68. 17歳、地下鉱山探索に出かけよう
アクシオスは結婚をする時期であるらしい。そして、『土と火の精霊に愛された民』の男は、結納品を持参して結婚を申し込むというのが風習なようだ。
結納品は、『土と火の精霊に愛された民』の家業である地下鉱山から発掘された物を納める。
鰹節とかがあるなら私も出汁として欲しいと思ったけれど、『土と火の精霊に愛された民』の結納品は金属などが主である。
そして、アクシオスの想い人は、『土と火の精霊に愛された民』の中でも地位が高い、族長の娘。珠よ、花よと育てられたたいそう美しい娘なそうな……。
だけどライバルが多い。結婚を申し込みたい男が多いのだ。
まぁ、族長の娘で、お姫様って呼ばれているくらいだから人気なのだろう。当然の話のように思う。
そして、求婚する相手が複数人いる場合は、結納品の価値で決まる。より貴重な結納品を持参した男と結婚するらしい。
「ちょっと、アクシオス。ストップ」と悔しそうに説明するアクシオスの話に割り込む。「『土と火の精霊に愛された民』は自由恋愛じゃないの? その仕組みだと、金塊を積んだ男と結婚するように聞こえるよ?」
「いや、違う。相思相愛ってやつだ。貴重なものを結納品に出来るってことは、地下の奥深いところにまで行ける勇敢で実力のある男ってことだ。『土と火の精霊に愛された民』の女は、勇敢な男が好きなんだ」
なるほど。強い男かどうかの判断基準が結納品ということなのだろう。男の甲斐性が、鉱山から持ち帰ってくる品で決まる。
「でも、それでさっきのヨラムって人は、アクシオスよりも凄い結納品を用意したんでしょ。つまり、アクシオスが男として負けたってことなんじゃ……?」
「違う! 俺の結納品が一番だ! だけどアイツは、地位を利用して他の男たちにも協力させて地下に行くんだ。大人数で行くなんて卑怯だ!」
アクシオスは自分の髭を引っ張りながら言った。
「一人で取りに行かなければならないってルールはあるの?」と私は反論してみる。
「ない……」
アクシオスは力なくしょんぼりとした。
「ヨラムさんの作戦勝ちってことかぁ〜。一人で出来ないことを他の人たちと協力して成し遂げるってことも、実力のうちなんじゃないかな〜」
「男なら、どこまで深く潜れるかだ!」
「それはアクシオスの個人的な意見でしょ? 姫様はどう考えているの?」
地下鉱山とかそもそも、一人で潜るようなものではないように思える。
「うっ。今は、ヨラムの結納品が一番ってことになっている。あと三日後には結納の受付が終わる」
「時間がないってことね」
「だからエステル……手伝ってくれ!」
「いやいや、それって誰かの力を借りるって、結局、ヨラムさんと同じってことじゃない?」
アクシオス、結局誰かの力を借りるんじゃん!
「昔、助けてくれたエステルなら助けてくれるだろ? この里の仲間たちは、ヨラムが手をまわして俺を助けないように言われている」と小声で言う。
そういうことか、と私は思う。
オルパさんとアベルさんの六花を採るのを手伝った。それに私は自分の分の六花を急いで採らなければならないということでもない。そもそも、世界樹に住むエルフには、私とオルパさんとアベルさん以外は結婚できる独身はいない。そしてオルパさんとアベルさんは六花を交換して結ばれた。だから、私が六花を採るのは数年先でもいいのだ。
きっと、Τιγριςに世界樹から落とされて、この里に墜落したのも何かの縁なのだろう。
「分かったよ。手伝うよ」
それに、地下鉱山ってなんだかおもしろそうなんだよね。せっかくドワーフの里、『土と火の精霊に愛された民』の里に来たなら、地下にも行ってみたい。
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「って、意外と快適なのね、地下鉱山って」
「あぁ。夏は地上より涼しいくらいだ」
私とアクシオスは、その日のうちに食料や道具などを準備して、鉱山へと入っていたが拍子抜けだった。
地下鉱山と聞いて、どうも炭鉱のような、落盤しないように木で補強された細い穴を通っていくのかと思っていたら、快適な通路だ。
「ねぇ、このライトとかはどうやってついているの?」
「分からない。この辺りは土砂を取り除いただけで、もともとあった道なんだ」
「ふ~ん」と私は答える。
「つまらなそうだな」とアクシオスは歩きながら言う。
「まぁね」
なんだか冒険の香りがしたが、単なる地下通路を歩いているだけだ。照明も付いているし、ネズミすら出そうにない。
「この角を曲がると、きっと驚くぞ」
通路の長い曲がり角を抜けると、ジオフロントであった。ドーム状の地下空間に、町が一つ収まっている。ガラス張りの高層ビルがいくつも天井を支えるように建てられている。
「すごいね」
新宿とか池袋の高層ビル街をドームで覆って地中で埋めたような光景。地底にこんなものがあるなんて驚きだ。そして、地底なのに明るい。
「だろ? まぁ、あそこにあるものは取りつくして外側しか残ってないんだ。昔はすごい魔導具がたくさん採掘できたらしいんだけどな。ほら、エステル、先を急ぐぞ。もっと奥までいかないと何も取れないんだ」
どうやら、鉱山というより、遺跡なようだ。地下都市の遺跡から使えそうなものを探すことをアクシオスたちは発掘と呼んでいるような気がする。
「この鉱山というか遺跡は、『土と火の精霊に愛された民』のご先祖様が建設したの?」
「まさか。神魔大戦以前のものだそうだぞ。まぁ、詳しくはわからないけどな」
神魔大戦……最長老様が言っていたあの昔話か、と以前の私なら馬鹿にしていただろう。
たしか、神魔大戦によってエルフたちも甚大な被害にあい、聖霊術のための言霊の多くが失われた。また、以前は他の種族と交流を持っていたエルフが排他的になった原因でもあるらしい。
完全なおとぎ話だと思っていたけれど、実際にこんな地下都市があると、古代文明が存在したと認めざるを得なくなる。それに、アーサーの命を奪ったセリムさんの魔導具。ぶっちゃけるとエアフルトの街並みから想像するに人間の科学や医学の発展の度合いは中世をちょっと過ぎましたというような感じだった。そんな中で魔導具なんて作れるわけがない。『土と火の精霊に愛された民』も、おそらく魔導具を作ったり、こんな地下都市を作ったり現状ではできないような気がする。
アクシオスと私は、はしごとロープを使って深い穴の中へと進んでいく。四角形の穴がずっと地下まで続いている。この穴も人工的なものだ。固い金属で囲まれた穴だ。
「よし、ここで休憩できるぞ」
縦穴の底にたどり着いたようだ。
「ん? ここ行き止まりじゃない?」
穴の底まで降りたはよいのだけれど、これ以上進めそうな道がない。
「いや、ここに抜け道があるんだ」
アクシオスは、地面の取ってを引っ張るとパカリと蓋が開き、さらに下に四角い部屋が現れた。二メートル四方くらいの部屋。そしてその四角い部屋から通路が伸びている。
「こっから先は、またしばらく歩くぞ。飲み物飲むか?」
「ん、大丈夫。私も水筒あるし」
四角い部屋を眺めながら私は水筒の水を飲む。世界樹の葉を一枚入れてあり、麦茶のような味わいだ。
それにしても、この部屋といい扉といい、なんだかエレベーターみたいなんだよね。扉の横にスイッチっぽいのがついているし。どうも、私たちが降りてきたのは、エレベーターの昇降路で、私たちが休んでいるのがエレベーターのカゴの中のような気がしてならない。
「この部屋って動かないの? これ何かのスイッチっぽいけど」
「あぁ、動かない。実は、この穴の上部に魔導具が設置されていて、どうやらこの部屋を動かすものだったようなんだけど、それに気づかず里に持ち帰ってしまった。エステルも見ただろ? 里の真ん中の井戸の水を汲み上げるのに使っている魔導具がこの穴の上にあったやつだ」
たぶん、それ、エレベーターを昇降させるためのモーターだよね、きっと。
「もしそれが残っていたら、帰りに苦労してこの穴をまた登らなくてもよかったんだけどなぁ」
アクシオスが残念そうに言う。まぁ、この長い縦穴を登るのは大変である。それにこの遺跡から持ち帰った重量のあるものを背負って登るのは体力を消耗するはずだ。
「さて、先に進むか」
さらに私たちは通路を進む。地下都市があり、さらにそこから深い場所へと行く縦穴のその先。
より地中深くにあるってことは、映画とかでいえば、より重要な施設かなにかがあったのか、それとも地下都市の人たちの逃げ込むシェルターがあるというのが相場であろう。
「ここを右だ」
T字路にたどり着いた。私たちは、真っすぐにいかず右に曲がるらしい。
「って、アクシオス、この扉は?」
T字路かと思いきや、扉がある。本来は十字路なのではないだろうか?
「その扉は気にしなくていいぞ、開かないし、壊せない。きっと飾りの扉で、扉の絵が描かれた壁だろうというのが見解だ」
いや、飾りの扉って……。壁に扉の絵を描くって……。
アクシオスは素通りするけど、この扉、めちゃくちゃ怪しい。というか、この地下の遺跡の構造から行って、この扉の先に重要なものがありそうだけれど。
ん?
「ねぇ、ここ誰も開けたことがないなら、すごいものが眠っているんじゃない?」
「まぁ、扉だったらな。だが、多くの人が試して開かなかったぞ。魔導具でこじ開けようとしたけど駄目だったと聞いている。俺たち二人じゃどうにもならないさ。先を急ごうぜ」
「ちょっと待って!」
私は、扉の上についているランプの色が赤色から緑色なるまで左のボタンを押し続ける。
ランプの色が緑色になった。そして、その後に『開』と書いてあるボタンを押す。
シューという小さな音と共に、扉が開いた。さらに通路になっているようだ。T字路ではなく十字路だったようだ。
「え? 開いた? 大発見だよ、エステル!」
アクシオスは驚いているが、どうしてみんな気づかないの? って感じだ。
「だって、扉の開け方、ここに書いてあるじゃん。ここに! ほら!」と私は開いた扉の横の壁を指差す。
私は、書いてあるとおりに操作しただけだ。
『扉を開けるには、気圧平衡が必要です。左のボタンを扉のランプが緑色になるまで押し続けてください。その後、開閉ボタンを押してください。
*気圧が平衡になるまで扉は安全のため開きません』
「エステルは、古代文字が読めたのか!」
なんだかアクシオスから尊敬の眼差しを感じる。私のことを見直したのだろう。だけど、そんなに目を見開いて見られると恥ずかしい。
「アクシオス、驚きすぎ。だって、この文字、日本語じゃん?」
「日本語?」
「そう、日本語……」
ん? あれ? どうして日本語なのだろう? 偶然……? そういえば精霊術も、漢字の音読みなんだよね。
アクシオスが開いた扉から通路に一歩足を踏み入れると、天井のライトが灯った。自動で点くのだろう。そして、「エステル! とりあえず入ってみようぜ! きっとお宝が眠っている!」とアクシオスが言った。
*「神魔大戦」という用語は、17話とかに出てきています。
あれ? 「神魔大戦」っなんだったけ? という方向けの後書きでした。




