37話 長年過ごせば、人の見分けもつく(後編)
「映ってない!?」
一緒に撮ってもらったはずの写真には、黒いモヤみたいなものがかかっていたり、そもそも姿が消えていたり、とにかく使い魔の姿は映っていなかった。
「夜にストーリーで上げようと思ってたのに……!?」
「だからじゃない……?」
悪気がないのは、向こうも察していたのだろう。
だからといって、一緒に撮る許可を出した上で、カメラに写らない術を解かないのは、性格が悪いとは思うが。
きっと、白亜はそれに気が付いていたのだろう。
だから、止めてきたのだ。
「…………」
「波奈?」
目森と同じように、携帯を見ている真桐は、不思議そうな表情でその画面を見つめていた。
「あ、いや、みんなで撮った、ほら、この写真だけ、ちゃんと写ってるから」
それは、晴明神社で撮った写真だ。
前鬼と後鬼の姿もしっかり映っている。
「白亜さんが解いてくれたとか?」
撮影したのは、白亜だ。
もしかしたら、カメラに写らない術を解いて、撮影してくれたのかもしれない。
「できなくはないと思うけど……でも、これたぶん……」
白亜が術を解いたわけではなく、おそらく、前鬼と後鬼のふたりが、自ら解いてくれたのだと思う。
そもそも、真桐が他の神社の写真を撮っている時にも、目森とは異なり、使い魔に写真を撮ってあげようかと、声をかけられていた。
「なんで!?」
「人徳……?」
少なくとも、写真を悪用をしないタイプと思われたのだろう。
「えー……!! 送ってぇ……ストーリーにはしないから、パパとママに見せたいぃぃ……!!」
「えーっと……そうだなぁ……やめとこうかな」
SNSにアップしないかもしれないが、きっと親だけではなく、友達や知人には、この写真を見せて回る事だけは、想像ができてしまった。
それはきっと、一緒に映ってくれた、ふたりの信用を裏切ることになる。
「こういうところだよ」
「何も言えねぇ……」
瑞希の言葉にしない『諦めろ』という言葉に、やけ酒でもするかのように、目森はジュースを一気に煽った。
「にしても……白亜さん、微妙に嫌われてなかった?」
どこの使い魔からも、どこか白亜は信用されていないような雰囲気があった。
険悪というほどではないし、白亜自身も、ケラケラと笑っていたし、彼ら風のコミュニケーションなのかもしれないが。
「やっぱり……?」
瑞希も少し不安そうに聞き返せば、目森も真桐も、正直に答えていいものかといった表情で、おずおずと頷いた。
「だよねぇ……私の勘違いじゃないよねぇ……」
もしかしたら、自分の勘違いかもとは思っていたが、全員が同じ印象を抱いていたなら、勘違いではない。
「あ、いや、でも、白亜さんが嫌われてるって感じっていうよりは、なんか、えっと……」
「『余計なことを言うな』って店長に睨まれてる感じ」
「普段、バイトでなにしてんの……」
「いや、アタシじゃないって! 社員が来た時に、変なことを言わないかって、そういう話!」
慌ててフォローこそしてくれるが、瑞希も薄々昔から感じていたのだ。
白亜が、昔から黒天を筆頭に、薄っすら使い魔たちから信用されていないよな。と。
「そうなの?」
「今はそんなじゃないけど、来たばっかりの時は、もっと黒天と、本格的な睨み合いをしてた気がするし……」
あまりに幼い時で、なんとなく覚えているくらいのことだが、今のような喧嘩ではなかった気がする。
それこそ、本当に切り合いでもするのではないかと、怖かったこともあった気がする。
「子睦も『狐だからなぁ……』で済ませることも多いし」
”妖狐”という存在自体が、好かれていないということか。
使い魔たちに聞いて回ったことはあるが、皆、要約すると『狐だから』にまとめられていた。
「『狐に化かされる』って言葉があるくらい、信用できないんだよ。とは教えてもらったけど……」
白亜と一緒にいて、そこまで化かされた。と思うほどのことは、今まではなかった。
決して、性格がいいとは思わないし、どちらかと言えば、悪戯が好き過ぎて困る部分は多い。
ただ、そこまで気にするほどでもないとは思う。
「外国人が、日本人はみんな忍者。って言う感じかね?」
「そういうことなのかなぁ……」
悪評なのは問題だが、あの悪戯好きの性格では、仕方ないかもしれない。
「でも、白亜さんって、昔から瑞希のところにいたんじゃないんだねぇ」
「いつだっけな……私が小学校に入る前くらいかな? そのくらいに、来たんだよ」
正直、当時のことは覚えていないけど、確かにその辺りに、白亜が来たというのは、覚えている。
「派遣的な? 稲荷神社って色んな所にあるし」
「うちはないんだよね……稲荷大社の分社」
だからこそ、本当に何故、白亜がやってきたのかは、瑞希もいまいちわかっていない。
本人に聞いても、「瑞希がおったから」なんて適当にはぐらかされてしまって、本当のところは聞けた試しがない。
一応、近くに、伏見稲荷の分社もあるから、本当のところは、そちらの管理を手伝っているのだろう。
「お、大人の事情ってこと……?」
「じゃないかなぁ……私も、巫女の仕事、全部やってるわけじゃないし」
瑞希が手伝える仕事は、祈祷などの安全な仕事が中心だ。
妖怪が関わる危険な仕事は、使い魔や紬希に任せてしまっている。
「そういえば、パパも、白亜さんの動画見せた時に、びっくりしてたもんなぁ……瑞希のとこの神社って、緊急連絡先なんでしょ?」
「妖怪災害のやつ? まぁ、一応、使い魔、5人いるし」
比較的、使い魔が多い神社に分類されるため、確かに妖怪災害の際には、連絡が来ることになっている。
制度が作られて以降、一度も使われたことはないが。
「悪い妖怪と戦う的なやつ!?」
まるでフィクションだとばかりに、目を輝かせている目森に、真桐も瑞希も、苦笑いになってしまう。
これが、敵意を持つ妖怪に会ったことがないのなら、この反応も理解できるが、肝試しの時に、身をもって怖い目にあったはずだ。
だというのに、これだけ目を輝かせられるのだから、
「本当にすごいね……陽は」
最早、感心する他ない。




