39話 かけ馬というでしょう? 馬だけに!!(後編)
『――あ、そうだ! 私がコラボしてる、”どん衛門”の応募締め切り、明日までだからね! 応募される方は、お早めに! ん? 早く、はないね……! 忘れずに!』
いつもと変わらず、目森の携帯から流れている、人気Vactor 東雲朱音の動画配信。
あまり詳しくない瑞希や真桐でも、一度はなにかしらの動画を見たことはある程度には、知名度のある人だ。
「そういえば、陽、バーコード集めてたよね?」
「ちゃんと送ったよー新規イラスト描きおろしみたいだから、倍率ヤバそうだけど……」
もうその目が、きっと当たらないんだろうなぁ。ということを確信していた。
気持ちが、始まる前から負けている。
「このイラストレーターの人なんだけどねぇ……かわいいよね」
カバンにつけている、いくつかの缶バッチを指さしている。
「この人の描く、耳とか尻尾とか、マジかわいい……モフ感溢れる。埋もれる」
「な、なるほど……?」
とりあえず、好きということしか理解できないが、満足そうに頷いている目森に、瑞希も携帯の画面の、赤いカントリー系の女の子に、視線をやる。
白亜の話では、Vactorとは別に、中の人が有名な人だと予想していた。
ただ、声を聞いても、やはり誰も思い当たらない。
「中の人? あ、でも確かに、コラボ配信の時に、コラボ相手がビビってるって言われてたことがあった気がする……ただ、身長高いから説が濃厚だった気が……」
Vactorの中でも、初期からやっている人であるため、色々中の人について、情報は出ている。
ただ、有名人というのは、目森も聞いたことがなかった。
「そういうのって、ネット上で繋げるだけじゃないの?」
「スタジオで一緒って時もあるよ。その時に、もうひとりの人が、小さかったから、アバターのズレがひどくてね。もう散々ネタにされてた」
相手が小さいのが問題なのか、実は東雲 朱音が高身長なのか。
結局、コラボの度に、低身長をネタにしているのが、コラボ相手の方だったため、東雲は『女性にしては高めの身長』という結論になっていたはずだ。
「んんーー……二十代前半くらいで有名ってなると、アイドルとか?」
「芸能人の二世とかもありそうだけど」
「それはもうわからない気がする……」
「確かに……」
「まぁ、Vは幻想でいいわけで、中身を知りたいわけではないから」
Vactorの中の人を知りたがる人が、一定数いるのは理解しているが、どうしても知りたいというわけではない。
むしろ、中身が知らないからこそ、純粋に楽しめる部分も多い。
「白亜は?」
「キツネさんは、前提が色々おかしかったじゃん!?」
目森は、中の人を考察するようなタイプではないが、だとしても、まさか現実に、耳や尻尾が生えている存在がいるなどとは思っていなかった。
常識の外側にいる存在を、誰が想像できるというのか。
「むしろ幻想を壊さな過ぎて、びっくりしたよ!! もう一生、推す……!!」
「なんだろ、友達から、身内をずっと推すと言われる、この気持ち……」
少額とはいえ、”賽銭”という名のお布施をされて、それが自分の家計に入っていると思うと、申し訳なさがある。
「大丈夫だよ。白亜さんのことだから、陽が高額賽銭したら、さすがに止めるって」
「わりと、しれっと懐に仕舞いそうな気がするんだよなぁ……」
口にしたら、瑞希に一言言われそうなことは、そっと隠すか、はぐらかす気がする。
配信を確認している限りは、瑞希自身も気が付くことはできるだろうが、その辺り、白亜の方が上手な自覚がある。
「ん……?」
白亜のことについて、色々言い分けをしている目森を傍目に、SNSを巡っていた真桐の目に、ふと入ったそのコメント。
「なんか、京都駅に馬がいるって」
「え、マジ?」
ここから見えるわけがないが、それでも見えるかと、瑞希と目森が窓に張り付いては、馬がいないかと道路を覗き見る。
「どのへーん?」
「いや、無理だって。さすがに」
京都駅には近いが、駅が見える程の距離ではない。
そもそも、コメントをしている人はいるが、写真はなく、場所だってわからない。
「馬なんだし、走ってるんじゃないの?」
「というか、この辺の動物園とかあったっけ?」
「どっかの神社で、小さい馬を育ててるんじゃなかったっけ?」
その馬を散歩させてるのかも。
目森が、そんな言葉を口にしては、三人は同じことに思い至り、そっと窓から顔を離す。
「使い魔の方でしたか……」
「そうだね。たぶん」
「回り切れないって消した場所にあったね……馬のところ」
そこの使い魔かはわからないが、少なくとも写真がないのは、例の術のせいだろう。
「にしても、便利だよね。公園でダンス動画撮る時とか、通行人にモザイクかける手間なくなるじゃん。人間でも使えたりする?」
「教えてもらえば、誰でも使えるよ。それこそ、昔からの術の応用だって言ってたし」
”狐の窓”という、有名な姿を隠している妖怪の姿を暴く術ができた理由も、元はといえば、姿を隠している妖怪がいたからだ。
その姿を隠す妖怪が使っていた術が、写真に写らないようになる術の原型だ。
瑞希も、その術については、すでに教わっているし、できなくはない。
「そもそも、陽は術とか使えないでしょ」
「わかんないじゃん! やってみないことには!」
霊力というものは、少なからず人には備わっているものだから、目森も練習さえすれば、使えなくはないだろう。
「ねぇ!?」
ただ、悪意はなくても、ろくな使い方をしそうにない。
「そうだねぇ……」
「ダメそう!?」
頬を膨らませている目森に、瑞希も苦笑いを溢すしかなかった。
ちなみに、戻ってきた白亜にも、同じことを言っていたが「センスなさそう……」の一言で終わった。




