本戦 決勝
俺は今、控室で魔力制御の練習をしている。それは何故か、
(いや〜、流石に決勝まで1時間も空くなんてな〜……)
準決勝が終わったのは昼前。つまり今は観客たちは昼食の真っ最中ってわけだ。
要するに、
(マジで暇……俺昔から長い時間待ったり、その場でじっと黙々と作業したりするの苦手だったからな〜……出来ないわけじゃないけど、俺にとってはこういう状況は苦痛でしかない)
自分で考えてて情けなくなってくる。人間関係は面倒、人混みは嫌い、長時間耐えて何かするの嫌い。
完全に日本人が大切にする精神に真っ向から逆行してる。まあ、前世ではちゃんとみんなに合わせて行動してはいたけどな? それでもこう言う状況はどうしても好きになれない。早く試合始まんないかな〜。
そんなことを考えていると、願いが伝わったのか闘技場からアナウンスが聞こえて来た。
「さあさ、皆さん! お待たせいたしました! いよいよ此度の行事も最後の項目となります! え? 分かっているから早く彼らを闘技場に出せと? ええ、ええ。そうでしょうとも。本来なら1刻お昼休憩の時間をご用意していたのですが、皆様は待ちきれなかったご様子。40節ほどで再入場が完了してしまいました。と言うことですので、早速彼らに皆様のご期待に応えてもらいましょう! 生徒の入場です!」
呼ばれたので闘技場に上がった。ちなみに"節"とは時間の単位を表す。
この世界、当然異世界なので時間の単位も違うのだ。ただ、数え方は何故か同じ60進法なのだ。
そして40節は40分を表している。秒は瞬、時間は刻だ。
中々に面白いだろ?
そして俺は入場が完了したので、大人しく相手を待つ。すると数分後には相手が入場して来た。
なんと言うかまあ、予想通りといえばその通りなんだが、あまりの予想通りぶりに苦笑いしたくなる。
相手はアランだ。特に怪我とかを見かけないと言うことは、普通に準決も勝ち上がって来たんだな。
「やっぱ来たか」
「当たり前だね。君と戦える機会が向こうからやって来たんだ。これを逃す手はない」
「そうかい」
まあ、俺もアランとは闘ってみたいとは思っていたので、願ったり叶ったりなんだけどな。
そんなふうに思っていると、早速司会から開始の合図が出された。大きなドラが鳴ったので、俺たち2人は早速動き出す。
今回は相手が相手だ。短時間で決めに行く。
俺は地面に手を置き、呪文を唱える。本来なら呪文は時間の無駄になるだけで基本は不要なものだ。
必要なのは自分の頭だけで上手くイメージを固められなかったり、効果の強い魔法を使う予定なので安定してイメージを固めていきたい時ぐらいにしか使われない。
そして今回は後者だ。俺が今回使うのは前世での知識があるのでイメージは大分助かっているが、それでも効果を発揮するのが難しい魔法なので、安全策をとって呪文を唱えていく。
「命を育む炎は本性見せれば破壊の権化。全てを奪う蒼き焔は焦土の大地を創り出す! 無慈悲な蒼炎!」
俺の手から空気中の酸素をふんだんに取り込んだ青い炎がメラメラと辺り一面に広がった。
青い炎は前世の知識で考えると、10000度を超える。
実際、今目の前で地面がドロドロと溶解していっている。この試合中における学園への損害修繕費は全て学園持ちなので気にせず溶かしまくる。
流石にこの状況では足が跡形もなくなると思ったのか、アランも一度立ち止まり、水魔法を使いはじめた。
だが、暑さに耐えているような顔をしているのから分かるが、かなり無理をしているんだろう。
大方、炎の熱に水がついていけず、蒸発しまくって片っ端から水素と酸素に分解されて行っているんだろうな。
炎の温度的にも水の熱分解にはもってこいだろうしな。ただアランも馬鹿じゃないんだ。実際それを証明するかのように、水の防御魔法の魔力量を上げて強度を増し、それから一気に勝負をつけようとこちらに突撃してくる。
「そうくることは想定済みさ」
「そう思うのなら僕の剣を受けてみろ! 真正面からな!」
「良いぜ? 本当の意味で真正面から受けてやるよ!」
「水剣斬!」
「炎掌波!」
アランは水の強化魔法を纏った剣で、俺は炎の強化魔法を纏った掌底で応じた。
結果、俺たちは舞台中央でぶつかり合い、衝撃波を撒き散らす状況に至った。
アランの水魔法は次々と蒸発してアランの後方に水蒸気が噴き上げていき、俺の炎魔法も同じように次から次へと消火され、後方に湯気を吹き上げていく。
数秒間の打ち合いの後、勝ったのは俺だった。アランは後方に吹っ飛ばされた。俺は元から魔力量が多いからな。初めから短期決戦で挑むと決めていたし、短期決戦をするなら単純に魔力量でゴリ押ししたほうが遥かに勝率が高い。
故に俺はただ耐え続けたんだ。それはアランもわかっていたようで、
「これが明確な力の差というものなんだね。戦でもそうだけど奇術を展開して相手を翻弄し、見事術中に嵌めても、最終的には総員で突撃してトドメを指す。だから力押しというものは立派な戦術だ。完全に負けたよ」
「いや、それは元から持ってる能力に頼っているだけだ。今度はちゃんとした戦術でお前に勝ちたいよ。今回の俺の感想では試合に負けて、結果で勝ったようなもんだからな」
ちょっと前世風で反省の言葉を述べてみた。すると意外と受けがよかったみたいで、
「なるほど、面白い考え方だね。試合に負けて結果で勝った、か。確かにいつもいつも戦争で勝ってくる一見優秀に見える武将でも、その戦闘内容が毎回辛勝ばかりだと部下からの尊敬も集められないものだしね」
なんか大袈裟に捉えられたみたいだけど、まあ概ね間違ってないので訂正はしない。
「そいうこと。今回お前は俺の戦闘方法に次々と対応してきた。つまり魔力量が同じくらいで戦っていたならもっと苦戦していたってことだ。だから勝った気がしないんだよ」
「ははは。負けたのに認められるとは、変な状況だね。でもその賞賛、素直に受け取っておくよ。そして次はもっと苦戦させてやるからね?」
「ふん、 望むところだ!」
俺たちは握手をした。すると怒号のような拍手と歓声が鳴り響いた。ギョッとして観客席を見ていると、みんなが喜んでいるような様子で賞賛の声をかけてくれる。
相変わらず貴族や身分の高そうな人たちは渋った顔をしているけど、そんな中でも何人かの貴族は拍手を送ってくれている。俺たちはお互い見合って、苦笑いした。
その後解説者兼司会の人が大会の終わりを宣言し、お開きとなった。
今日から2日後に集計した序列結果が学園正面門に張り出され、生徒、一般人共に結果を知ることができる。
俺はアニエスとアランと共に寮に戻ってきていた。今日はあまりにも疲れていて、外食(学園内の食堂なので外食ではないが)とかせずに寮で出される夜ご飯を食べて、三人で共同の談話広場に来て喋っていた。
「ああ、疲れた。もう無理、あんな大会は勘弁してくれ」
「もう、セドったらおじさんみたいなこと言わないで」
「ははは、本当に大会で優勝した者の姿とは思えないね」
俺の呟きにアニエスは呆れで、アランは苦笑で答える。
「仕方ないだろ。疲れたもんは疲れたんだから。特に決勝の相手がアランだぞ? 消耗しないわけがない。実際あの戦いでいつもより多く魔力を消耗したんだからな」
「ほう? それは嬉しい情報だね。僕との戦いが君を少しでも追い詰めていたなんて」
そんな感じで、俺たちは三人で大会のあれこれについて色々話し合って、一通り自由時間を満喫した後、それぞれの部屋に戻って惰眠を貪った。
明日は休みだ。しっかりと体を休めるぞ。




