69. 17歳、遺伝子適合者
「アクシオス、ちょっと待って」
アクシオスは開いた扉を通り、通路をどんどん進んで行く。罠があるとか、そんな発想はないのだろうか?
さっきまでいた空間と明らかに違う。照明の明るさが違う。さっきいたところは、常夜灯くらいの明るさだ。夜目が利かないと暗くてよく見えない。だが、いまは昼間くらいの明るさだ。
床に埃などが溜まっていない。温度も湿度も先ほどとは違う。空調が動いている。
つまり、遺跡が遺跡じゃない。
稼働している。
とても嫌な予感がする。
「おっ、おい。床が動くぞ」
歩く歩道となっている。アクシオスの動きに反応したのだろう。左側が奥に進むように回っている。右側は止まっている。逆方向に動けばセンサーが反応して動き出すかも知れない。
私は、左側のレーンに乗ってから、右側のレーンに移り、来た道を引き返すように歩いてみた。
右側のレーンも動き始めた。
間違いない。センサーが生きている。
「アクシオス、危険だと思う」
「なに言ってるんだよ。生きている遺跡だぜ。魔導具の取り放題だ。これで俺は姫との結婚間違いなしだ」
アクシオスは完全に浮かれている。別に歩かなくても勝手に歩く歩道が私たちを奥へと誘ってくれるのに、その上を走っている。
たとえば、言霊、『ΚαΩν』だ。対象を温める精霊術である。そして、発音は、「カオン」だ。加温、ということだ。
物体を水で洗う精霊術の言霊は、『ΣυιΣεν』だ。発音は、「スイセン」だ。『水洗』とも取れる。
偶然かと思っていた。
だけど、あの扉に書いてあったのは間違いなく日本語だ。漢字、平仮名、カタカナ、全部あった。
偶然とはもう言えないだろう……。
「エステル! また扉だ! なんだよ、なんにも無かったじゃないか」とアクシオスは怒っている。何も魔導具を回収していないから怒っているのだろう。いや、興奮し過ぎているのだろう。
私は嫌な予感に支配されていた。
私が考え込んでいる間に、どうやら辿り着いたみたいだ。目の前にはまた扉。
『中央司令室』、と書かれいている。
「エステル、さっきどうやって開けたんだ? それでまた開かないのか?」
アクシオスは扉を叩いたり、スイッチのようなものを適当に触ったりしている。だけど、これはさっきのような扉の仕組みじゃない。
さっき開けたのは、緊急時に閉鎖する扉だったのだろう。非常用設備だ。だから誰にでもやり方さえ分かれば開けることはできた。
だけど、この扉は違う。
「多分、この場所一差し指を出せば、開くかも?」
パネルによってチェックをする仕組みだ。大きさと形状から推測すると、指紋だろう。
「じゃあ、やってみる……——『プシュ』——痛っ……」
「大丈夫?」
「あっ、でも大したことない」
『ERROR 遺伝子適合エラー』と赤く点滅している。
「何て書いてあるんだ?」
アクシオスが興味津々に尋ねる。
「この扉を開けられる人と、開けられない人がいるみたい」と私は答える。
遺伝子は、グレゴール・ヨハン・メンデルがエンドウマメの表現型から有性の法則など、いわゆるメンデルの法則を発見したことに端を発する。そしてその後、DNAを構成する分子がの塩基、つまりアデニン、チミンが同じだけ存在し、グアニンとシトシンが存在することが発見され、DNAは二重螺旋構造であることが証明される……なんてことを説明してもしょうがない。
問題は、扉のロックを解除できないことである。
「エステルも試してみたら?」
「無駄だよ」と私は答える。
どこの遺伝子配列で判別するシステムなのかは分からないけれど、同じ指紋の人がいないし、変えることができないのと同様に、遺伝配列も特徴があり、そして後天的に変更することは難しい。
適当にやって、適合して、扉が解除されるような簡単な物ではない。
「いいからさ」とアクシオスは私の手を取る。
「無駄だって……」
『遺伝子適合確認……扉を解除します。黄色い線の外側までお下がりください』
間違いなく、日本語のアナウンスだ。
「なんて言っているか分からないけど、優しそうな女性の声だな」とアクシオスが、アナウンスの声に対して、暢気な感想を述べている。
普通に考えたら……開かないはずだ。なぜ? それに……ここは日本?
一応、プロローグに伏線があったり……。やっと回収……。




