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転機

一章も転機!


ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございます!

「素振り100回、始め!」


訓練場に響いたアールの声に応えて、生徒達が武器を振る。

各々が自分の《職業》に適した武器を手に持ち、兵士達に扱い方を指摘されながら訓練に取り組んでいた。


その表情は真剣味を帯びているものの、決してつらそうではない。


それもそのはず、彼ら生徒達はこの1週間の訓練で急激な成長(レベルアップ)を遂げ、人生の中で最高の成功体験を得たからだ。


素人とは思えない剣捌き、常人とは比較にならない怪力、速くなった思考。

生徒達それぞれが、己にしかない長所をステータスの中に見いだし、自己顕示欲を満たしている。


数日前とは比べものにならない能力に、誰もが自信を持っていた。


そして、そんな生徒達の中でも、特に成長が早い者が2人。


そのうちの一方は言わずもがな、神崎龍次である。

異世界に来てからというもの、黒い感情を塗り潰すかのように訓練に励み始めた龍次は、格段に強くなっていた。


何かに取り憑かれたように兵士達と模擬戦を繰り返すことで、次のレベルアップへの必要経験値を直ぐに溜め、クラス内で最も早くレベル10に到達した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ステータス

神崎龍次 人族


聖剣術師Lv11


体力:68

魔力:68

智力:68

技量:68

敏捷:68

耐久:68


スキル:【聖剣召喚】【取得経験値増加】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


また、彼はレベル2へのレベルアップと同時に、スキル【取得経験値増加】を発現し急激な成長を遂げた。


今や、兵士達と同等かそれ以上の実力を持つ龍次だが、未だアール、ジークには勝てていない。


そして、もう片方は鈴川麗ーーではなく驚くべきことに、三坂豪だった。


龍次の腰巾着であった彼は、異世界に来てもその素行の悪さは変わりなく、メイドに手を出そうとしたり、対戦相手を煽ったりと、担任の碧が頭を抱えることばかりだった。


しかしどういう訳なのか、努力の欠片も見られない彼のステータスは伸びており、今や生徒達の中で唯一龍次と渡り合えるまでになっている。


今も、訓練場内で自分より弱そうな兵士を選んでは模擬戦を申し込み、力を誇示していた。


「おらっ、どうだぁ!」


派手な色をはためかせながら、倒れた兵士に止めだと言わんばかりに右ストレートをお見舞いする。


「こ、降参です、、、」


兵士は数m吹き飛び、地面に倒れた後、今にも消え入りそうな声で負けを認める。


「あぁ?聞こえねぇなぁ?」


そう言って、黒くオーラを纏った足で追撃をしようとする三坂。

明らかにルール違反、常識に背く行いだが、止めに入れる実力者はそうそういない。


「もうやめようぜ、豪。兵士さんが可哀想だ」


生徒達が気まずそうに見つめる中、声をかけたのは龍次だ。

嘲りにも聞こえる声のトーンから、"可哀想"なんて感情は伝わってこない。


「えぇ、味気ねぇな」


渋々と振り上げた足を戻し、龍次の方へ向く三坂。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ステータス

三坂豪 人族


蹴術師Lv8


体力:54

魔力:36

智力:36

技量:36

敏捷:36

耐久:54


スキル:【部位硬化】【取得経験値増加】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


見せびらかすようにステータスを見始めた三坂は、ふと、訓練場の端へ目をやる。


そして目尻を下げ、面白いものをみたような表情で目の合った彼に話しかけに行った。


「創也くん、そんなに見つめてどうしたのかなぁ?」


その声は勝ち誇り、自信と自尊心に溢れていた。

つい数日前面白くない思いをしたからか、三坂の創也に対する態度は日に日に悪くなり、暇さえあれば、こうして創也を煽るようになっていた。


「ところで創也くぅん、レベルは上がったぁ?」


覗き込むようにして創也に顔を近づける三坂。

最初は無視を決め込んでいた創也だったが、何度も聞く三坂に痺れをきらして、ステータスオープン、と唱える。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ステータス

天原創也 人族


朧術師Lv1


体力:20

魔力:20

智力:35

技量:40

敏捷:20

耐久:20


スキル:【操朧】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そこに現れたのは、初日と何も変わらない創也のステータス。


レベルはおろか、スキルすら発現しない創也は明らかにこのクラスの落第者だった。


模擬戦闘での怪我から、訓練を始めるのが数日遅れた創也だったが、周りと同じ(・・)ことをしているはずなのに、一向に上がる気配のないステータス。


「あぁ、上がってなかったかぁ。可哀想に」


嘲ると同時に三坂の右手が動き、創也の額へとのびる。

疑問を感じるも、状況が理解できない創也。


「まぁまぁ、頑張りたまえよぉ」


ぐしぐし、と頭を無理矢理撫でられたことで嗤われたのだと気づき、咄嗟にその右手を掴もうとするも、成長した三坂の速度には追い付けない。


あっという間に躱され、クラスの輪の中へ戻って行ってしまった。


頭から急激に血が下がり、一気に意識が冷める。

冷静でない自分に憤りを感じながら、改めて余裕のなさを思いしらされた。


異世界で生き抜くのに必要なのは強さ、賢さだ。

そう解っていたはずなのに、今の創也は強さがないことを言い訳に賢さまで失っている。


《朧術師》の力をもってすれば、三坂を殺すことは造作もないだろう。

しかし、能力が可視化されたこの世界では、実力だけでなく能力で評価が決まる。

表示された黒い数字だけで、序列が変わる。


レベル至上主義、その言葉が身に染みる。


ステータスの初期値が良くとも、【スキル】が強くとも、レベルが高くなければ認められない。


曇り空を見上げ、息を吐く。吐き終わったところで目を閉じ、数秒経ってから大きく息を吸い込む。


ーー冷静に、思考を止めるな


そう自分に言い聞かせる創也の表情は、これまでになく厳しかった。



次回の更新は明日の21:00です。

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