第七話「湖ですわ、おほほほほ」
ハルカは結局5日間宿に滞在した。
仲居とだいぶ仲良くなった。
「ワカサギがとても美味でしたわ」
仲居はハルカには理解できない言語で返したが、微笑んでいた。
ハルカはスタッキア語も覚えようと最初は聞いた言葉の発音をIPA記号で手帳にメモしていたが、感情が通じたと思えた瞬間、バカらしくなって辞めていた。
「仲居、風邪、治った、良いこと、言ってる」
「ワカサギ、近く、湖、いる」
「わたくしからすると湖が居るのですけどね」
「やっぱり、頭、おかしい。
意味、理解、困難」
「アプリシアでは、海の魚しか食べませんの。
しかも一部の人だけですわ。
だから、魚がいる湖が居て、ちょっと嬉しいのですわ。」
青魚以外の魚が食卓に上らないアプリシアで育ったハルカからすると、ワカサギも鮎も昔の記憶依頼であったので、感慨深いものがあった。
しかし同時に、鉄轍を通す上での重大な障害でもある。
仲居と会話しながらも、ハルカの脳内では感情と理性が衝突していた。
仲居に丁重に礼を言い、宿を出た。
魔道荷馬車(馬はいない)を北上させる。
やがて、谷の中央を走っていた街道が、突き当たりにぶつかった。
「どっち行くんですか?」
魔道荷馬車(馬はいない)から降りて案内標識らしき記載を見るが読めない。
「湖、よける。
右、左、湖の先、合流、道、同じ。」
「おほほほほ、右ルートと左ルートですわね?
それにしても『青い看板』が無いと不便ですわね」
「湖、見る、細い、道、ここ」
ガイドがT字路の直進方向を指差す。
「ほとんど獣道ではありませんの」
と言いつつ藪を漕いで指差された方向へ進む。
「お前、やっぱり、変。
貴族、普通、嫌がる、この道」
「お前ではありませんわ…。
まぁ、変なのは認めますわ。」
「理解。
でも、私、ガイド、名前、違う、同じ」
「おほほほほ、失礼しましたわ。
わたくしはハルカですわ、そう呼んでくださいまし」
「私、ヴォルフィン、よろしく、改めて」
一行が湖に降りて数時間経過した。
しかし、これと言って調査などしていなかった。
小舟に乗って釣り糸を垂らしている。
バケツには櫛か千歯こぎのような物体が取り付けられ、釣り糸を通すと連れた魚がプチプチと音を立ててバケツに落ちていく。
「そんなにワカサギ美味かったんですか?」
「ええ、とても…」
「それ、寝込んでて腹減ってただけですよね?」
「おほほほほ……………?」
その間、魔道荷馬車(馬はいない)が街道で路駐されっぱなしで、地元民の好奇の目に晒されていた。
ワカサギ釣り
北海道とかで凍った湖に穴を開けて釣っている絵面が強いが、凍っていなければ船で釣れる。
釣れる季節は水温が低い時期である。
本編の山岳国でワカサギが釣れる時期…これから先の気候について嫌な予感しかない。




