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世界樹と生きる  作者: 池田瑛
第2部 軌道エレベーター『コスモス・ツリー』
70/73

69. 17歳、遺伝子適合者

「アクシオス、ちょっと待って」


 アクシオスは開いた扉を通り、通路をどんどん進んで行く。罠があるとか、そんな発想はないのだろうか?


 さっきまでいた空間と明らかに違う。照明の明るさが違う。さっきいたところは、常夜灯くらいの明るさだ。夜目が利かないと暗くてよく見えない。だが、いまは昼間くらいの明るさだ。


床に埃などが溜まっていない。温度も湿度も先ほどとは違う。空調が動いている。


 つまり、遺跡が遺跡じゃない。


 稼働している。


 とても嫌な予感がする。

 

「おっ、おい。床が動くぞ」


 歩く歩道(ムービングウォーク)となっている。アクシオスの動きに反応したのだろう。左側が奥に進むように回っている。右側は止まっている。逆方向に動けばセンサーが反応して動き出すかも知れない。


 私は、左側のレーンに乗ってから、右側のレーンに移り、来た道を引き返すように歩いてみた。


 右側のレーンも動き始めた。


 間違いない。センサーが生きている。


「アクシオス、危険だと思う」


「なに言ってるんだよ。生きている遺跡だぜ。魔導具の取り放題だ。これで俺は姫との結婚間違いなしだ」


 アクシオスは完全に浮かれている。別に歩かなくても勝手に歩く歩道(ムービングウォーク)が私たちを奥へと誘ってくれるのに、その上を走っている。


 たとえば、言霊、『ΚαΩν』だ。対象を温める精霊術である。そして、発音は、「カオン」だ。加温、ということだ。

 物体を水で洗う精霊術の言霊は、『ΣυιΣεν』だ。発音は、「スイセン」だ。『水洗』とも取れる。


 偶然かと思っていた。


 だけど、あの扉に書いてあったのは間違いなく日本語だ。漢字、平仮名、カタカナ、全部あった。


 偶然とはもう言えないだろう……。


「エステル! また扉だ! なんだよ、なんにも無かったじゃないか」とアクシオスは怒っている。何も魔導具を回収していないから怒っているのだろう。いや、興奮し過ぎているのだろう。


 私は嫌な予感に支配されていた。


 私が考え込んでいる間に、どうやら辿り着いたみたいだ。目の前にはまた扉。


『中央司令室』、と書かれいている。


「エステル、さっきどうやって開けたんだ? それでまた開かないのか?」


 アクシオスは扉を叩いたり、スイッチのようなものを適当に触ったりしている。だけど、これはさっきのような扉の仕組みじゃない。


 さっき開けたのは、緊急時に閉鎖する扉だったのだろう。非常用設備だ。だから誰にでもやり方さえ分かれば開けることはできた。


 だけど、この扉は違う。

「多分、この場所一差し指を出せば、開くかも?」


 パネルによってチェックをする仕組みだ。大きさと形状から推測すると、指紋だろう。


「じゃあ、やってみる……——『プシュ』——痛っ……」


「大丈夫?」


「あっ、でも大したことない」


『ERROR 遺伝子適合エラー』と赤く点滅している。


「何て書いてあるんだ?」


 アクシオスが興味津々に尋ねる。


「この扉を開けられる人と、開けられない人がいるみたい」と私は答える。


 遺伝子は、グレゴール・ヨハン・メンデルがエンドウマメの表現型から有性の法則など、いわゆるメンデルの法則を発見したことに端を発する。そしてその後、DNAを構成する分子がの塩基、つまりアデニン、チミンが同じだけ存在し、グアニンとシトシンが存在することが発見され、DNAは二重螺旋構造であることが証明される……なんてことを説明してもしょうがない。


 問題は、扉のロックを解除できないことである。


「エステルも試してみたら?」


「無駄だよ」と私は答える。


 どこの遺伝子配列で判別するシステムなのかは分からないけれど、同じ指紋の人がいないし、変えることができないのと同様に、遺伝配列も特徴があり、そして後天的に変更することは難しい。


 適当にやって、適合して、扉が解除されるような簡単な物ではない。


「いいからさ」とアクシオスは私の手を取る。


「無駄だって……」


『遺伝子適合確認……扉を解除します。黄色い線の外側までお下がりください』


 間違いなく、日本語のアナウンスだ。


「なんて言っているか分からないけど、優しそうな女性の声だな」とアクシオスが、アナウンスの声に対して、暢気な感想を述べている。


 普通に考えたら……開かないはずだ。なぜ? それに……ここは日本?

一応、プロローグに伏線があったり……。やっと回収……。

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