第十四話「直進ですわ、おほほほほ」
ハルカは左折すれば温泉街という岐路で、迷わず直進した。
ヴォルフィンは「なんで?」という顔である。
整備士は「まぁ、この人はそういう判断するよね」と納得した顔であった。
この整備士はハルカが魔道荷馬車(馬はいない)を量産し、屋敷を始めベニー領内の領主直営企業で使われるようになってから以来の、お抱え整備士である。
ハルカがどんな宇宙人なのかは、整備士もよく知っていた。
その日は六合目の宿場町で夜を明かすこととなった。
宿場町の平場に魔道荷馬車(馬はいない)を停め、外に出た時、ハルカは見覚えのある紋章の入った荷馬車を見つけた。
その荷馬車が停められている宿に入ると、やはりハルカの知っている人物がいた。
「おほほほほ、お久しぶりですわ」
「ああ、やはりお会いしましたな、ベニー公爵令嬢…いや、未来の王太子妃」
「やはり?わたくしがここに来ることをご存知でしたの?」
ヴォルフィンは驚愕していた。
「ハルカ、王太子妃?
アプリシア、おかしい。
王太子も、おかしい」
それを見て整備士が苦笑いする。
確かにヴォルフィンが見ているハルカの普段の言動は、興味があるものに飛びつき、黙り込んだと思ったら次の瞬間には突拍子もないことを言い出すような意味不明な言動が多い。
だが、整備士も商人も、ハルカが冷静にヨシチェックのザル審査を適切に諌めた結果が婚約破棄だったことを知っている。
ハルカがただの奇妙奇天烈なネジの外れた脳みその人間ではないことを知っていれば、王太子の婚約者であることも納得なのだが…。
ヴォルフィンと出会って今の今まで、冷静だったのはボーリングで開けた穴が自己再生したときくらいしかないかもしれない。
…なので、やはり「おかしい」の評価は致し方ないことであった。
因みに整備士もこの人物は知っていた。
ハルカが5歳の誕生日を迎え発電所を作ると宣言した際に、何が必要なのかを丁寧に聞き出し、ほぼ要求通りのモノを納品した商人である。
発電所を機に商会は大きく発展し、ハルカが裏から法整備を進めた後はアプリシア商事と名乗った集団の、新規顧客開拓担当営業である。
魔道荷馬車(馬はいない)の部品もこの人が希望通りのモノをかき集めた。
田舎町からフサを連れてきたのもこの人だった。
名前をクレトップ・ツイストペアという。
「まずは再度のご婚約おめでとうございます」
「ハルカ、王太子妃、本当だった。
でも、『再度』の、意味、わからない」
「ところでハルカ嬢、温泉地の視察なら、道間違えてるが?」
「知っていますわ。
今は早く通信網を整えてコンテンツ産業の輸出をしたいのでしてよ」
「つまり?」
「早くワイズシティに電気通して映像技術を叩き込んで、アニメ化された作品が見たいだけですわ」
「まぁ、そうでしょうな。
私もハルカ嬢が温泉よりもまずは首都までの送電線と通信ケーブルの敷設を優先すると思って、電球とかルーターの売り込みに行こうとワイズシティを目指しておりましたからな。
はっはっは…」
「そうでしたの、おほほほほ」
「はっはっは」
「おほほほほ」
「はっはっは」
「おほほほほ?」




