第三話「落石ですわ、おほほほほ」
数日後、待望の雨が降った。
測量隊は嬉々として魔道荷馬車(馬はいない)に乗り込み、魔法動力鍵を捻った。
しかし、宿場町を出てすぐに一行の顔が青ざめる。
少し考えれば火山ガスが溜まって通れるのは雨の日だけの街道が、まともに整備されているはずがない。
至る所に大破して放置された木製馬車の残骸が放置されていた。
中には軍用と思しき金属製の馬車の残骸が、硫化水素で真っ黒に腐食したものさえあった。
雨水はこの谷を作った川に流れ込んでいるが、一帯の水捌けはあまり良くない。
路面は粘土質らしく、ぬかるみが酷い。
「これでは荷車も通りにくいですわね…」
ハルカが心の内を漏らすと、整備士が答えた。
「四駆で助かりました…」
「……測量なんてできる環境じゃないぞ!」
「雨が降ってるうちにこの谷を抜けないと火山ガスで死ぬんだろ?
魔道馬車(馬はいない)じゃなかったら絶対嫌だぞ!」
やがて街道と呼ぶにはほど遠い光景から景色が変わり、一つの谷の終端にさしかかった。
一帯は扇状地のようで、先ほどと違って水捌けが良い。
その扇状地の一番奥の峠道の始まる手前に、次の宿場町があった。
「馬車、歩き、ここまで、1日。
普通、みんな、泊まる、ここ」
「おほほほほ、結構長かったですわね。
徒歩ではこの距離、雨の中ぬかるみで1日は大変でしょうに。
53個も宿場町がある街道って、非常に恵まれているのですわ…。」
その宿場町を通過して道路を登り始めると、今度は別の壁が立ちはだかった。
「おほほほほ、魔道荷馬車(馬はいない)を止めて露頭の観察ですわ」
峠道に差し掛かった上り坂だが、切り通しの断面に褶曲した地層の露頭が見える。
そして、その少し先には真っ直ぐな地層がほぼ垂直になっている。
「おほほほほ、力のかかり方がメチャクチャですわ!」
ハルカはクロノメーターを片手にずぶ濡れになりながらスケッチを始めた。
「あの人、貴族、本当?」
ガイドが整備士に疑問をぶつけた。
………ピシッ…
地層から弾け出した小石がハルカの顔に当たった。
「おほほほほ??」
しばらくして移動を再開したのも束の間……。
切り通しを岩が塞いでいた。
「落石注意の標識が必要ですわね!
おほほほほ」
青崩峠
峠の名前に「崩」という不穏な文字が入っている時点でもはや説明不要かもしれない。
長野県の大鹿周辺と静岡県の浜松周辺を結んでいる国道152号線が「国道であることを放棄した区間」が、青崩峠と地蔵峠周辺である。
この付近一帯、中央構造線やその周囲の断層帯による脆い地質で水が山を侵食してできた谷である。
戦国時代は武田軍にとっては一気に静岡方面へ抜けられる「直線ラッキー」な経路だったが、地質調査がなされた現代では普通に考えて「近づくな」である。
ここが国道指定されているのに、未成区間が存在するのは推してしるべし。
なお現在では青崩峠は三遠南信道路がトンネルで攻略している。




