?」
ちなみに言うと、俺は特進教室のの生徒なので、その分給料も上乗せされてる。
他のクラスだと1日銀貨1枚(日本円で約一万円)だが、俺は4枚もらってる。なぜこんなに高いかと言うと、図書館司書は頭の良さが求められるらしい。
特に記憶力。大量の本を間違えずに棚に戻したりと言った管理業務があるからな。前世みたいにコンピュータなんかないし、大変だ。俺は前世の頃から記憶力がいいと言われていたので助かった。
そんなわけでお金には言うほど困ってない。それを暗に伝えると、流石に店員も図書館司書がすごい仕事だと言うのは知っていたのか、直ぐに納得した顔をした。
「さようでございましたか。差し出がましいことを申しました。申し訳ありません」
「いいですよ。それより美味しい食事、頼みますね?」
「はい! もちろんです! ん?……」
いい返事をしてくれたところで、店員さんが急にしっかりと俺の顔を確かめるように覗き込んできた。
そして急に驚愕したような顔になり、
「あ、あなたは、じょ、序列決定戦で優勝した!?」
と、急に大声で言うもんで、他にいたお客さんにマジで!? みたいな顔で一斉に見られた。
「そ、そうですけど……それがどうかしましたか?」
「どうもなにも、そんなにすごい生徒さんが当店に来てくれたんです! 驚かないわけがないでしょう?」
「は、はあ……」
俺がよくわからないと言った顔をしたのが、理解できたのか店員が、
「分かりました。ではまずは立ち話もよろしくないですから、先にお席にご案内しますね」
「よろしくお願いします」
数十秒後、
「本日はご来店くださり、誠にありがとうございます。先ほどのお話でお客様がどうして驚くのかと聞いておられましたので、それについてまずはお答えいたします」
先に案内されてから早速、店員から話の続きが始まった。ちなみにここはVIP専用の個室だ。
なんで?
「本来、我々平民の多くはお金がなかったり、実力不足で国立学園に入れない者ばかりです。いえ、正確には入ることは可能ですが、ついていけない者や、学費は法律で勉学が義務なので全員払うことはありませんが、それ以外の必要経費を捻出できず、断念する家庭が多いのです。なので大抵の家の子供は近くの教会や孤児院で勉学や魔法を教わります」
なるほど〜、そんな事情があるのか。そもそも勉強不足、訓練不足で文武共についていけない者、学費以外の日々の生活費や、制服代やらなんやらを捻出できない家庭。
そして平民の多くが後者のパターンなので、まず国立の学府に入れていること自体がステータスになるのか。
金持ちや頭が良い、と言うイメージに繋がると言うわけだな。
「そして、その中でも上位教室に入学できた人はその時点でその後の人生に困ることはないでしょう。最低でも年収金貨50枚は確定の仕事につけます。すごい人ならその上の重金貨や公金貨などで数十枚もらうほどの猛者もいます。故にお客さまのように特進教室の生徒さんと言うだけで、将来凄い人物になる可能性があるのです。周りが期待するのも仕方ないでしょう。そして……」
店員はそこで一旦言葉を切り、また続けた。
「お客さまはさらに序列が一位な上に学園からの開示情報によれば、主席だそうじゃないですか。もはや将来はいろんな職業から引く手数多です。ですので、こちらとしてもそんなすごい方をぞんざいに扱うなど出来ないことなのです。当店では学園で特進教室で、序列でも上位の方は無条件で上客個室提供及び、お値段半額をお約束しております」
ワオ! 嘘だろおい……。優遇されすぎだろ。でも考えてみれば、店側からすると当たり前のことなのか?
言ってしまえば将来有望な者に先行投資をして、店の名前の覚えを良くしてもらって、将来いい仕事についたらまた来てくださいね? みたいな?
さすが商人の世界、打算まみれだな。でもだからこそしっかりしたお店を経営できるんだろうな。
俺この店気に入ったかも。
「そうだったんですね。いきなり驚かれてすごい部屋に案内されたので驚きました」
「やはりご自分の凄さにお気づきではなかったのですね。そうなのです。お客さまぐらい素晴らしい方はこれぐらいの対応が普通なのです」
「そうなんですね。勉強になりました、ありがとうございます」
「いえいえ、お役に立てたのであれば光栄です。では念のため、本人確認と序列の確認のため、学生証と序列肩章を拝見しても?」
「ええ、これですよね」
「ご協力ありがとうございます。そちらのお嬢様もよろしいですか?……はい、ありがとうございます。お二人とも特進教室の学生様ですね。確認が取れました。長々とお話を聞いてくださり、ありがとうございました。それではごゆっくり。ご注文が決まり次第、お呼びくださいませ」
そう言うと、店員はささっと個室から出ていった。
なんかすごいことになったな〜とボーッとしていると、今まで黙って俺たちのやりとりを聞いていたアニエスが話しかけてきた。
「なんか至れり尽くせりですごいね」
「だな。まさかこんなことになるとは思ってもいなかったけどな」
「ふふふ。大会を頑張った甲斐があったわね。こんなところで役に立つなんて」
「そうだな」
実は昨日すでに序列が学園前に張り出された。俺は優勝したので当たり前だが、1位だ。アランが2位。そして準決で俺と対戦したやつが3位で、アランが準決で対戦したやつが4位。アニエスは13位だ。
一回戦は勝ち上がったとは言え、やはり二回戦という前半で脱落してしまったのが痛すぎる。まあ本人はあんまり気にしてないみたいなので俺からは特にその話題については触れないがな。
とまあ、そんなわけで俺、アラン、アニエスの3人は一応、序列上位に収まることが出来たのでよかった。
その後は俺とアニエスはメニューから注文をして、美味しい高級料理をたらふく満喫した。
ちなみにお代は銀貨3枚……やっぱ高えな……。
俺のバイトでも真剣に働き続けないと、頻繁に通っていたらスカンピンになるぞこれ。
ま、いっか。アニエスもすごく喜んでくれたしな。
「セド、今日はありがとね」
「ああ、こちらこそありがとうな。俺の誘いに応じてくれて」
そう言うと2人で微笑みあった。そしていくつか商店街の店を回ってから寮に帰って、俺たちは解散した。
よし、明日からは本格的に授業開始だ。頑張らないとな!




