第2話
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少年は鏡の前に立ち、何度も襟元を整えていた。
一度目。
二度目。
三度目。
どう見ても違いなんてないのに、それでも気になって、いちばん上の皺をもう一度指先で押さえた。
「人に会うだけでしょ」
後ろにいた少女が、少し呆れたように言う。少年は振り返らなかった。
「だからこそ、ちゃんとしておきたいんだ」
「どうして?」
「だって……」
少年はそこで一度、言葉を止めた。鏡の中の少年は、俯いている。
「最初にがっかりされたら、たぶん次はないから」
――『地図のない遠くへ』
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【天津15:56/東京16:56】
午後四時まで、あと四分。陳汪瑶はもうイヤホンをつけていた。
寮の部屋は、決して静かではない。右隣のルームメイトはゲームの真っ最中で、マウスとキーボードを叩く音が絶えず響いていた。ドアの近くでは動画を見ている者もいて、ときどき笑い声まで聞こえてくる。
その中で、陳汪瑶の机の前だけが妙に静かだった。
パソコンの画面には日本語辞書のほか、あらかじめ用意しておいた自己紹介の文章も開かれている。
スマートフォンはキーボードの横。陳汪瑶は十数秒おきに、画面を確認していた。
【15:57】
イヤホンをもう一度確認する。
【15:58】
チャット画面を開く。
【15:59】
また閉じる。
「……なんで面接みたいになってるんだ」
小さく呟く。
陳汪瑶が日本語を勉強し始めてから、もうそれなりに時間が経っていた。文法書もかなり読んだし、N3レベルの内容ならだいたい理解できる。アニメやライトノベルに出てくる簡単な文も、ほとんどは読める。
問題は――読めることと、実際に話せることは、まったく別だということだった。ましてや、相手は本物の日本人だ。
しかも昨日知り合ったばかりで、いまいち性格の掴めない日本人。
そもそも……相手はどんな人なんだろう。
アイコンは一羽の鳥。アカウント名は「雨宮さん」。
チャットではかなり明るい。歯磨き中に送ってしまった音声をわざわざ保存したり、授業中には堂々と自分もスマートフォンをいじっていたりする。
どう考えても、話しづらいタイプには見えない。
それでも……陳汪瑶はやっぱり少し緊張していた。
スマートフォンの画面が明るくなった――着信だ。
反射的に、背筋が伸びた。
スマートフォンが二度震える。三度目を待つ前に、陳汪瑶は通話ボタンを押していた。
イヤホンの向こうは、ほんの一瞬だけ静かだった。そして――文字から想像していたよりも、ずっと弾んだ女の子の声が聞こえてくる。
「もしもし?」
陳汪瑶は一瞬固まった。
……かわいい声だ。
そう思った瞬間、はっとする。
――何を考えてるんだ、僕は。
「こ、こんにちは!」
思っていたより、声が一段高くなった。
電話の向こうで、雨宮はスマートフォンを少しだけ耳から離し、ぱちりと瞬く。
それから、堪えきれずに口元を緩めた。
「いいですね……」
「え?」
陳汪瑶は戸惑った。相手はもう一度、今度も自然な速さで言った。
「発音、思ってたより悪くないですね」
「……」
陳汪瑶は黙った。「発音」は聞き取れた。「悪くない」も分かった。その間にも何か言葉があった気がした。
でも、全部つなげると……分からない。
雨宮も、すぐにそれに気づいたらしい。
「听懂了吗?」
<……分かりました?>
突然、少しぎこちない中国語に切り替わる。陳汪瑶はほっと息をついた。
「分かりませんでした」
「素直ですね!」
「すみません……」
「なんでまた謝るんですか」
雨宮はそれ以上からかわず、さっきの一文をもう一度繰り返した。今度は、明らかにゆっくりと。
「発音、思ってたより悪くないですね」
今度こそ、陳汪瑶にも意味が分かった。
「あ……ありがとうございます」
「だから、そんなに緊張しなくていいですよ」
「緊張してません」
「うそ」
「……」
「声、震えてますよ」
陳汪瑶は黙って、机の端に置いていた手を引っ込める。そこで初めて、自分の指がずっと小さく机を叩いていたことに気づいた。
電話の向こうで陳汪瑶が急に黙り込んだのを聞いて、雨宮はたぶん図星だったのだと察した。
「じゃあ、改めて自己紹介しましょうか?」
「はい」
そう答えてから、陳汪瑶はふと一つ思い出した。
天津。天津って、日本語でなんて読むんだっけ。
慌てて通話をバックグラウンドに回し、辞書を開いた――パソコンにも辞書を開いていたことさえ、すっかり忘れていた。
【天津】てんしん。
……よかった。少なくとも、まったく思い出せなかったわけじゃない。
電話の向こうから、かすかな呼吸音が聞こえた。
「準備できました?」
「はい!」
返事が大きすぎた。陳汪瑶自身が一瞬固まったが、相手は特に突っ込んでこなかった。
「じゃあ、私から」
雨宮が軽く咳払いをする。声が少しだけ改まった。
「初めまして。東京に住んでいる雨宮七海です」
少し間を置いてから、
「よろしくお願いします」
陳汪瑶は、あらかじめ用意しておいた自己紹介にちらりと目を落とし、そのまま読み上げ始めた。
電話の向こうで、雨宮も最初は真面目に聞いていた。
「どうぞよろしくお願いいたします」
まで来たところで、わずかに眉を上げる。
「お会いできて光栄です」
まで聞くと、スマートフォンを少し耳から離した。
そして――「親愛なる……」
まで読み上げたところで、ついに手を上げた。
「ストップ、ストップ!」
突然遮られ、陳汪瑶はぴたりと止まる。
「え?」
「多すぎます!」
「何がですか?」
「『どうぞよろしくお願いいたします』の時点でもうかなり丁寧ですし、そのあとの『お会いできて光栄です』は、もっとこう……うーん……かしこまった場で使う感じです」
雨宮は笑いながら少し考えた。
「それに、今は電話してるだけで、まだ本当に『お会い』したわけじゃないですからね」
陳汪瑶は、ネットからそのまま書き写した自己紹介の例文に目を落とした。
「……騙された」
「ネットで探したんですか?」
「うん」
「やっぱり」
雨宮は顎に手を添え、ようやく原因が分かったように小さくうなずく。声には、まだ少し笑いが残っていた。
「あと、敬語も多すぎます」
「でも、日本人と初めて話すんだから、丁寧にしたほうがいいんじゃないですか?」
「それはそうなんですけどねえ」
雨宮は語尾を少し伸ばした。
「でも、それだとすごく距離がある感じがするんですよね」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「もっと普通に話せばいいですよ」
「普通?」
「うん。たとえば『初めまして、陳汪瑶です。よろしくお願いします』くらいで十分です」
陳汪瑶は真面目に繰り返した。
「初めまして、陳汪瑶です。よろしくお願いします」
「うんうん。そっちのほうがずっといいです」
「ありがとう」
「あと」
「ん?」
「敬語……しばらく禁止!」
「……え?」
電話の向こうで、雨宮は両手の人差し指を交差させて「×」を作った――もちろん、それが見えるのは本人だけだ。
「全部だめ!」
「なんで?」
「ずっとそんな話し方してたら、なんか机二つ挟んで話してるみたいだし。それに、日常会話を練習したいんでしょ? だったら普通体も練習したほうがいいよ」
「なるほど」
「だから今から、できるだけ普通に話してみて」
陳汪瑶は少し考える。
「わかりました」
「ほら、また」
「……わかった」
「よし!」
雨宮は満足そうにうなずいた。
「じゃあ話を戻して――天津、私知ってるよ」
「本当?」
「うん」
「冬になると、川にバシャバシャ飛び込む人がいるって聞いた。有名なんでしょ?」
陳汪瑶は数秒黙る。
「……どこでそんなこと知ったの?」
「ネット」
「なんでよりによってそれ……」
「だってインパクトあるじゃん」
電話の向こうで、雨宮は片手を上げ、空中で軽く動かした。
「冬で、氷点下で、それでみんなが――」
手のひらを下へ落とした。
「どぼん!」
「まあ、間違ってはいないけど……」
「本当に?」
「……たぶん、本当」
電話の向こうで、二秒ほど間が空く。
「中国人ってすごいね」
「天津人を中国人全体みたいにまとめないで」
「じゃあ、天津人ってすごいね」
「……それもやめて」
雨宮が吹き出した。陳汪瑶もつられて少し笑った。
さっきまでの緊張も、ようやく少し薄れてきた気がする。
「そういえば」
雨宮がふいに話題を変えた。
「『陳汪瑶』って、今まで見たことのある中国人の名前とちょっと違う感じがするね」
陳汪瑶の笑みが、一瞬だけ固まった。
「どこが?」
「うーん……普通は姓が一つあって、そのあとに一文字か二文字の名前が来るんじゃないの?」
「だいたいは」
「じゃあ、『陳汪』が姓?」
「違うよ」
「え?」
陳汪瑶は少し間を置いた。それから、できるだけ軽い調子で説明する。
「父の姓が陳で、母の姓が汪なんだ」
「じゃあ――」
「二人の姓をくっつけて、それに『瑶』を足した」
電話の向こうで、少し間が空いた。すぐに、七海が感心したような声を上げる。
「すごい!」
「すごい?」
「そんな名前の付け方もあるんだ。初めて知った」
声は、本当に楽しそうだった。
「なんか……お父さんとお母さんが、二人とも名前の中に入ってるみたい」
電話の向こうで、雨宮はその言い方が気に入ったらしい。東京の雨宮は紙の端に「陳汪瑶」と三文字を書き込んだ。
天津では、陳汪瑶はすぐには答えられなかった。
パソコンの画面に視線を向けたまま、しばらく目の焦点が合わないでいる。
数秒してから、ようやく小さく笑った。
「たぶんね」
「でも、その名前、日本人が初めて見たら絶対読めないよね」
「だから――」
陳汪瑶は、まるで前から考えていたみたいに先回りする。
「呼びやすいように、日本語の名前を使おうかな」
「日本語の名前?」
「うん」
「もう考えてあるの?」
「今からネットで調べる」
「適当すぎない?」
「ちょっと待って」
陳汪瑶は検索ページを開いた。
日本の男性名、よくある名字、名前の意味――検索結果が一気に画面を埋めていく。
しばらく眺めていたところで、ふと思いついた。
「決めた」
「早っ」
「雨宮八海」
電話の向こうで、雨宮が固まった。
スマートフォンを耳から離し、通話画面を見る。聞き間違いじゃないか確かめるように。
一秒、二秒……。
次の瞬間、机に突っ伏した。
陳汪瑶は急に不安になった。
「……だめ?」
その直後、イヤホンの向こうで盛大な笑い声が弾ける。
「はははははっ!」
陳汪瑶はイヤホンを少し耳から離した。
「そんなに笑う?」
「なんで『八海』なの!」
「だって……七海が七だから、その次に八をつけた」
「それで『海』まで取ったの?」
「日本人の名前っぽくない?」
「珍しすぎるよ!」
「え?」
「それに、『八海』を普通『はちみ』とは読まないからね。読むなら『はっかい』とか、『やつみ』とかじゃない?」
陳汪瑶の自信が、みるみる萎んでいった。
「じゃあ……やめる」
「待って待って」
雨宮はようやく体を起こした。
そのまま何か言おうとして、ふと止まる。
「待って、もう一個聞きたいことある」
「何?」
「なんで姓が『雨宮』なの?」
陳汪瑶は黙った。
「だって……」
電話の向こうの雨宮は急かさず、ただ静かに待っていた。
陳汪瑶はそこでようやく気づく。
雨宮……って、相手の姓じゃないか。
「……あ」
その声を聞いて、雨宮はようやくゆっくり口を開いた。
「気づいた?」
「ごめん」
陳汪瑶は反射的に答えた。
「ただ、雨宮って姓の響きがいいと思ったから、それで――いや、日本人って距離感をすごく気にするって聞いたことがあるし、勝手に人の姓を使うのって失礼だったりする?」
「気にするところ、そこじゃないよ」
雨宮は指先で机を二度、軽く叩く。
「……違うの?」
「違う」
雨宮は笑いをこらえた。
「よく聞いて、八海君」
「……八海君?」
「うん」
「もうそう呼ぶの?」
「面白いから」
「……まあ、いいけど」
雨宮はわざと少し間を置いた。
「問題は、『姓を借りたら失礼』ってことじゃないの」
「じゃあ何?」
「男の子と女の子が同じ姓だと――」
雨宮はそこでわざと止めた。通話時間を見ながら、何も言わずに数秒待つ。それから、ゆっくり続きを口にした。
「夫婦だと思われやすいよ」
八海は固まった。寮の中では相変わらずゲームの音が鳴っている。なのに、その瞬間だけは、周りが急に静かになったような気がした。
「あ……」
雨宮は何も言わない。
「あっ!」
ようやく気づいた。
「ぼ、僕、そういうつもりは全然ないから!」
電話の向こうで、雨宮は唇を軽く結んだ。
目にはまだ笑いが残っているのに、口を開いたときだけ、声が急に拗ねたようになる。
「えー」
「何?」
「そんなに急いで否定するほうが失礼じゃない?」
「え?」
「そんな勢いで否定されると」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「じゃあ、どういう意味?」
「それは……」
八海の言葉は、もうすっかりぐちゃぐちゃになっていた。
「ごめん、別のを考える」
雨宮はとうとう堪えきれずに笑い出した。
「はいはい、もうからかわないから」
「……」
「八海君が気にしないなら、『雨宮』でいいよ」
「本当?」
「うん」
「変じゃない?」
「もう十分変だから」
「……」
「それに」
雨宮の声が、少しだけ小さくなる。
「八海君、『雨宮』って姓の響きがいいと思ったんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、褒めてくれてありがとう」
八海は一瞬きょとんとした。
「……いいの?」
「なんで疑問形なの!」
雨宮はまた吹き出した。八海も少し遅れて笑い出した。
ついさっきまでどこかよそよそしかった通話も、いつの間にか、もうそれほど緊張するものではなくなっている。
笑いが収まったあと、雨宮がふと思い出したように言った。
「そうだ」
「ん?」
「午前中に送ってくれた小説、少し読んだよ」
八海は一瞬で背筋を伸ばした。
「本当?」
「本当」
言葉が早くなって、それにつられて日本語も少し乱れる。
「どう……どう感じますか?」
雨宮は少し間を置いた。
「こういうときは『どう感じますか』って言わないほうがいいかな」
「え?」
「完全に間違いってわけじゃないけど、ちょっと『どんな感想を持ちましたか』みたいな、かたい聞き方に聞こえるの」
「じゃあ、なんて言えばいい?」
「普通に『どうだった?』とか『どう思った?』のほうが自然だよ」
八海はすぐに繰り返した。
「どうだった?」
「うん」
「じゃあ……どうだった?」
電話の向こうで、雨宮はパソコンに表示された小説のページへ目をやった。
「うん、よかったと思うよ」
八海の目がぱっと明るくなった。
「本当?」
「うん。主人公とヒロインの関係がずっと進みそうで進まなくて、読んでてすごくもどかしかった」
「あ……」
「でも最後はちゃんと二人が一緒になったし」
雨宮の声が少し柔らかくなる。
「だから、最後まで読んだときは――よかったなって思った」
八海はすぐには返事をしなかった。けれど、口元はもう隠しきれないくらい緩んでいた。
「よかった!」
声が急に大きくなり、雨宮まで少し驚いた。
「お、おお……」
「ごめん」
「また謝った」
「……」
「でも、本当に嬉しそうだね」
「うん」
八海は机に視線を落とし、手をそっと握り込む。
たった一言、「よかった」と言ってもらえただけで、さっきまで胸の奥に沈んでいたものが、少し軽くなった気がした。
「でも……」
八海の笑みが固まった。
「……でも?」
「八海君が言ってたみたいに、日本語の部分を見るなら……やっぱり不自然なところは結構あるかな」
八海はさらに背筋を伸ばす。
「たとえば?」
「うーん……」
電話の向こうで、雨宮が少しページを探している気配がした。
「いちばん分かりやすいのは、話数表記かな」
「話数表記?」
「八海君、『第一百二十三話』みたいに書いてるでしょ?」
「うん」
「普通はあんまりそう書かないよ」
「え?」
「数字はそのままアラビア数字にすることが多いかな。たとえば『第123話』みたいに」
八海は固まった。
「……」
そんな簡単なこと?
投稿するために、あれだけいろいろ調べたのに。
なのに、そんなに目につくところすら見落としていた。
「ごめん」
「え?」
「今すぐ直す」
「待って、今じゃなくても――」
「すぐ終わるから」
「八海君?」
「ごめん」
「いや、だから謝ることじゃないって!」
八海はもうパソコンに向き直り、マウスを素早く動かして投稿管理画面を開いていた。
「第一話……第二話……」
「八海君?」
「ん?」
「本当に今直すの?」
「もちろん」
雨宮は数秒黙ってから、小さく呟いた。
「……真面目だなあ」
八海には聞こえなかった。
「何?」
「なんでもない――じゃあ、今日はこのくらいにする?」
「うん」
「また明日ですか?」
「うん」
八海は少し間を置いた。さっき、雨宮からもっと普通に話すよう言われたことを思い出し、今度は自分から言う。
「また明日」
電話の向こうで、ちょうど机の上の本を片づけていた雨宮の手が、ほんの少し止まった。
「うん」
もう一度、スマートフォンを耳元へ寄せる。
「また明日、八海君」
通話が切れた。
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【東京17:42/天津16:42】
雨宮は、すぐにはスマートフォンを置かなかった。
通話画面はもう消えている。それでも、数秒ほど画面を見つめたままだった。
雨宮八海。
その名前を思い出して、また少し笑ってしまった。
やっぱり、変すぎる。
普通、ネットで知り合った相手が「七海」だからって、自分の名前を「八海」にするだろうか。
しかも、姓までそのまま使っている。
でも……そこまで嫌でもなかった。
雨宮は机に突っ伏し、腕に顔を埋める。
しばらくしてから、もう一度スマートフォンを手に取った。
「私の中国語も、これからよろしくね」
送信。
返事は来なかった。
七海は数秒待った。
十秒、三十秒、一分。
「……」
さっきまでは、あんなにすぐ返してきたのに。小さくため息をつき、スマートフォンを脇に置いた。
「自分の小説のことばっかり……」
そう呟いた直後、スマートフォンが震える。
七海はすぐに顔を上げた。
「わかった!」
その下には、小説のURLまで添えられていた。
雨宮はリンクを開いた。
ページが読み込まれると、さっきまで全部漢数字だった各話の表記が、きれいにアラビア数字へ変わっていた。
第1話。
第2話。
第3話。
……
雨宮はもう一度上へスクロールし、通話の時刻を確認した。
――十数分前。
画面を見つめたまま、ゆっくりと体を起こす。
「……直すの早すぎない?」
しばらくページを見つめた。
「ほんと、変な人」
そう言って、また机に突っ伏した。つま先が、椅子の前で小さく揺れていた。




