第五話「盆地ですわ、おほほほほ」
LED作業灯で照らしながら削岩機で岩を除去し、前照灯を頼りに車列が峠の頂上にたどり着いた時には、既に深夜になっていた。
峠の頂上は先ほど通ってきた道の方は雲の上で、第二都市デュアルタウンの方は晴れている。
そして…。
「気温が低いですわ…。
ここ標高どれくらいですの?」
「なんか2301ポミュって書いてありますね」
「知らない単位ですわ…。
知ってる単位でも航空船舶以外でヤードポンド法とは仲良くしたくありませんけど」
ずぶ濡れになりながら露頭スケッチをして、そのまま移動していた上、標高がそこそこ高く気温が低く、風も吹いている。
「流石に寒いですわね…。
魔道荷馬車(馬はいない)に戻りますわ」
ハルカはそう言って魔道荷馬車(馬はいない)の中に戻ると、暖房を最大にして濡れた服を全部脱いで下着姿になっていた。
濡れた服はダッシュボードとシートの背もたれに広げて干してある。
「あのー…ガイドさん以外全員男性なんですけど…」
整備士が困惑している。
「貴族、違う、頭、おかしい」
「わたくしは宇宙人ですわ、おほほほほ」
「下着、さむい、毛布、かける」
ハルカが目を覚ますと毛布がかけられていた。
翌朝になって峠を下った。
登ってきた道より勾配は緩やかで、道幅も広く荷馬車同士の離合も容易、崖はあるものの転落防止用に金属の杭と麻縄が貼られた、ハルカの昔の記憶でも似たようなものの見覚えがある設備があった。
やがて道はわざと作ったと思しき連続カーブを抜け、平地に辿り着いた。
「ここ、デュアル盆地。
唯一、畑、ある」
昨日までの地獄絵図街道とは打って変わって、草木が生い茂り農地が広がる光景だった。
「あの山、高い。
ここ、ガス、来ない」
街道を見ると、盆地の先はまた谷になっているが、その先の平地の終端まで、緑が広がっている。
どうやらこの谷だけは平和らしい。
そして、その先の一際高い山から白煙が上がっていた。
「おほほほほ、『はかるぞ』から見た光景ですわね…。
あそこが温泉ですのね。
それにしても、上空からではこんな過酷な土地だとはまったく分かりませんでしたわ」
「とりあえず一休みしませんか?
運転士たちが限界です…」
「奇遇ですわね、わたくしも限界ですの。
多分風邪をひきましたわ」
「嘘つき、よくない。
変人、風邪、ひかない」
「それ、慣用句ですわよ!」
SI単位系
国際的な取り決めに従った単位。
メートル、グラム、秒など。
日本人は生まれた時からこの単位系で生活しているが、アメリカやイギリスなどはヤードポンド法の単位系だったりする(しかもアメリカとイギリスで違いがあったりする)
木曽谷
長野県から岐阜県に抜けるルートが通る細い谷。
ここに街も道路も鉄道も集中している。
島崎藤村が「木曽路は全て山の中」と言っているのは大袈裟ではなく事実である。
因みに島崎藤村は木曽路の宿場町の中津川出身。




