第八話「まずはあの谷ですわ、おほほほほ」
ワカサギを釣りながらハルカは考えていた。
この湖がある盆地は道がしっかり整備されている。
まだ首都まで行ったわけでは無いが、第二都市デュアルタウンと首都ワイズシティの間の交通は普通に行き来できるのであろう。
この盆地で生産される農作物が、首都ワイズシティの胃袋を支えていると推測した。
となると、問題はあのこの世の終わりのような光景の谷である。
火山ガス回避用に一定の標高に徒歩用の道があった。
しかし谷底を移動中にいくつもの川が合流していたのを見たので、おそらくあの道はそういう谷では一度降りないといけないのだろう。
ヴォルフィンも「上り下りがある」と言っていた。
しかもそれが「木、根っこ、階段、天然」らしい。
四輪駆動魔道荷馬車(馬はいない)だとしても無理だ。
荒野用魔道騎乗馬(馬では無い)に乗ってウィリーしまくればあるいは…と思ったがハルカは昔の記憶でも二輪免許などは持っていなかった。
「ハルカ、楽しく無い、表情、無い」
「…おほほほほ?
ちょっと考えていたのですわ。
あのガスが溜まる谷、名前とかありますの?」
「名前、正しい、無い。
みんな、呼ぶ、地獄、谷」
「おほほほほ、地獄谷ってそのまんまですわね…」
ハルカの昔の記憶でも、そう呼ばれた場所はいくつかあった。
ただし行ったことはない。
とにかくあの徒歩用の道を、谷を跨いで移動できるように橋をかけるべきだ。
ただし橋桁がある橋では、工事中に作業員がガスで危険に晒されるし、ガスで橋桁そのものが腐食しかねない。
吊り橋が最適であるが、ワイヤーを吊る主塔を建てるのも一苦労では…。
結局次の宿場町まで魔道荷馬車(馬はいない)の中でずっと考え込んでいた。
車中、ヴォルフィンは釣ったワカサギが酸欠で死なないよう、筒でバケツにぶくぶくと息を吹き込んでいた。
その日の晩に泊まった宿で、ワカサギを天ぷらにしてもらった。
測量隊も初めて食べるワカサギの味には、ハルカが舌を輝かせていたのに納得した。
そしてハルカの更に盛られていたワカサギの中の1匹が異常に反っていた。
それを見たハルカはぼそっと呟いた。
「これですわ!
上路式吊床版橋ですの、おほほほほ」
バッカン用エアポンプ
釣って魚を新鮮なまま持ち帰るため、エラ呼吸で水の中の酸素を使い果たしてバケツの中で酸欠になり死なないよう、空気を送り続ける道具。
釣具屋で売っている。
熱帯魚の水槽をぶくぶくさせるのも同じ理由。
なお人間の呼気では二酸化炭素が多いのではと思われがちだが、実際には酸素と二酸化炭素の濃度は空気とそれほど変わっていない。
いや、そんな二酸化炭素だらけの呼気だったら人工呼吸が救命法にならない。




